8-5.魔女迫害と魔女裁判

三成美保(掲載2015.01.02)

魔女裁判の概要

「魔女」の火刑を報じる瓦版(1531年ドイツ) Flugblatt mit der Verbrennung einer angeblichen Hexe, die 1531 mit dem Teufel die Stadt Schiltach verbrannt haben soll

最初の魔女狩り(一四三〇年代)から最後の魔女裁判(一七八二年スイス)までの三五〇年間で魔女裁判の犠牲者は四万~五万と見積もられている(黒川二〇一一、八〇ページ)。死刑総数のなかで魔女罪による死刑は平均一割程度であり、魔女裁判が突出して多かったわけではない。むしろ、他の風俗犯罪や子殺しなどの増減と比例して魔女裁判件数も推移していることに留意すべきであろう(黒川二〇一一、六五頁)。

ヨーロッパにおける魔女裁判のピークは、一五七〇年代から一六三〇年代にかけてである。この時期は気候史上「小氷河期」とよばれ、一五六〇年代、一五八〇年代、一六〇〇年頃、一六二〇年代後半には異常気象が頻繁に見られた(黒川二〇一一、九七頁)。魔女裁判の発生頻度は、天候不順やそれと結びついた社会不安と連動しやすかった。しかし、同時にそれは、魔女裁判に対する共同体や当局の姿勢とも深く関わっていた。

魔女裁判については、左図のような絵付きの瓦版(パンフレットFlugschrift)が多く出回った。瓦版で伝えられる魔女の所業・火刑は、人びとの魔女イメージをより具体的にした。

【参考】

○魔女裁判の手続(糾問主義)については⇒*【法制史】糾問主義ー魔女裁判の手続き(三成美保)
○魔女の図像については⇒*【図像】魔女イメージ
○ドイツ最初の帝国刑事法典「カロリナ」については⇒*【史料】カロリナ刑法典(1532年)
○魔女裁判の魔女論や魔女裁判の史料については⇒*【史料】魔女迫害と魔女裁判(三成美保)
○具体的な魔女裁判の事例については→【史料】マリア・ホル裁判(1593-94年ドイツ)

【書籍紹介】

○黒川正剛『図説魔女狩り』河出書房新社、2011年

index最新の成果をわかりやすくまとめており、たいへん参考になる。カラフルな図版も多数収録されている。

○黒川正剛『魔女狩りー西欧の三つの近代化』講談社選書メチエ、2014年

上述書とあわせて利用をすすめる。

○田中雅志(訳・解説)『魔女の誕生と衰退ー原典資料で読む西洋悪魔学の歴史』三交社、2008年

『魔女の槌』など基本文献の抄訳として、便利である。

○アン・ルーエリン・バーストウ(黒川正剛訳)『魔女狩りという狂気』創元社、2001年

ジェンダー視点から魔女狩りを分析している。原著は1994年刊。

○イングリット・アーレント=シュルテ(野口芳子・小川真理子訳)『魔女にされた女性たちー近世初期ドイツにおける魔女裁判』勁草書房、2003年

ジェンダー視点から、魔女の存在が女性の仕事領域と重なっていることを論じた好著。

indexのぐちまじょ○野口芳子『グリム童話と魔女ー魔女裁判とジェンダーの視点から』勁草書房、2002年

グリム童話に登場する魔女の分析を行うとともに、実際の魔女裁判についても考察している。ジェンダー視点が明確であり、たいへん読みやすい。