目次
生殖補助医療・代理母
掲載:2015-11-21 執筆:三成美保
法務省(立法化に向けた動き)
●法制審議会 - 生殖補助医療関連親子法制部会
議事録⇒*http://www.moj.go.jp/shingi1/shingikai_seishoku.html
●「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する要綱中間試案」に関する意見募集(平成15年)
⇒*http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00071.html
●日本学術会議に対する生殖補助医療をめぐる諸問題に関する審議の依頼について(法務省)
⇒*http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00010.html
依頼文,日本学術会議の回答及び対外報告は,次のとおりです。
- 生殖補助医療をめぐる諸問題に関する審議の依頼[PDF:141KB]
- 生殖補助医療をめぐる諸問題に関する審議の依頼について(回答)[PDF:82KB]
- 対外報告「代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題―社会的合意に向けて―(平成20年4月8日 日本学術会議 生殖補助医療の在り方検討委員会)」[PDF:768KB]
●日本学術会議生殖補助医療の在り方検討委員会「(対外報告)代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題-社会的合意に向けて-」(平成20年(2008年)4月8日)
⇒*http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t56-1.pdf
死後生殖(判例)
【判例】死後懐胎子の認知請求訴訟(2006年最高裁判決)
本件は、わが国ではじめて起こった死後生殖posthumous assisted reproduction(PAR)の事案である。
この事案では、死後生殖から生まれた子どもの母が,同人と生前婚姻関係にあった子どもの亡父が,生前に採取して凍結保存していた精子を使って体外受精し,子どもを出産した。このようにして出生した子どもが、血縁上の精子提供者が自分の法的な父であるとして認知を求め,検察官を相手方として,認知請求をした。
松山地方裁判所(松山地裁平成15年11月12日判例時報840号85頁)は、認知請求を却下した。
高松高等裁判所(高松高裁平成16年7月16日最高裁ホームページ)は、認知請求を認めた。最高裁(平成18年)は、請求を認容した控訴審判決(平成16年高松高判)を破棄、自判した。(事実)
1997年 A男とB女が結婚
1998年 A男の病気治療により無精子症となることが危惧されたため、A男は精子を採取し、冷凍保存した。A男は、同年夏頃、B女や両親、周囲の人たちに対し、もし自分が死亡するようなことがあっても、冷凍保存精子を用いてB女に子を授かり、家を継いでほしい旨、話していた。
1999年5月 夫婦の不妊治療再開を決める。
同年 8月末頃 冷凍保存精子を用いた体外受精を行うことについて、P病院の承諾が得られた。
同年9月 A男が死亡。B女は、A男の死亡後、A男の両親と相談の上、A男の冷凍保存精子を用いた体外受精を行う ことを決意した。
2000年 B女は、P病院においてA男の冷凍保存精子を用いた体外受精を行う。体外受精を実施したP病院には、夫の死亡は告げられていなかった。
2001年5月 B女は、死後生殖により懐胎した子を出産した。出産は夫の死後およそ1年9ヶ月になる。B女は、男児を夫婦の子として出生届を提出したが、夫婦間の子とは認められないとして受理されなかった。
2002年 認知を求めて提訴。2003年11月12日松山地裁判決(法学教室2004年1月号133頁、判時1840号85頁)
第一審判決(松山地判平成15年11月12日家月56巻7号140頁)は、請求を棄却した。
すなわち、認知 請求を認めるか否かは、子の福祉を確保し、親族相続法秩序との調和を図る観点のみならず、用いられた生殖補助医療と自然的な生殖との類似性、その生殖補助 医療が社会一般的に受容されているか否かなどを総合的に考慮し判断すべきとした。①たとえ血縁関係にあっても、子の懐胎時に死者であった者を父ということは、社会通念に合致しない ②夫の同意があるとは認められない ③子の福祉の観点から、監護、養育、扶養を受けることが考えられない者との間で父子関係を認めることは、必ずしも子の福祉にかなうとはいえないとの理由で却下された。④現行法では対処できないので、今後専門家による検討、国民的議論が必要 として、請求を棄却した。●判例評論547号28頁に松川正毅大阪大教授の判例評釈
2004年7月16日高松高裁判決(判時1868号69頁)
控訴審判決(高松高判平成16年7月16日高民集第57巻3号32頁)は、第一審判決を破棄して、原告が提供者の子であることを認知した。
すなわち、子と提供者との間に血縁上の親子関係が存在し、当該人工生殖につき提供者の同意があれば、特段の事情がな い限り、認知請求を認めることができるとし、当事案では、血縁上の親子関係及び提供者の同意が認められ、特段の事情もないとした。判決は、「認知とは自然血縁的な親子関係そのものの客観的な設定により、法的親子関係を設定することを認めた制度であるから、懐胎時に事実上の父が生存していることを、認知請求を認める要件とすることはできない」とした。当時の状況から、父の同意があったと認定している。また父の親族との間に親族関係が発生し、代襲相続権があるなどの実益があることも指摘された。●水野紀子「(判例評釈)認知請求控訴事件・高松高裁平成16年7月16日判決・判例タイムズ1160号86頁・判例時報1868号69頁:死者の凍結精子を用いた生殖補助医療により誕生した子からの死後認知請求を認めた事例」⇒*http://www.law.tohoku.ac.jp/~parenoir/shigo-ninchi.html
2006年9月4日最高裁判決(民集60巻7号2563頁、家月58巻12号44頁、判時1952号36頁)
最高裁は、 請求を認容した控訴審判決(平成16年高松高判)を破棄、自判した。
すなわち、死後懐胎子の場合、その懐胎以前に提供者が死亡しているのだから、親権につ き、提供者が死後懐胎子の親権者とはなりえず、扶養等につき、死後懐胎子は提供者から監護、養育及び扶養を受けることはなく、相続につき、死後懐胎子は提 供者の相続人になりえないから、民法の実親子に関する法制は、死後懐胎子とその提供者との親子関係を想定していない。すると、死後懐胎子と提供者の親子関 係を認めるか否か、また、認めるとした場合の要件及び効果は立法により解決される問題であり、そのような立法がない以上、親子関係は認められないとする。なお、2裁判官による補足意見は共に、早期の法制度の整備が望まれるとする。
●林かおり「海外における生殖補助医療法の現状-死後生殖、代理懐胎、子どもの出自を知る権利をめぐって」(外国の立法243、2010年)⇒http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/pdf/024304.pdf
代理母(判例)
●代理懐胎の法規制(地図)
日本の判例では、子どもの母は「分娩者(産んだ女性)」とされている(1962年最高裁判例)。
ドイツでは、1996年民法改正で、「分娩者が母」と定められた。
【判例】M代理母事件(2007年最高歳決定)
妻Aは子宮がんで子宮摘出手術を受けたが、夫Bとの受精卵を米国人女性に移植して出産してもらう代理出産により、双子の男児が誕生。双子の男児の出生届を、東京都品川区が不受理としたことを巡る裁判。
家事審判(不受理)→即時抗告審(東京高裁)(不受理処分の取り消し)→最高歳(不受理が妥当)2007年3月23日 最高裁(最高裁二小)決定
[出典]判時1967号36頁 判タ1239号120頁 判タ1256号38頁
●決定文(全文)最高裁(2007年3月23日)⇒*http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070323165157.pdf
[事実の概要]2006年9月29日高裁の抗告審
[決定の概要]「実親子関係は身分関係の中で最も基本的なもの。基準は一義的に明確でなければならない」と指摘して、「民法が定める場合に限って実親子関係を認める」との厳格な解釈を示した。実の親子関係を認めた米国ネバダ州裁判所の判断は「我が国の法秩序の基本原則、基本理念と相いれず、公の秩序に反する」と述べ、東京都品川区に出生届を受理するよう命じた東京高裁決定を覆した。 一方で、「立法による速やかな解決」を求めた。夫婦は、特別養子縁組を利用して、法的親子関係を確定した。2006年9月29日 東京高裁決定
[出典]判時1957号20頁、家月59巻7号89頁
[事実の概要]代理出産により、双子の男児が誕生。ABは東京都品川区に出 生届を提出したが、不受理とされたため、処分取り消しを東京家裁に申し立てた。原審は申し立てを却下したため、東京高裁に即時抗告をした事案。
[決定の概要]民法は生殖補助医療技術が存在せず、自然懐胎のみの時代に制定された。現在は人為的な操作による懐胎や出生が実現されるようになった。法制定時に想定され ていなかったことで法秩序の中に受け入れられない理由にはならない、とした。その上で、ABが双子を実子として養育することを望み、代理母側はそれを望ん でいないと指摘。子らは法律的に受け入れるところがない状態が続く。(AB夫婦を)法律的な親と認めることを優先するべき状況で、AB夫妻に養育されるこ とが子の福祉にかなうとして、不受理処分の取り消しを命じた。
代理母をめぐる諸問題
●ベビーM事件(1988年アメリカ)
本件は、「サロゲートマザー」タイプの代理懐胎。精子のみが依頼者(夫)のもの,卵子及び子宮は代理母のものである。
<事件の経緯>
1985年2月 Mary Beth Whitehead (28歳,無職,白人,子ども2人)が,スターン夫妻(夫は38歳の生化学者,妻は38歳の小児科医)と,ニューヨーク州の不妊センターを介して,代理母契約を結ぶ。人工授精を9回実施して、妊娠。≪契約内容≫
・妊娠したら薬をいっさい飲んではいけない。
・羊水診断を受け,胎児に障害があれば中絶すること,その場合は報酬はなし。
・流産・死産には1000ドル,健康な子が生まれたら10000ドルを受け取る。
・出産後,ただちに養子契約にサインし,親権を放棄する。
・2年以内に妊娠しなかったら,報酬はなし。1986年3月 人工受精で女子を出産。しかし、代理母メアリーは出産後,支払いの受け取りと子の引き渡しを拒否して、子を連れさる。依頼者夫婦が訴え、裁判になった。
1987年3月31日 ニュージャジー州高等裁判所Superior Court判決(ソーカウ Harvey R. Sorkow判事)。
代理母契約を合法とし,依頼者スターン夫妻に親権を認める。代理母メアリー・ベス・ホワイトヘッドには親権も養育権も認めないとした。1988年2月3日 ニュージャージー州最高裁判所が代理母契約を無効(人身取引に匹敵)とする逆転判決を言い渡す。親権は依頼者男性、代理母には面会権が認められるとした。
【参考】立岩真也→*http://www.arsvi.com/d/r0119856.htm
●日本
諏訪クリニック(長野県):2001年に日本ではじめて代理懐胎を施術した→http://e-smc.jp/special-reproduction/sr/surrogate/
【諏訪クリニックHPから】http://e-smc.jp/special-reproduction/sr/surrogate/history.php
○当病院ではこれまでに21例について代理出産を試み、14例出産16人誕生(うち実母による代理出産では、11例中10例出産10人誕生)が誕生しています(2014年3月末現在)。
○代理出産には下記の方法があります。うち当病院では当面「1-A」のみを実施してきました。そのほかの方法は今後の課題と考えています。
1.体外受精による代理出産
1-A.依頼夫婦の受精卵を使った代理出産
依頼夫婦の精子と卵子を体外受精させてできた受精卵を、第三者の女性(代理母)の子宮に移植して子どもを得る方法。この場合、依頼夫婦と生まれた子との遺伝的つながりは保たれる。
○代理母については、当面は「依頼妻の実母に限り、原則として60歳前後までの方」としています(代理母の健康状態により年齢は多少の増減あり。法整備や補償制度のない現状において、代理母を実母とするのが最もトラブルやストレス等が少ないとの考えから)
●インド
- NHK「代理母ビジネスを追う ~インド~」→*http://www.nhk.or.jp/asianpitch/lineup/index1301.html
- 「インドの超巨大市場、代理母出産ビジネスの闇」→http://matome.naver.jp/odai/2138058961776257701
- 2015年10月Wall Street Journal「インド、外国人向け代理出産を禁止」→http://jp.wsj.com/articles/SB11656670854055994709504581324700712777990
●関連サイト・文献
- 「代理出産を問い直す会」(ジェンダー視点からの学術的な問いかけ)→*http://nosurrogacy.lib.i.dendai.ac.jp/
- HNKクローズアップ現代「急増 代理出産~規制と現実のはざまで~」(2014年9月30日(火)放送)
⇒http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3558_all.html - 代理母斡旋業者のホームページ(例)
- 2009.12.11「代理母をめぐる議論の現在」東京大学政策ビジョン研究センター(http://pari.u-tokyo.ac.jp/policy/policyissues_bio_7.html)
LGBTIと生殖補助医療(判例)
【判例】トランスジェンダー(FTM)とAID子との父子関係(2013年12月10日最高歳決定)
特例法により性別変更した父Aと婚姻した母Bが,婚姻中に懐胎した子Cにつき,民法772条の嫡出推定が及び,Aの嫡出子であるとした例
(事実)性同一性障害のため女性から性別を変更した男性(31)と妻が、第三者の精子提供による人工授精で妻が産んだ長男(4)の戸籍上の父親を男性と認めるよう求めた家事審判。最高裁第3小法廷(大谷剛彦裁判長)は10日付で、申し立てを却下した一、二審の判断を覆し、父親と認める決定をした。
妻が第三者の精子を使った人工授精(AID)で産んだ長男について、東京都新宿区に出生届を出したが、夫の戸籍から「元女性」であることがわかるた め、区は「夫と子に血縁関係がないのは明らか」と判断。戸籍上、夫婦の子ではない「非嫡出(ちゃくしゅつ)子」扱いとし、父親欄を空欄としたため、夫婦が 「子を嫡出子として扱い、父親欄に夫の名前を記載すべきだ」と訂正を申し立てていた。参考→GALhttp://genderlaw.jp/hanr/oyako/oyako7.html#2013.12.10
2012年10月31日東京家裁審判(民集67巻9号1897頁、新・判例解説Watch(2013年4月号))
特例法により性別変更した父Aと婚姻した母Bが生んだ子Cにつき、民法772条の嫡出推定は及ばず、婚外子であるとした例
【事実(概要)】
父Aは、性同一性障害者の性別の取扱いに関する特例法3条に基づき、男性へ変更する審判を受け、その後、母Bと婚姻し、母は、人工授精により婚姻後200 日以降に子Cを出産した。2012(平12)年父は、子を父母の嫡出子として出生届出をしたが、同年、新宿区長は、子の父欄を空欄とし、母の非嫡出子とす る戸籍記載を行った。申立人(AとB)は、Aを父としCをABの嫡出子とする戸籍訂正許可(戸籍法13条に基づく)を家庭裁判所に申立てた。
【審判(抜粋)】
「男性としての生殖能力がないことが戸籍記載上から客観的に明らかであって、Cは申立人ら夫婦の嫡出子とは推定できない」
「以上の戸籍上の処理は、あくま でもCが客観的外観的に申立人らの嫡出子として推定されるかどうかという客観的事実認定の問題であって、申立人Aを性同一性障害者の性別の取扱いの特例に 関する法律に基づき男性として取り扱うべきであるとの法律上の要請に反するものではなく、かかる取扱いは憲法14条で禁止された差別には該当しない。な お、本件のように非配偶者間人工授精によって妻が懐胎した子について、夫の同意があることを要件に、夫の子とする立法論はあり得るところであるが、そのよ うな法律が成立すれば格別、我が国においては未だそのような立法がされていないのであるから、申立人Aが人工授精に同意していることをもって、Cとの父子 関係を認めることもできない。現状では、本件のような場合には、特別養子縁組をすることで対応することになるが、手続の煩わしさはあるとしても、それに よって特別養親関係が成立すれば、子の法的保護には欠けるところはない。」2012年12月26日東京高裁決定(民集67巻9号1900頁、判タ1388号284頁)
【事実】2012年10月31日東京家裁審判の上告審。
【決定(抜粋)】原審判(東京家審平成24年10月31日)の示した理由を支持して、抗告を棄却した。
「嫡出親子関係は、生理的な血縁を基礎としつつ、婚姻を基盤として判定されるもので あって、父子関係の嫡出性の推定に関し、民法772条は、妻が婚姻中に懐胎した子を夫の子と推定し、婚姻中の懐胎を子の出生時期によって推定することによ り、家庭の平和を維持し、夫婦関係の秘事を公にすることを防ぐとともに、父子関係の早期安定を図ったものであることからすると、戸籍の記載上、生理的な血 縁が存しないことが明らかな場合においては、同条適用の前提を欠くものというべきであり、このような場合において、家庭の平和を維持し、夫婦関係の秘事を 公にすることを防ぐ必要があるということはできない。また、抗告人らの主張する特例法4条の規定も、同法3条1項4号に規定する場合を前提とするものであ るから、その場合の民法の規定の適用に変更を加えるものではない。そして、本件戸籍記載はCの父欄を空欄とするものであって、前記引用に係る原審判の「理 由」欄の第3の4項のとおり、戸籍上の処理は、あくまでもCが客観的外観的に抗告人らの嫡出子として推定されず、嫡出でない子であるという客観的事実の認 定を記載したものであるから、抗告人らの主張を考慮しても、本件戸籍記載が憲法14条又は13条に反するものということはできない。」2013年12月10日最高裁第三小法廷決定( 民集67巻9号1847頁、判時2210号27頁)
【決定(抜粋)】
「特例法4条1項は,性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,民法その他の法令の規定の適用については,法律に別段の定めがある場合を除き,その性別につき 他の性別に変わったものとみなす旨を規定している。したがって,特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,以後,法令 の規定の適用について男性とみなされるため,民法の規定に基づき夫として婚姻することができるのみならず,婚姻中にその妻が子を懐胎したときは,同法 772条の規定により,当該子は当該夫の子と推定されるというべきである。もっとも,民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子 を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかである などの事情が存在する場合には,その子は実質的には同条の推定を受けないことは,当審の判例とするところであるが(最高裁昭和43年(オ)第1184号同 44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁,最高裁平成8年(オ)第380号同12年3月14日第三小法廷判決・裁判集民事189号 497頁参照),性別の取扱いの変更の審判を受けた者については,妻との性的関係によって子をもうけることはおよそ想定できないものの,一方でそのような者に婚姻することを認めながら,他方で,その主要な効果である同条による嫡出の推定についての規定の適用を,妻との性的関係の結果もうけた子であり得ない ことを理由に認めないとすることは相当でないというべきである。
そうすると,妻が夫との婚姻中に懐胎した子につき嫡出子であるとの出生届がされた場合においては,戸籍事務管掌者が,戸籍の記載から夫が特例法3条1項の 規定に基づき性別の取扱いの変更の審判を受けた者であって当該夫と当該子との間の血縁関係が存在しないことが明らかであるとして,当該子が民法772条に よる嫡出の推定を受けないと判断し,このことを理由に父の欄を空欄とする等の戸籍の記載をすることは法律上許されないというべきである。」
●2010.1.26「性転換カップルによる生殖補助技術利用が提起する問題」東京大学政策ビジョンセンター(http://pari.u-tokyo.ac.jp/policy/policyissues_bio_8.html)