女性画家アルテミジア・ジェンティレスキ(1593~1653年頃)の絵画

三成美保(掲載:2014.07.07)

●自画像

自画像(1615年) Selbstporträt Gentileschis, 1615

自画像(1638ー39年) Selbstporträt Gentileschis, 1638–39

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●代表作『ホロフェルネスの首を切るユーディト』(1620年頃)

Artemisia Gentileschi - Giuditta decapita Oloferne - Google Art Project.jpg

アルテミジア・ジェンティレスキ『ホロフェルネスの首を切るユーディト』 Judith und Holofernes Artemisia Gentileschi, um 1620 Öl auf Leinwand, 170 cm × 136 cm Uffizien, Florenz

『ホロフェルネスの首を切るユーディト』(アルテミジア・ジェンティレスキのもっとも有名な作品:1620年頃)

1611年、19歳のアルテミジアは父が私的に雇い入れた美術教師アゴステーィニ・タッシにレイプされる。父オラツィオは激怒し、1612年、タッシを強姦者として訴えた。この裁判で、アルテミジアはいわゆるセカンドレイプにあう。尋問や身体検査で苦しめられたのである。彼女は、被告側からの示談の申し入れにも応じなかった。タッシは8ヶ月間、入獄した。
1612年、アルテミジアは別の画家と結婚して、フィレンツェに移り住むが、平穏な家庭生活とは言えず、1617年、夫と別居した。
その後もアルテミジアの名声は上がり続け、メディチ家を後ろ盾として、スペイン王や枢機卿などを有力なパトロンとした。彼女は、女性としてははじめてフィレンツェの美術アカデミーの名誉ある会員に選ばれた。

1620年頃に描かれた本作には、男性社会に対するアルテミジアの批判が、ユダヤの女性英雄の姿を借りて表現されている(下記のカラヴァッジオ(1571-1610年)の作品と比較せよ)。「絵筆による師へのリベンジ」という解釈もある(千足2007:13)。また、アルテミジアは、ユーディトをはじめ、旧約聖書のエステル、バテシバ(ダヴィデ王の母)、スザンナ、ギリシア神話のダナエ、ディアナなど、女性ヒロインを多く描いた。

【参考文献】千足伸行監修『すぐわかる女性画家の魅力』東京美術、2007年

【関連ページ】
○アルテミジア・ジェンティレスキの作品「ロトと娘たち」(1636–1637年頃)については
【セクシュアリティ】旧約聖書にみる同性愛禁忌(ソドムの町)と近親姦(ロトの娘たち)(三成美保)

○ルネサンス期に男性画家によって描かれた女性像については→8-3.ルネサンス芸術と女性

●ユーディト(旧約聖書に登場するユダヤ人の女性英雄)

カラヴァッジオ『ホロフェルネスの首を斬るユーディット』(1598/99年)

ユーディトは、旧約聖書外典の1つである『ユディト記』に登場するユダヤ人女性。美しく裕福な寡婦で、信仰心が篤かった。住んでいたベトリアの町を救った英雄として知られる。アッシリア王ネブガドネザルは、自分に協力しない町を攻撃するため、司令官ホロフェルネスを派遣した。ホロフェルネスはユダヤの町べトリアを包囲し、水源を断つ。町は降伏寸前であった。ユーディトは着飾ってホロフェルネスのもとへ赴き、4日目に、泥酔したホロフェルネスの首を切り落とした。これをきっかけにして、ユダヤ人はアッシリア軍を打ち破ることができた。

 

 

 

→【参考】ユーディトを題材とする絵画

ルーカス・クラナッハ「ユディト」 (1530年) ウィーン美術史美術館

Datei:Sandro Botticelli - Judith met het hoofd van Holofernes.jpg

ボッティチェリ「ホロフェルネスの首をもつユーディト」(1495/50年) Judith mit dem Kopf des Holofernes. Reichsmuseum Amsterdam, (1495/50)