概論:性暴力と性売買

掲載:2024-03-09  執筆:三成美保

本記事は、『<ひと>から問うジェンダーの世界史』第1巻「身体・セクシュアリティ・暴力」(大阪大学出版会、2024年)の関連記事です。

第5章 性暴力と性売買 1)概論 性暴力と性売買(三成美保)
(内容)◆ジェンダーに基づく暴力 ◆「性の二重基準」と「有害な男性性」 ◆暴力の可視化 ◆性暴力 ◆性売買と買売春 ◆歴史のなかの買売春 ◆現代の奴隷制

【資料】女性に対する暴力撤廃宣言(1993年)

女性に対する暴力の撤廃に関する宣言(国連総会決議 48/104、1993年12月)(抜粋)

総会は、
 すべての人間の平等、安全、自由、保全および尊厳に関する権利および原則の女性に対する普遍的適用の緊急な必要性を認識し、
 これらの権利および原則が世界人権宣言、市民的および政治的権利に関する国際人権規約、経済的、社会的および文化的権利に関する国際人権規約、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約、および拷問その他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取り扱いまたは刑罰を禁止する条約を含む国際文書に掲げられていることに留意し、
 女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約の実効的な履行が女性に対する暴力の撤廃に貢献するであろうことおよびこの決議に定める女性に対する暴力の撤廃に関する宣言がこの過程を補強することを承認し、
 女性に対する暴力が、女性に対する暴力を根絶するために一連の措置を勧告した女性の地位向上のためのナイロビ将来戦略で認められているように、平等、発展および平和の達成にとって、および、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約の完全な履行にとって障害であることを憂慮し、
 女性に対する暴力が人権および基本的自由の女性による享受を侵害し、害しまたは無効にすることを確認し、および、女性に対する暴力に関してこれらの権利および自由を保護し促進することが長年にわたりなされてこなかったことを憂慮し、
 女性に対する暴力は、男性が女性を支配および差別し、女性の完全な発展を妨げる結果となった男女間の不平等な力関係を歴史的に明らかに示すものであること、および、女性に対する暴力は、女性が男性に比べて従属的地位に置かされることを余儀なくさせる重大な社会的構造の一つであることを承認し、
 少数者グループに属する女性、先住民の女性、難民の女性、移民女性、農村または遠隔地域に住む女性、貧困な女性、施設または拘禁中の女性、女児、障害を有する女性、老齢女性および武力紛争下にいる女性など、いくつかの女性の集団が特に暴力を受けやすいことを憂慮し、
 家庭および社会における女性に対する暴力は、収入、階級および文化の境界を越えて蔓延しており、従って、その発生を除去するために緊急かつ効果的な手段によってこれと対抗しなくてはならないことを、その付属書類で承認した1990年5月24日の経済社会理事会決議1990/15を想起し、
 経済社会理事会が女性に対する暴力の問題を明示に扱う国際文書の枠組みの発展を勧告した1991年5月30日の経済社会理事会決議1991/18をさらに想起し、
 女性運動が女性に対する暴力の問題の性質、深刻性および重要性に対する注意をますます喚起させることに果たした役割を歓迎し、
 社会における法的、社会的、政治的および経済的平等を達成する女性の機会が、とりわけ継続的かつ特有の暴力によって制限されていることに警戒し、
 上記に鑑み、女性に対する暴力の明白かつ包括的な定義、あらゆる形態の女性に対する暴力の撤廃を確保するために適用されるべき諸権利の明白な表明、国家責任に関する国家による公約、および、女性に対する暴力の撤廃に向けた国際社会全般による公約が必要であることを確信し、
 女性に対する暴力の撤廃に関する宣言を次のとおり厳粛に公布し、この宣言が一般に知られ尊重されるようになるためにあらゆる努力がなされることを強く勧告する。

第一条
 この宣言の適用上、「女性に対する暴力」とは、性に基づく暴力行為であって、公的生活で起こるか私的生活で起こるかを問わず、女性に対する身体的、性的若しくは心理的危害または苦痛(かかる行為の威嚇を含む)、強制または恣意的な自由の剥奪となる、または、なるおそれのあるものをいう。

第二条
 女性に対する暴力は、以下のものを含む(ただし、これに限定されない)と理解される。
 (a) 家庭において発生する身体的、性的および心理的暴力であって、殴打、世帯内での女児に対する性的虐待、持参金に関連する暴力、夫婦間における強姦、女性の生殖器切断およびその他の女性に有害な伝統的慣行、非夫婦間の暴力および搾取に関連する暴力を含む。
 (b) 一般社会において発生する身体的、性的および心理的暴力であって、職場、教育施設およびその他の場所における強姦、性的虐待、セクシュアル・ハラスメントおよび脅迫、女性の売買および強制売春を含む。
 (c) どこで発生したかを問わず、国家によって行なわれるまたは許される身体的、性的および心理的暴力。

第三条
 女性は、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、すべての人権および基本的自由の平等な享受と保護を受ける権利を有する。これらの権利は、とりわけ、以下のものを含む。
 (a) 生命に対する権利
 (b) 平等に対する権利
 (c) 身体の自由と安全に対する権利
 (d) 法の下の平等な保護に対する権利
 (e) あらゆる形態の差別から自由である権利
 (f) 到達可能な最高水準の身体的および精神的健康に対する権利
 (g) 公正かつ良好な労働条件に対する権利
 (h) 拷問またはその他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱いまたは刑罰を受けない権利

(参考)全文(全6条)については以下を参照。内閣府男女共同参画局「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言(仮訳)」 https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/cyukan/sankou-5.html

(参考)全文(英文テキスト)Declaration on the Elimination of Violence against Women(国連) https://www.ohchr.org/en/instruments-mechanisms/instruments/declaration-elimination-violence-against-women

現代の奴隷制

ILO報告(2022年9月)

「現代奴隷制の世界推計 強制労働と強制結婚」(ILO等による報告書:2022年9月)

ILO、国際人権団体ウォーク・フリー、国際移住機関(IOM)がまとめた報告書である。

2021年時点で世界で5千万人が「現代奴隷」として生活している(うち2800万人が強制労働を課せられ、2200万人が強制結婚の状態にある)。2017年9月に発表した世界推計(2016年時点)と比べると、奴隷状態にある人は1千万人以上増加(2021年時点)。現代奴隷制は、世界のほぼ全ての国で発生している。強制労働では半数以上(52%)が、強制結婚では4分の1が、高中所得国または高所得国で起きている。

強制労働
強制労働の大部分(86%)は民間部門で発生。強制労働のうち、商業的性的搾取の強要は23%であり、その被害者のおよそ5人のうち4人が女性か少女である。また、強制労働を課されている人のおよそ8人に1人が子ども(330万人)で、そのうち半数以上が商業的な性的搾取を強要されている。

強制結婚
2200万人(2021年時点)が強制結婚の状態で生活(2016年世界推計から660万人増加)。強制結婚の圧倒的多数(85%以上)は、家族からの圧力によって起こる。強制結婚の3分の2(65%)はアジア太平洋地域でみられるが、発生率はアラブ諸国で最も高い(千人当たり4.8人)。

(参考)ILO駐日事務所による解説(日本語)→ https://www.ilo.org/tokyo/information/pr/WCMS_855407/lang--ja/index.htm

資料の全文(英語)はこちら → https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_norm/---ipec/documents/publication/wcms_854733.pdf

資料の概要(日本語仮訳)はこちら → https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---asia/---ro-bangkok/---ilo-tokyo/documents/publication/wcms_856160.pdf

参考文献

ジェンダー法学入門〔第3版〕 (HBB+) 単行本 – 2019/5/21
三成 美保 (著), 笹沼 朋子 (著), 立石 直子 (著), 谷田川 知恵 (著)
権力と身体 (ジェンダー史叢書 第1巻) 単行本 – 2011/1/29
服藤 早苗編著 (著), 三成 美保編著 (著)