①家名・苗字・氏(比較)

掲載:2023-09-15 執筆:坂田聡・三成美保

国際シンポジウム資料(2022年3月):坂田聡(講演)・二宮周平(講演)

【講演資料】坂田聡「姓から苗字へ―日本の家制度と家名の成立過程―」(2022年3月8日)

【講演資料】二宮周平「近代日本の家名~家制度の確立と氏」(2022年3月8日)

選択的夫婦別姓(三成美保)

【解説】夫婦の姓(戦後日本)

「姓」や「名字」のことを法律上は「氏」と呼ぶ。明治民法(1898年)では、「第746条 戸主及ひ家族は其家の氏を称す」と定められていた。

戦後日本では民法が改正され、夫婦同姓が法律で定められている。姓は、法律上は男女平等に夫婦で決めることができるが、実際にはほとんどが夫の姓を選ぶ。例えば、2021年には、婚姻届を提出した夫婦のうち約95%は妻が夫姓(年間約48万人)に改姓している(下記表を参照)。姓の選択は、法的には男女平等であっても、実質的(社会的)にはジェンダー不平等がある典型例と言える。1996年に民法改正要綱(下記資料参照)において、選択的夫婦別姓がまとめられたが、国会では通っていない。今日、世界で、夫婦同姓を法的に強制するのは日本のみである。

【参考】日本民法(氏に関する条文)

(夫婦の氏)
第七百五十条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。(コメント)法的には完全平等

(民法改正要綱案)夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする。

(生存配偶者の復氏等)
第七百五十一条 夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる。
 第七百六十九条の規定は、前項及び第七百二十八条第二項の場合について準用する。

(離婚による復氏等)
第七百六十七条 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から三箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。

(子の氏)第七百九十条 
嫡出である子は、父母の氏を称する。ただし、子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏を称する。
 嫡出でない子は、母の氏を称する。

(子の氏の変更)
第七百九十一条 子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる。
 父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には、子は、父母の婚姻中に限り、前項の許可を得ないで、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父母の氏を称することができる。
 子が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、前二項の行為をすることができる。
 前三項の規定により氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から一年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができる。

【参考】法務省「選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について」→https://www.moj.go.jp/MINJI/minji36.html

【データ】姓の選択状況(1995~2021年)

内閣府男女共同参画局「夫婦の姓に関するデータ」
(出典)https://www.gender.go.jp/research/fufusei/pdf/01.pdf

【資料】民法の一部を改正する法律案要綱(民法改正要綱)1996年 平成八年二月二十六日 法制審議会総会決定

姓(氏)に関する箇所のみ抜粋

第三 夫婦の氏
  一  夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする。
  二  夫婦が各自の婚姻前の氏を称する旨の定めをするときは、夫婦は、婚姻の際に、夫又は妻の氏を子が称する氏として定めなければならないものとする。

第四 子の氏
  一  嫡出である子の氏
     嫡出である子は、父母の氏(子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏)又は父母が第三、二により子が称する氏として定めた父若しくは母の氏を称するものとする。
  二  養子の氏
    1  養子は、養親の氏(氏を異にする夫婦が共に養子をするときは、養親が第三、二により子が称する氏として定めた氏)を称するものとする。
    2  氏を異にする夫婦の一方が配偶者の嫡出である子を養子とするときは、養子は、1にかかわらず、養親とその配偶者が第三、二により子が称する氏として定めた氏を称するものとする。
    3  養子が婚姻によって氏を改めた者であるときは、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、1、2を適用しないものとする。
  三  子の氏の変更
    1  子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができるものとする。ただし、子の父母が氏を異にする夫婦であって子が未成年であるときは、父母の婚姻中は、特別の事情があるときでなければ、これをすることができないものとする。
    2  父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には、子は、父母の婚姻中に限り、1にかかわらず、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父母の氏又はその父若しくは母の氏を称することができるものとする。
    3  子の出生後に婚姻をした父母が氏を異にする夫婦である場合において、子が第三、二によって子が称する氏として定められた父又は母の氏と異なる氏を称するときは、子は、父母の婚姻中に限り、1にかかわらず、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができるものとする。ただし、父母の婚姻後に子がその氏を改めたときは、この限りでないものとする。
    4  子が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、1から3までの行為をすることができるものとする。
    5  1から4までによって氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から一年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができるものとする。

出典・全文は→https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi_960226-1.html

参考文献

苗字と名前の歴史 (歴史文化ライブラリー) 単行本 – 2006/3/1

坂田 聡 (著)
家と村社会の成立―中近世移行期論の射程 単行本 – 2011/10/1

坂田聡 (著)
家と共同性 (家族研究の最前線) 単行本 – 2016/9/28
比較家族史学会監修 加藤彰彦・戸石七生・林研三編著 (著)
坂田聡「戦国期畿内・近国の百姓と家」を収録
日本人の姓・苗字・名前―人名に刻まれた歴史 (歴史文化ライブラリー) 単行本 – 2012/10/1

大藤 修 (著)
苗字の歴史 (中公新書 262) 新書 – 1992/6/1

豊田 武 (著)
あだ名で読む中世史―ヨーロッパ王侯貴族の名づけと家門意識をさかのぼる 単行本 – 2018/1/25

岡地 稔 (著)

第三世界の姓名――人の名前と文化 単行本 – 1994/3/1

松本 脩作 (著), 大岩川 嫩 (著, 編集), 松本脩作 (編集), アジア経済研究所 (その他)
夫婦別姓 ――家族と多様性の各国事情 (ちくま新書) 新書 – 2021/11/10

栗田 路子 (著), 冨久岡 ナヲ (著), プラド 夏樹 (著), 田口 理穂 (著), 片瀬 ケイ (著), 斎藤 淳子 (著), 伊東 順子 (著)
選択的夫婦別姓は、なぜ実現しないのか?:日本のジェンダー平等と政治 単行本(ソフトカバー) – 2022/12/20

ジェンダー法政策研究所 (編集), 辻村 みよ子 (編集), 糠塚 康江 (編集), 大山 礼子 (編集), 青野 慶久 (著), & 5 その他

夫婦同姓・別姓を選べる社会へ 単行本 – 2022/7/6

榊原富士子・寺原真希子 (著, 編集)
多様化する家族と法〈1〉個人の尊重から考える (Gleam Books) 単行本 – 2019/6/1

二宮 周平 (著)