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歴史学におけるジェンダー主流化
掲載:2014.03.11 執筆:三成美保
◆ジェンダー
もともと文法用語として名詞の性を意味した「ジェンダー」genderは、1960年代に新たな意味を獲得した。「自然的・身体的性差(生物学的性差)」という意味の「セックス」sexと対比して、「文化的・社会的性差」という意味で用いられるようになったのである。しかし、セックスとジェンダーは、けっして二項対立的な概念ではない。今日の国際的定義が示すように、ジェンダーは、「生物学的性差に付与される社会的な意味」である。「知(知識)」として構築されるジェンダーは、現実の社会生活のなかで再生産され、法政策や社会規範に決定的な影響を及ぼす。「ジェンダー・バイアス(ジェンダーにもとづく偏り・差別)」gender biasは、歴史とともに構築されるのである(→*【女性】フェミニズムの第2の波と「ジェンダー」の発見(三成美保))。
◆人間像の転換
ジェンダー研究は、人間像を根本的に転換させた。従来の社会科学が前提としたのは、「自律的・理性的個人」であった。しかし、「自律的個人」とは、その実、「異性愛者として家庭を築き、妻子を養うことができる白人中産階層の健康な青壮年期男性」にすぎない。排除されたのは、女性にとどまらない。非白人男性も労働者男性もゲイも、子どもや老人、障碍者・病人もまた「自律的個人」モデルから漏れ落ちていた。ジェンダー視点で歴史を読み替えるとは、女性や非白人、非異性愛者、老人・障碍者などを歴史の主体として取り戻し、不可視化されてきた諸問題――生活・家族・性・生殖・老いなど――を問い直すことである。それは、「歴史学におけるジェンダー主流化」の試みにほかならない(→*【総論1】歴史を読み直す視点としてのジェンダー(姫岡とし子))。
◆ジェンダー主流化
「ジェンダー主流化」gender mainstreaming(→*【用語】ジェンダー主流化)の最終目標は、「ジェンダー平等」gender equalityの達成である。性別に関わりなく、だれもが対等に資源や意思決定過程にアクセスできる「ジェンダー公正」gender justiceの実現は、21世紀の国際社会におけるきわめて重要な政策課題となっている。LGBTI(いわゆる性的マイノリティ)の権利保障も進みはじめた(→*【特集3】LGBT・LGBTIの権利保障ー国際的動向)。しかし、武力紛争や家族のなかで暴力にさらされる女性や子どもは後を絶たない。日本でも「ジェンダー平等法」と公式英訳される男女共同参画社会基本法(1999)が成立したが、ジェンダー平等の達成は滞っている(→*【法令】1999年(日)男女共同参画社会基本法)。「女性活躍」を「経済成長戦略」(→*【特集3】LGBT・LGBTIの権利保障ー国際的動向)にとどめず、国際社会と協調しつつ、政治・経済・教育・生活のすべてにわたるジェンダー主流化を進めることが今後の喫緊の課題である。(参考『読み替える(世界史篇)』2014年・序論)
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