【女神】ウガリット神話のアナト/アシュタロテー旧約聖書における女神崇拝嫌悪
三成美保(掲載:2014.07.15)
●女神アナト/女神アシュタロテ
女神アナト(シリアではアシュタロテと呼ばれる)は、ウガリット神話の大地母神であり、愛と豊穣の女神である。ギリシア神話の女神アフロディテ、エジプトの女神イシスの原型とされる。
アナトは、ウガリット神話の最高神バァールの妹であり、かつ妻であった。ウガリットとは、紀元前2千年代にシリアで隆盛を誇った都市国家。紀元前14世紀頃に滅びる。
バァール信仰は、旧約聖書で執拗に攻撃された。士師記(紀元前1200~1000年頃)および列王記に描かれた預言者エリアと王妃イゼベルとの闘い(紀元前874年頃)がよく知られる。このような批判は、弱小の半遊牧民であったイスラエル人と農耕社会との厳しい対立を想像させる。
●【引用】旧約聖書における大地母神批判の意味
「イスラエルの士師や預言者たちが、終始一貫、執拗なまでのバァール批判を試みたのは、こうした大地母神崇拝に支えられた農耕文化の基本原理にたいする挑戦であったとみることができるだろう。そこでは、豊穣の神のセクシュアリティは徹底的に悪とみなされた。
荒野と砂漠の神である天の父ヤハウェを唯一の神として信じ、いっさいの偶像の拒絶を誓い、その破壊を叫んだ士師たちの信仰は、カナンの大地母神を賛美する信仰圏とは、真向から対立するものであったのだ。」(山形孝夫『図説聖書物語旧約篇』河出書房新社、2001年、83頁)
●【史料】カナンの神バアル(バァール)崇拝に対する批判(士師記2・3章)
「2章13-14 彼らが主を捨てて、バアルとアシュタロテに仕えたので、主の怒りがイスラエルに向かって燃え上がり、主は彼らを略奪者の手に渡して、彼らを略奪させた。主は回りの敵の手に彼らを売り渡した。それで、彼らはもはや、敵の前に立ち向かうことができなかった。
3章5-7 イスラエル人は、カナン人、ヘテ人、エモリ人、ペリジ人、ヒビ人、エプス人の間に住んで、彼らの娘たちを自分の妻にめとり、また自分たちの娘を彼らの息子たちに与え、彼らの神々に仕えた。こうして、イスラエル人は、主の目の前に悪を行い、彼らの神、主を忘れて、バアルやアシュラに仕えた。」(日本聖書刊行会『聖書・新改訳』)