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古代オリエントの女神たち
三成美保(掲載:2014.05.17)
◆古代バビロニアの女神イシュタル
イシュタル(シュメール神話ではイナンナに相当)は、古代バビロニアのもっとも重要な女神の一人である。性愛(豊穣や出産を含む)と戦の女神であり、金星や月の女神であった。また、娼婦の守護神とされた。イシュタルの聖獣はライオンである(左図の足下を参照)。正式な配偶神はいないが、多くの愛人をもった。
【参考】
●最古の女性像については→*【図像】地母神・女性像
●クノッソス宮殿跡から出土した「蛇女神」(大地母神)については→*2-1.古代地中海世界とジェンダー
◆古代エジプトの女神イシス
●神々のキョウダイ婚
女神イシス、女神ネフティス、男神オシリス、男神セトはキョウダイであり、イシスはオシリスと、ネフティスはセトと結婚した。
「エジプト九柱の神々」とは、これら4人と、彼らの父母・祖父母の4人及び、創造神(男神)アトゥム(のちに太陽神ラーと習合する)の9神をさす。独身男 神アトゥムの自慰行為によって、大気の男神シューと、湿気の女神テヌフトが生まれ、彼らがキョウダイ婚をなした。シューとテヌフトの間から、大地の男神ゲ ブと天空の女神ヌトが生まれて、天地が創造される。ゲブとヌトもキョウダイ婚をなし、イシスなどのキョウダイ4神が生まれた。神々のキョウダイ婚は、エジ プト王家のキョウダイ婚を正当化した。
●イシスの「母性」
「オシリスとイシスの物語」は広く知られる。この物語によって、イシスは、処女神であり、献身的な母・妻であるとされ、前1000年頃から後7世紀まで地中海全域で信仰された。イシス信仰がマリア信仰に影響を与えたと言われる。
エジプト神話は多様な起源をもつものが習合してできており、一人の神にもさまざまな性格が流れ込んでいる。エジプト王ファラオは、男神ホルスの現世での姿とされるが、ホルスは、イシスの息子という神話とラーの息子という神話があり、やがて両者が習合したと考えられる。ホルスは太陽神で、古くはハヤブサの頭部、太陽と月の目をもつ神として描かれた。ホルスの妻はキョウダイである女神ハトホル。
●「オシリスとイシスの物語」から
オシリスは、弟セトの策略によって殺され、死体をバラバラにされた。妻イシスは魔術を使ってオシリスの遺体を集めるが、身体の一部(男根)が見つからなかった。不完全な身体であるためオシリスは現世に戻れず、冥界の王としてよみがえる。
現世では、オシリスとイシスの息子ホルスが、父の復讐を誓って、セトと戦っていた。イシスは何かとホルスを助ける。妹ネフティスは夫(=弟)セトではなく、姉イシスを支持した。長い戦いの末、ついにホルスがセトに勝った。オシリスはホルスに地上の王権を譲位した。これにより、ファラオはホルスの化身とみなされるようになる。
●イシスのイメージー処女と魔女
イシスはオシリスの妻であったが、夫の死後、処女のままで息子ホルスを身ごもった。イシス信仰では、信者は原則として女性に限られ、一定期間の純潔が要求された。他方、イシスがオシリスをよみがえらせるときに魔術を使ったため、中世ヨーロッパではイシスが魔女の元祖であるとされた。