4-1.前近代中国の家族法ー東アジア社会のジェンダー秩序①

掲載:2016-07-01 執筆:三成美保

(1)前近代中国の法体系

■律令法体系

律令(りつれい)法体系とは、「律(りつ)」「令(れい)」「格(かく)」「式(しき)」の4種類の法典から構成される法典の体系をさす。[石崎他2012:P.23]

律令格式 内容
基本法典 刑罰基本法典(「~をせよ」「~をするな」という規範とそれに対する刑罰を定める)

<唐律(開元25年:737年)の構成> 名例律・衛禁律・職制律・戸婚律・厩庫律・せん興律・賊盗律・闘争律・詐偽律・雑律・捕亡律・段国律の12編目で構成される。

非刑罰基本法典(行政組織と執務規則を中心とする基本的な規範=官制・税制・兵制・婚姻や戸籍制度など)
副次法典 律令を修正補完する皇帝の単行指令のなかから、永続的な規範を取捨選択した副次法典
律令を運用するための施行規則ないしは細則(官庁ごとに類別)

[石崎他2012:P.24の記述をもとに三成作成]

■前近代中国家族法の三大原則

「同姓不婚」(婚姻)、②「異姓不養」(養子)、③「家産均分」(家産継承)が、前近代中国家族法の三大原則である。[石崎他2012:p.202]

中国史の時代区分については⇒3-3.古代中国のジェンダー(付:年表[古代文明~三国時代(220)])

(2)親族

■宗族

「宗族」=同じ男系の祖先をもつ血族集団(同宗は同姓)[石崎他2012:p.190]

「姓」は、男系祖先から受け継いできた血統を示す標識であるので、一生を通じて変わらない。これゆえ、中国では、前近代から一貫して「夫婦別姓」が原則とされた。子は父の姓を名乗る。

同じ宗族に属さないことを「異宗」という。

(3)婚姻・離婚・再婚

■同姓不婚

「同姓不婚」=前近代中国婚姻法の大原則[石崎他2012:p.190,pp.182-183]

<刑罰>=処罰されるのは「主婚」(婚姻の主体的当事者=婚姻した男女それぞれの父、父がない場合には母、父母がない場合には祖父母)

◆同姓で親族関係になる男女の婚姻⇒「徒2年」
◆「緦麻(しま)以上」の親族(三従兄弟姉妹:みいとこ=8親等以内の親族)との婚姻⇒「姦(違法な姦淫」として扱われる=「徒3年」
◆同姓の従兄弟姉妹(いとこ=4親等)、同姓の再従兄弟姉妹(またいとこ、6親等)との婚姻⇒「十悪」(10種類の重大犯罪)の「内乱」に相当⇒恩赦が与えられない。

「徒」=有期懲役刑(徒1年は360日。受刑者は首かせをつけられて、男子は土木・建築、女子は裁縫や精米作業に従事した。)[石崎他2012:p.53]

(参考)現行日本法での親族・親等 (出典)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%AA%E6%97%8F

■離婚

唐律は、「協議離婚」(破綻主義)を認める一方、夫による理由のない一方的な離婚を禁じている。離婚には、理由(「七出(しちしゅつ)」)が必要とされ、妻が「七出」のいずれかに該当する場合には、夫は一方的に妻を離婚できた。他方、「三不去(さんふきょ)」の1つ以上に該当する妻の場合には、「七出」があっても、夫は妻を離婚できなかった(ただし、妻が「姦」を犯した場合と「悪疾(ハンセン病など)」の場合には「三不去」があっても離婚可能)。[石崎他2012:pp.192-193]

(4)親子・養子

■異姓不養

「異姓不養」=前近代中国養子法の大原則

異宗の男子を養子にとることを禁止した。

(5)家産継承

■「同居共財」

家のすべての構成員(父母・男子夫妻・兄弟など)の勤労所得を「家産」に組み入れることをさし、前近代中国の財産管理の基本的ルール。

■「家産均分」

「家産」の管理・処分権は、家長(最年長男性)にのみ属する。

「家産」の分割は、相続時とはかぎらず。生存中にも行うが、子孫から分割請求はできない。

「家産」は、兄弟間で均分に分割されねばならない⇒「家産均分の原則(兄弟均分の原則)」

兄弟の1人が志望している場合、その男子が代襲する。
男子がない場合には、寡婦が継承する。ただし、その財産は寡婦の個人財産ではなく、寡婦は「死後養子」をとって、祭祀と家産を継承させる義務を負った。

[石崎2012:PP.200-209]

(6)親族・夫に対する犯罪

■尊属殺・夫殺し

唐賊盗律6条

期親の尊長、外祖父母、夫、夫の祖父母・父母を殺そうと謀った者は、皆、に処する。[石崎他2012:p.187]

夫殺しは、尊属殺と同様、一般殺人よりも罪が重かった。直系尊属、夫の殺害(いずれも未遂、既遂を問わない)は、儒教倫理に著しく反する行為とされ、「十悪」(重大犯罪)の一つである「悪逆」にあたるので、斬首刑となる。[石崎他2012:p.66]

◆「期親」とは、「1年の喪に服する関係にある親族」をさす。嫡孫、衆子、兄弟、兄弟の子、祖父、伯叔父が「期親」にあたる。[石崎他2012:pp.92-93]

◆死刑には、「絞」(絞首刑)と「斬」(斬首刑)があるが、首を切断する「斬」のほうが死後の生活に支障がでるため重いとされた。[石崎他2012:p.54]

◆「唐律」といえば、開元25年(737年)の「唐律」をさす。玄宗皇帝(位:712-756)の開元年間(713-741)が律令法体系の完成期。[石崎他2012:p.24,p.23]

■「十悪」の種類と内容

十悪 内容(青字が親族への犯罪、赤字が夫に対する犯罪)
謀反(ぼうはん) 皇帝への危害とその計画
謀大逆(ぼうたいぎゃく) 皇帝の権威を象徴する営造物の損壊とその計画
謀叛(ぼうはん) 現政権にそむいて偽政権に荷担する行為とその計画
悪逆(あくぎゃく) 直系尊属の殴打、夫の殺害など、儒教倫理にはなはだしく反する行為
不道(ふどう) 四肢を解体する殺害など、人道に反する残虐で邪悪な行為
大不敬(だいふけい) 皇帝の御物の盗み、皇帝の印象の偽造など、人臣として犯してはならない行為
不孝(ふこう) 直系尊属の犯罪の告言、直系尊属の死の詐称など、子孫として犯してはならない行為
不睦(ふぼく) いとこの殺害の計画、夫の殴打など、一定範囲の親族に対して犯してはならない行為
不義(ふぎ) 住居地の地方長官の殺害、夫のための服喪の期間内の再婚など、特別な身分関係にある者に対して犯してはならない行為
内乱(ないらん) またいとこなど、一定範囲の親族との姦淫

[石崎他2012:p.66の記述をもとに、表は三成作成]

参考文献

石岡浩・川村康・七野敏光・中村正人『史料からみる中国法史』法律文化社、2012、とくに第4部「家族法」pp.180-221

(参考)近代中国における家族道徳批判については⇒【特集8】中国の女性参政権運動・儒教的家族道徳批判(中国女性の100年②)