【ジェンダー法学4ー①】女性に対する暴力[英]violence against women

三成 美保(掲載:2014.5.15/参考:三成他『ジェンダー法学入門』法律文化社、2011年)

女性に対する暴力(violence against women)という語は、国際文書では「国連女性の10年」後半期行動プログラム(1980年)に初出し、ナイロビ将来戦略(85年)ではじめて具体化された。女性差別撤廃条約(79年)は買売春や人身売買の禁止には触れていたが、セクシュアル・ハラスメントやDVへの言及はなく、女性に対する暴力の一般的規定ももっていなかった。女性に対する暴力という語が生まれたことにより、多様な暴力を包括的にとらえる視点と対策の緊急性が国際社会で共有されるようになった。

◆女性に対する暴力撤廃宣言 

1992年、女性差別撤廃委員会は、一般勧告第19号で「女性に対する暴力は差別の一形態」であるとし、暴力を詳細に定義した。翌93年、第2回世界人権会議(ウィーン)では、「女性の権利は人権である」ことが強調された。同年末、国連総会で採択された女性に対する暴力撤廃宣言において、女性に対する暴力はジェンダー秩序と不可分な人権侵害であることが明示された。北京行動綱領(95年)は、女性に対する暴力を「12の重大問題領域」の1つと位置づけた。本宣言と北京行動綱領が、女性に対する暴力に関するもっとも包括的な規定とされる。

同宣言は、暴力を「女性に対する肉体的、精神的、性的又は心理的損害又は苦痛か結果的に生じるかもしくは生じるであろう性に基づくあらゆる暴力行為」と広く定義し、公私の別を排除した(第1条)。発生場面に即して、暴力は3つに区分されている。①家庭においておこる暴力(第2条a)、②一般社会においておこる暴力(同b)、③国家により行われたか又は許容された暴力(同c)。①には、近親者による女児への性的虐待、持参金殺人、夫婦間強姦、女性性器切除、DVが含まれる。②では、強姦、性的虐待、セクシュアル・ハラスメント、人身売買・強制売春があげられている。③で想定されているのが、戦時性暴力である。北京行動綱領(1995年)は、「女性に対する暴力」を「12の重大問題領域」の1つと位置づけた。同宣言と北京行動綱領が、今日、「女性に対する暴力」に関するもっとも包括的な規定とされる。内戦時の凄惨な性暴力を含む「女性に対する暴力」の根絶に取り組むことが、21世紀国際社会における緊急の課題となっている。

[参考文献]
山下泰子・辻村みよ子・浅倉むつ子・二宮周平・戒能民江編『ジェンダー六法』信山社、2011年
ラディカ・クマラスワミ(クマラスワミ報告書研究会訳)『女性に対する暴力―国連人権員会特別報告書』明石書店、2000年
ラディカ・クマラスワミ(VAWW-NETジャパン翻訳グループ訳)『女性に対する暴力をめぐる10年―国連人権委員会特別報告者クマラスワミ最終報告書』明石書店、2003年