目次
【法学4】女性に対する暴力(violence against women)/ジェンダーに基づく暴力(sexual and gender based violence=SGBV)
作成 2021-02-21 執筆 三成美保
【解説】国際法と「ジェンダーに基づく暴力」
「国家の公的暴力(武力行使)の規制を優先事としてきた国際法は、長く、2つのドメスティック(国内/私的)・バイオレンスを不可視の領域に閉じ込めるものでもあった。その第1は、国家が国内で市民に対して行使する暴力である。(中略)第2に、(中略)私人間とりわけ親密圏で生じる暴力は国際法の関心の及ばぬものとされた」(阿部2012:128)。
暴力に関する国際法上の取り組みは、1990年代に急速に進んだ。とりわけ、「女性に対する暴力」が可視化され、親密圏における暴力(DVや夫婦間レイプ)や私人間暴力(セクシュアル・ハラスメント)、武力紛争時の性暴力などが「女性に対する暴力」として定義されたことは大きい。また、ICCローマ規程は、「人道に対する罪」に集団レイプや強制妊娠を含めた。人身取引議定書により、平時における暴力もまた規制対象になった。
【補足】国際人権法と国際人道法の違い
(1)国際人道法は、武力紛争における人道的な取り扱いを定めているため、戦時に適用される。国際人道法の最初の条約は、19世紀半ばである。国際人道法成立において中心的な役割を果たし、現在に至るまで国際人道法の守護者的役割を果たしてきたのは赤十字国際委員会である。一方、国際人権法は、人権が存在する状況、すなわち平時及び戦時両方において適用される。国際人権法の成立は、第二次世界大戦後である(松沢2013)。
(2)国際人道法の「義務」は二つある(長嶺2013)。
①「戦闘外にあるすべての人々を守る」こと(負傷して戦闘行為をやめた戦闘員、投降した戦闘員、捕虜、戦闘行為に参加しない一般市民などを保護すること)。前提となる基本条約は、1949年の4つのジュネーブ諸条約と1977年の2つの追加議定書である。同条約は日本を含む195カ国に批准され、もっとも普遍性の高い条約として知られている。
②「戦争の手段・手法や武器の使用を制限」すること。起源は1907年のハーグ陸戦規則にある。最近では、1997年の化学兵器禁止条約や対人地雷禁止条約、2008年のクラスター爆弾禁止条約や2013年の武器貿易条約などがある。
(参考)
松沢(2013)http://www.pko.go.jp/pko_j/organization/researcher/atpkonow/article043.html
長嶺(2013)http://www.pko.go.jp/pko_j/organization/researcher/atpkonow/article058.html
【年表】「女性に対する暴力」防止のための取り組み
1979 女性差別撤廃条約⇒*【史料・解説】1979年女性差別撤廃条約(三成美保)
1989 女性差別撤廃委員会 一般勧告12号(女性に対する暴力から女性を保護すべきこと)
【資料】女性差別撤廃委員会 一般勧告12号(全文)
女子差別撤廃委員会は、条約の2条、5条、11条、12条及び16条が、締約国に対して、家庭内、職場、その他の社会生活の領域で生ずるいかなる種類の暴力からも女性を保護するよう行動を起こすことを要請していることを考慮し、経済社会理事会決議1988/27を考慮に入れ、締約国に対し、委員会への定期報告の中に、次の点についての情報を記載すべきことを勧告する。
1.日常生活におけるあらゆる種類の暴力(性的暴力、家庭内の虐待、職場におけるセクシュアル・ハラスメントなどを含む)の発生から女性を保護するための現行法制
2.これらの暴力を根絶するためにとられたその他の措置
3.暴行又は虐待の犠牲者である女性のための支援サービスの存在
4.女性に対するあらゆる種類の暴力の発生及び暴力の犠牲者となった女性に関する統計データ
(出典)内閣府 https://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/kankoku1-25.pdf
1991 女性の地位委員会第35会期において、経済社会理事会に対する決議を採択。
国連加盟国に以下を勧告する決議
○女性に対する暴力の問題を扱うために専門家会議を開くこと。
○女性に対する暴力の問題を明示的に扱う国際文書の枠組みを発展させること。
1991 国連経済社会理事会決議1991/18「あらゆる形態の女性に対する暴力」を採択
1991 11.11~11.15 女性に対する暴力に関する専門家会議の開催
○女性に対する暴力の撤廃に関する国連宣言案の作成→女性の地位委員会と女性差別撤廃委員会に提出。
○宣言の採択(女性の地位委員会と国連総会)の勧告。
1992 女性差別撤廃委員会 一般勧告19号「ジェンダーに基づく暴力は、男性との平等を基礎とする権利及び自由を享受する女性の権力を著しく阻害する差別の一形態である」⇒2017年女性差別撤廃委員会 一般勧告第35号(一般勧告第19号を更新する)
【資料】女性差別撤廃委員会 一般勧告19号 女性に対する暴力(全文)
背景
1.ジェンダーに基づく暴力は、男性との平等を基礎とする権利及び自由を享受する女性の能力を著しく阻害する差別の一形態である。
2.1989年の第8回会期において、委員会は、締約国に対して、暴力についての情報及び暴力に対処するために導入された措置についての情報を報告に含むべきであることを勧告した(一般勧告第12号、第8回会期)。
3.1991年の第10回会期において、第11回会期の一部を、条約第6条並びに女性に対する暴力、セクシュアル・ハラスメント及び女性からの搾取に関連するその他の条項に関する討議及び研究に充てることが決定された。この問題は、1990年12月18日の総会決議45/155により総会によって招集される1993年世界人権会議を見越して選ばれた。
4.委員会は、締約国の報告が、女性に対する差別、ジェンダーに基づく暴力、並びに人権及び基本的自由の侵害の密接な関係を必ずしも適切に反映しているとは限らないと判断した。条約を完全に実施するためには、締約国は、女性に対するあらゆる形態の暴力を撤廃するための積極的な措置をとることが必要である。
5.委員会は、締約国に対して、各国の法律及び政策の見直し及び条約に基づく報告に当たっては、ジェンダーに基づく暴力に関する委員会の次のコメントを考慮すべきであること提案した。
一般的コメント
6.条約は第1条において女性に対する差別を定義している。この差別の定義は、ジェンダーに基づく暴力、すなわち、女性であることを理由として女性に対して向けられる暴力、あるいは、女性に対して過度に影響を及ぼす暴力を含む。それは、身体的、精神的、又は性的危害もしくは苦痛を加える行為、かかる行為の威嚇、強制、及び、その他の自由の剥奪を含む。ジェンダーに基づく暴力は、条約の特定の規定に違反するであろう(これらの規定が、暴力について明示的に述べているか否かを問わない)。
7.一般国際法又は人権条約に基づく人権及び基本的自由の女性による享受を害し又は無効にするジェンダーに基づく暴力は、条約第1条が意味する範囲内の差別に該当する。これらの権利及び自由は、次のものを含む。(a)生命の権利(b)拷問又は残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは刑罰を受けない権利(c)国際的又は国内的武力紛争時における人道法上の規範に基づく平等な保護に対する権利(d)身体の自由及び安全に対する権利(e)法に基づく平等な保護に対する権利(f)家庭における平等に対する権利(g)到達可能な最高水準の身体的及び精神的健康に対する権利(h)公正かつ良好な労働条件に対する権利
8.条約は、公権力によってなされる暴力に適用される。かかる暴力行為は、また、この条約違反であることに加えて、一般国際人権法及びその他の条約に基づく当該国家の義務に違反するものであろう。
9.しかし、本条約に基づく差別は、政府によって、又は、政府に代わってなされる行為に限られるものではないことが強調されるべきである(条約第2条(e)、(f)及び第5条参照)。例えば、第2条(e)に基づいて、条約は、締約国に、個人、団体又は企業による女性に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとることを要求している。また、一般国際法及び特定の人権規約のもと、国家は、権利の侵害を防止するために相当の注意をもって行動すること、又は、暴力行為を調査し、刑罰を課すことを怠った場合には、私人による行為に対しても責任があり、補償を与える責任があるであろう。
条約の特定の条項に関するコメント
第2条及び第3条
10.条約第2条及び第3条は、条約第5条から第16条に基づく特定の義務に加えて、あらゆる形態の差別を撤廃する包括的な義務を規定する。
第2条(f)、第5条及び第10条(c)
11.女性が劣等である、又は定型化された役割を有するとみなす伝統的な態度は、家族による暴力及び虐待、強制結婚、持参金殺人、酸を使用した暴力、女性性器の切除といった暴力又は強制を伴う広く行きわたった慣行を永続化させる。かかる偏見及び慣行は、ジェンダーに基づく暴力を女性の保護又は統制の一形態として正当化させる危険性がある。女性の身体的及び精神的保全に対するかかる暴力は、女性の人権及び基本的自由の平等な享受、行使及び認識を奪う結果となる。このコメントは、主として、実際になされる暴力又は威嚇的な暴力に向けられるものであるが、これらの形態のジェンダーに基づく暴力の根底に横たわる(構造的な)結果によって、女性の従属的な役割の維持が助長され、女性の政治参加の低水準、及び、女性の教育、技能及び労働機会の低水準につながる。
12.これらの態度は、また、ポルノグラフィーの拡大による、及び、女性を個人としてではなくむしろ性的対象として描写する、又はその他商業において利用、搾取する一因となる。これが、次には、ジェンダーに基づく暴力の一因となる。
第6条
13.締約国は、第6条によって、あらゆる形態の女性の売買及び女性の売春からの搾取を禁止するための措置をとることを要請されている。
14.貧困及び失業は女性の売買の機会を増加させる。確立された売買の形態に加えて、セックス・ツアー、先進国における開発途上国出身のメイドの雇用、及び、開発途上国出身の女性と外国人の間の見合い結婚といった、新しい形態の性的搾取がある。これらの慣行は、女性による権利の平等な享受及び女性の権利と尊厳の尊重と両立しない。これらは、女性を暴力及び虐待の特別な危険にさらす。
15.貧困及び失業は、若年女性を含む多くの女性に売春を余儀なくさせる。売春婦は特に暴力を受けやすい。なぜなら、その身分は非合法である可能性があり、そのため彼女たちは社会的に阻害される傾向にあるからである。彼女たちは、レイプ及びその他の形態の暴力に対して平等な法の保護を必要とする。
16.戦争、武力紛争、領土の占領は、多くの場合、売春、女性の売買及び女性に対する性的暴行の増加をもたらす。これらに対して、特別な保護措置及び刑罰措置が要請される。
第11条
17.女性が、職場におけるセクシュアル・ハラスメントのようなジェンダー特有の暴力を受けた場合、雇用における平等は著しく害される。
18.セクシュアル・ハラスメントは、身体の接触及び接近、性的意味合いをもった発言、ポルノの表示及び性的要求(言葉であるか行為であるかを問わない)といった歓迎されない性的行動を含む。かかる行為は、屈辱的でありえ、安全衛生の問題となる可能性がある。かかる行為に異議を唱えることが、採用又は昇進を含む雇用関係において不利益となると当該女性が信じる合理的理由がある場合、もしくは、敵対する労働環境を創出する場合には、かかる行為は差別となる。
第12条
19.締約国は、第12条によって、保健サービスを享受する平等な機会を確保するための措置をとることを要請されている。女性に対する暴力は、健康及び生命を危険にさらす。
20.一部の諸国では、女性と子供の健康に有害な伝統的慣行が、文化及び伝統によって、依然存続している。これらの慣行は、妊娠中の女性に対する食事制限、男児の優先、及び女性性器の切除を含む。
第14条
21.農村の女性は、多くの農村地域において存続する女性の従属的役割に関する伝統的態度のために、ジェンダーに基づく暴力の危険にさらされている。農村地域出身の少女は、都市に雇用を求めて農村を離れる場合、特に、暴力及び性的搾取の危険にさらされる。
第16条(及び第5条)
22.強制的な不妊手術又は中絶は、女性の身体的及び精神的健康に悪影響を及ぼし、子の数及び出産の間隔を選択する女性の権利を侵害する。
23.家族による暴力は、最も表面化されない形態の女性に対する暴力のひとつである。それは、すべての社会において広くなされている。家族関係の中で、すべての年齢の女性は、あらゆる種類の暴力を受けている(殴打、レイプ、その他の形態の性的暴行、伝統的態度によって永続化された精神的及びその他の形態の暴力を含む)。経済的独立の欠如のため、多くの女性が、暴力的関係の中に留まることを余儀なくされている。男性による家庭責任の放棄は、暴力及び強制の一形態となりうる。これらの形態の暴力は、女性の健康を危険にさらし、平等を基礎として、家族生活及び公的活動に参加する女性の能力を害する。
特定の勧告
24.これらのコメントにかんがみて、女子差別撤廃委員会は、次のことを勧告する。
(a)締約国は、あらゆる形態のジェンダーに基づく暴力(公的行為であるか私的行為であるかを問わない)を撲滅するために、適切かつ効果的な措置をとるべきである。
(b)締約国は、家族による暴力及び虐待、レイプ、性的暴行及びその他のジェンダーに基づく暴力に対する法律が、すべての女性に適切な保護を与え、女性の保全と尊厳を尊重するように確保するべきである。適切な保護的及び支援的サービスが犠牲者に対して与えられるべきである。裁判官、法執行官及びその他の公務員に対するジェンダーに配慮した研修が、条約の効果的な実施のために不可欠である。
(c)締約国は、暴力の範囲、原因及び影響、並びに、暴力を防止し、対処するための措置の有効性に関する統計及び研究の収集を奨励するべきである。
(d)メディアが、女性を尊重し、女性の尊重を促進するように確保するための効果的措置がとられるべきである。
(e)締約国は、報告において、女性に対する暴力を永続化させる態度、慣習及び慣行の性質及び範囲、並びに、その結果として、いかなる種類の暴力が生じるかを明らかにすべきである。締約国は、暴力を撲滅するために着手した措置及びこれらの措置の効果を報告すべきである。
(f)これらの態度及び慣行を撲滅するために、効果的な措置がとられるべきである。締約国は、女性の平等を妨げる偏見の撤廃を促進する教育及び広報プログラムを導入するべきである(一般勧告第3号、1987年)。
(g)特別な防止措置及び刑罰措置が、売買及び性的搾取を撤廃するために必要である。
(h)締約国は、報告において、これらの問題の範囲、及び、売春に従事した女性又は売買及びその他の形態の性的搾取を受けた女性を保護するためにとられた措置(刑罰規定、防止及び社会復帰措置を含む)について説明するべきである。これらの措置の有効性についても報告するべきである。
(i)効果的な申立て手続及び救済措置(補償を含む)が与えられるべきである。
(j)締約国は、報告に、セクシュアル・ハラスメントについての情報、並びにセクシュアル・ハラスメント及び職場におけるその他の形態の暴力又は強制から女性を保護するための措置についての情報を含めるべきである。
(k)締約国は、家族による暴力、レイプ、性的暴行及びその他の形態のジェンダーに基づく暴力の被害者のためのサービスを確立又は支援するべきである(避難所、特別に訓練された保健従事者、リハビリテーション及びカウンセリングを含む)。
(l)締約国は、かかる慣行を撲滅するための措置をとるべきであり、健康問題に関して報告する場合、女性性器の切除に関する委員会の勧告(一般勧告第14号)を考慮すべきである。
(m)締約国は、生殖能力及び生殖に関する強制を防止するための措置がとられるように確保すべきである。また、女性が、避妊に関する適切なサービスの欠如のために非合法な中絶といった安全でない医療処置を求めることを余儀なくされることのないように確保するための措置がとられるように確保すべきである。
(n)締約国は、その報告において、これらの問題の範囲を述べ、とられた措置及びその効果を示すべきである。
(o)締約国は、農村の女性が暴力の被害者のためのサービスを利用できるように確保し、必要な場合には、孤立した地域に特別なサービスが提供されるよう確保するべきである。
(p)暴力から彼女たちを保護するための措置は、訓練及び雇用の機会並びに国内労働者の雇用条件の監視を含むべきである。
(q)締約国は、農村女性がさらされる危険、彼女たちが受ける暴力及び虐待の範囲及び性質、支援及びその他のサービスに対する彼女たちのニーズ及びそれを享受する機会、並びに、暴力を撤廃するための措置の有効性に関して報告すべきである。
(r)家族による暴力を撤廃するために必要な措置は次のものを含む。
(i)家庭内暴力事件における民事救済、及び、必要な場合には、刑事罰
(ii)家族の一員である女性に対する暴行又は殺人に関して、名誉のためであるという抗弁を排除するための立法
(iii)家族による暴力の犠牲者の安全を確保するためのサービス(避難所、カウンセリング及びリハビリテーション・プログラムを含む)
(iv)家庭内暴力を犯した者のための社会復帰プログラム
(v)近親相姦又は性的虐待が行われた場合の家族に対する支援サービス
(s)締約国は、家庭内暴力及び性的虐待の範囲、並びにそのためにとられた防止的、刑罰的及び救済的措置について報告するべきである。
(t)締約国は、ジェンダーに基づく暴力に対して、女性に効果的な保護を与えるために必要なすべての立法及びその他の措置をとるべきである。とりわけ、
(i)あらゆる形態の暴力(とりわけ、家庭における暴力及び虐待、職場における性的暴行及びセクシュアル・ハラスメントを含む)から、女性を保護するための効果的な立法措置(刑事的制裁、民事的救済及び補償の付与を含む)。
(ii)防止措置(男女の役割及び地位に関する態度を改めさせるための広報及び教育プログラムを含む)。
(iii)保護措置(暴力の犠牲者又は暴力の危険にさらされている女性のための避難所、カウンセリング、リハビリテーション及び支援サービスを含む)。
(u)締約国は、あらゆる形態のジェンダーに基づく暴力について報告し、かかる報告には、各形態の暴力の発生率について、及び、犠牲者である女性に対するかかる暴力の影響についての入手可能なすべてのデータを含めるべきである。
(v)締約国の報告は、女性に対する暴力を撲滅するためにとられた立法的、防止的及び保護的措置、並びにかかる措置の有効性についての情報を含むべきである。
(出典)内閣府 https://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/kankoku1-25.pdf
1992 女性の地位委員会第36会期:多くが専門家会議の宣言案を支持し、宣言案討議のためのワーキング・グループを結成する。
1993 12.10 国連総会第48会期「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」の採択
1994 人権委員会第50会期 決議1994/45「女性の権利を国連の人権機構に組み込むこと及び女性に対する暴力の根絶に関する問題」 を採択
○特別報告者としてクマラスワミを任命(任期は2003年まで)
⇒*【ジェンダー法学4-③】(史料)1994-96年:クマラスワミ報告書(女性に対する暴力)
1995 北京行動綱領
1998 国連全権外交使節会議:国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程の採択
1998(スウェーデン) 「女性の安全法」(法律393号)
○刑法第4章4条a2項「DV罪(女性の安全に対する重大な侵害罪)」の創設(矢野2012)
1999 第54回国連総会:女性差別撤廃条約選択議定書の採択(2000年12月22日に発効)
2000 人種差別撤廃委員会 一般勧告25号
○「一定の形態の人種差別は、ジェンダーのゆえに、とくに女性にのみ向けられることがありうること」
2000 国連「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」「国際的な組織犯罪の防止に関すする国際連合条約を補足する人、特に女性及び児童の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書」(人身取引議定書)の採択
2000 10.31 国連安全保障理事会決議1325「女性と平和・安全保障」(S/RES/1325)の採択(川眞田2012)
2017 女性差別撤廃委員会 一般勧告35号(一般勧告19号の更新)
「9.一般勧告第19号及びその他の国際文書において定義される、「女性に対する暴力」という概念は、このような暴力がジェンダーに基づくことに重点を置いている。したがって、本勧告においては、「女性に対するジェンダーに基づく暴力」という用語はジェンダーによる暴力の原因と影響を明確化する、より正確な用語として用いられる。この用語は個々の問題ではなく、むしろ、特定の事象、個別の加害者及び被害者に対するものという枠を超えて、総合的な対応策を必要とする社会的な問題として、暴力についての理解を更に深めるものである。」
【解説】女性差別撤廃委員会一般勧告35号(2017年7月)=「女性に対するジェンダーに基づく暴力」
女性差別撤廃委員会は、2017年7月、一般勧告19号採択以降の25年間に生じた現象を取り込み、勧告をアップデートするために、一般勧告35号を採択した。そこでは次のようなことが強調されている。
- ジェンダーに基づく女性に対する暴力の禁止は、国際慣習法の一部となった。
- 女性のリプロダクティブ・ヘルス・ライツを侵害する行為は、女性に対する暴力である。
- 女性に対する暴力を支持するような社会規範、特に、文化、伝統、宗教の名の下にジェンダー平等を脅かす動きや、性別役割へのステレオタイプを変えていく必要がある。
- 差別の交差性・複合性に着目し対策をとる必要がある。
- 国家は自らの作為または不作為が生じさせた女性に対する暴力に対して責任があることはもちろんのこと、民間人や私企業が招来させた女性に対する暴力についても、「相当な注意」(due diligence)を怠った場合には責任を負う。
- 女性に対する暴力に対して寛容な法律は、廃止されなければならない。
- 女性の人生のすべての局面での自己決定、意思決定への参画を尊重し保護することが、長期的に見て女性に対する暴力をなくす方法である。
(引用の出典)林陽子「世界人権宣言採択70周年-女性の権利をめぐる状況-」国際人権ひろば No.137(2018年01月発行号)
参考文献
○和田洋子(2014)「第71回 紛争下における男性及び男児に対する性暴力(1)」http://www.pko.go.jp/pko_j/organization/researcher/atpkonow/article071.html
○阿部浩己(2012)「国際法/暴力/ジェンダー」 ジェンダー法学会編『講座ジェンダーと法、第1巻:ジェンダー法学のインパクト』日本加除出版、2012年
○米田真澄(2012)「国際法における暴力防止の展開」ジェンダー法学会編『講座ジェンダーと法、第3巻:暴力からの解放』日本加除出版、2012年
○矢野恵美(2012)「北欧における『女性に対する暴力』への対策」ジェンダー法学会編『講座ジェンダーと法、第3巻:暴力からの解放』日本加除出版、2012年
○川眞田嘉壽子(2012)「平和・安全保障とジェンダーの主流化ー安全保障理事会決議1325とその実施評価を題材として」ジェンダー法学会編『講座ジェンダーと法、第1巻:ジェンダー法学のインパクト』日本加除出版、2012年
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