【法学】(資料)法制審議会(刑法改正・性犯罪)

掲載:2015.11.21. 執筆:三成美保

性犯罪に関する刑法改正について(解説:三成)

2015年10月9日、法務大臣が法制審議会に刑法改正案を諮問した。改正の主なポイントは以下の5点である。

①強かん(姦)罪の法定刑の引き上げ
(現行)「懲役3年以上」
(問題点)強盗罪(懲役5年以上)よりも強姦罪のほうが刑が軽く、バランスを欠く。
(改正案)「懲役5年以上」(強盗罪と同等とする ※「懲役4年以上」の集団強姦罪は不要となるため廃止)
②性犯罪の非親告罪化
(現行)強姦や強制わいせつなどは、被害者の告訴がないと罪に問えない「親告罪」と定められている。
(問題点)加害者を処罰するかどうかが被害者に委ねられるため、被害者の負担が重きい。諸外国でも強かん(姦)罪は非親告罪が多い。
(改正案)告訴不要の「非親告罪」とする。
③性犯罪規定の性中立化
(現行)強制わいせつ罪は男女を問わないが、強かん(姦)罪は「男性が加害者・女性が被害者」と設定されている。
(問題点)男性もまた性犯罪被害にあうことが十分に考慮されていない。
(改正案)男女とも被害者になりうるとして条文を性中立化する。
④要件となる行為を拡大
(現行)強かん(姦)罪に問えるのは、「姦淫」(性交)のみである。
(問題点)性交以外の行為は「強制わいせつ罪」になってしまう。
(改正案)性交類似行為を含む。
⑤監護者(親など)による性暴力の規定を新設
(現行)規定なし。
(問題点)児童虐待としての性的虐待を処罰することが困難である。
(改正案)監護者による性暴力について新たに規定する。

2015年10月9日 諮問第101号(刑法改正の諮問)

法務省法制審議会資料をもとに一部加工(色づけなど)⇒*http://www.moj.go.jp/content/001161366.pdf

諮問第百一号
近年における性犯罪の実情等に鑑み、事案の実態に即した対処をするための罰則の整備を早急に行う必 要があると思われるので、別紙要綱(骨子)について御意見を賜りたい。

別紙 要綱(骨子)

第一 強姦の罪(刑法第百七十七条)の改正
暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の者を相手方として性交等(相手方の膣内、肛門内若しくは口腔内に自己若しくは第三者の陰茎を入れ、又は自己若しくは第三者の膣内、肛門内若しくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為をいう。以下同じ。)をした者は、五年以上の有期懲役に処するものとすること。 十三歳未満の者を相手方として性交等をした者も、同様とすること。

第二 準強姦の罪(刑法第百七十八条第二項)の改正
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等を した者は、第一の例によるものとすること。

第三 監護者であることによる影響力を利用したわいせつな行為又は性交等に係る罪の新設
一 十八歳未満の者に対し、当該十八歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用してわ いせつな行為をした者は、刑法第百七十六条の例によるものとすること。
二 十八歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用して当該十八歳未満の者を相手方として性交等をした者は、第一の例によるものとすること。
三 一及び二の未遂は、罰するものとすること。

第四 強姦の罪等の非親告罪化
一 刑法第百八十条を削除するものとすること。
二 刑法第二百二十九条を次のように改めるものとすること。
第二百二十四条の罪及びこの罪を幇助する目的で犯した第二百二十七条第一項の罪並びにこれらの 罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

第五 集団強姦等の罪及び同罪に係る強姦等致死傷の罪(刑法第百七十八条の二及び第百八十一条第三項) の廃止
刑法第百七十八条の二及び第百八十一条第三項を削るものとすること。

第六 強制わいせつ等致死傷及び強姦等致死傷の各罪(刑法第百八十一条第一項及び第二項)の改正
一 刑法第百七十六条若しくは第百七十八条第一項若しくは第三の一の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処するものとすること。
二 第一、第二若しくは第三の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期 又は六年以上の懲役に処するものとすること。

第七 強盗強姦及び同致死の罪(刑法第二百四十一条)並びに強盗強姦未遂罪(刑法第二百四十三条)の改 正
一 次の1に掲げる罪又は次の2に掲げる罪の一方を犯した際に他の一方をも犯した者は、無期又は七年 以上の懲役に処するものとすること。ただし、いずれの罪も未遂罪であるときは、その刑を減軽するこ とができるものとすること。
1 第一若しくは第二の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は第六の二の罪(第三の二の罪に係るものを 除き、人を負傷させた場合に限る。)
2 刑法第二百三十六条、第二百三十八条若しくは第二百三十九条の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又 は同法第二百四十条の罪(人を負傷させた場合に限る。)
二 一ただし書の場合において、自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除するものとすること。
三 一の1に掲げる罪又は一の2に掲げる罪の一方を犯した際に他の一方をも犯し、いずれかの罪に当た る行為により人を死亡させた者は、死刑又は無期懲役に処するものとすること。

法制審議会第175回会議(平成27年10月9日開催)

http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi03500026.html

配布資料4  諮問第101号PDF】
配布資料5  第3次男女共同参画基本計画(抜粋)【PDF】
配布資料6  平成16年及び平成22年刑法等改正の概要(附帯決議を含む)【PDF】
配布資料7  国連の各委員会による性犯罪の罰則等に関する最終見解【PDF】
配布資料8  「性犯罪の罰則に関する検討会」取りまとめ報告書【PDF】
配布資料9  警察における性犯罪の認知・検挙件数の推移(昭和26年~平成26年)【PDF】
配布資料10 性犯罪の量刑に関する資料PDF】
配布資料11 参照条文【PDF】
会議用資料  法制審議会委員等名簿【PDF】

法制審議会-刑事法(性犯罪関係)部会 第1回会議(平成27年11月2日開催)

http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00122.html

配布資料1 諮問第101号 〔PDF〕
配布資料2 第3次男女共同参画基本計画(抜粋) 〔PDF〕
配布資料3 「女性に対する暴力」を根絶するための課題と対策 ~性犯罪への対策の推進~(抜粋) 〔PDF〕
配布資料4 平成16年及び平成22年刑法等改正の概要(附帯決議を含む) 〔PDF〕
配布資料5 国連の各委員会による性犯罪の罰則等に関する最終見解 〔PDF〕
配布資料6 自由民主党女性活躍推進本部 提言(抜粋) 〔PDF〕
配布資料7 「性犯罪の罰則に関する検討会」取りまとめ報告書 〔PDF〕
配布資料8 警察における性犯罪の認知・検挙件数の推移(昭和26年~平成26年) 〔PDF〕
配布資料9 参照条文 〔PDF〕
配布資料10-1 「性犯罪の罰則に関する検討会」第2回会議議事録(平成26年11月21日) 〔PDF〕
配布資料10-2 「性犯罪の罰則に関する検討会」第3回会議議事録(平成26年11月28日) 〔PDF〕
配布資料11-1 ミシガン州性犯罪関連条文和訳(仮訳) 〔PDF〕
配布資料11-2 ニューヨーク州性犯罪関連条文和訳(仮訳) 〔PDF〕
配布資料11-3 カリフォルニア州刑法(抄)(仮訳) 〔PDF〕
配布資料11-4 イギリス性犯罪関連条文和訳(仮訳) 〔PDF〕
配布資料11-5 フランス性犯罪関連条文和訳(仮訳) 〔PDF〕
配布資料11-6 ドイツ性犯罪関連条文和訳(仮訳) 〔PDF〕
配布資料11-7 韓国性犯罪関連条文和訳(仮訳) 〔PDF〕
配布資料12 強姦罪の主体等及び性的行為の分類に関する主要国の法制度の概要 〔PDF〕
配布資料13 強制わいせつ罪及び強姦罪の制定経緯等について 〔PDF〕
配布資料14 性犯罪事例集(性交類似行為を含む強制わいせつ等の事案)
配布資料15 性犯罪事例集(加害者が女性,被害者が男性の事案)
配布資料16 諸外国の性犯罪及び強盗罪等の法定刑に関する資料 〔PDF〕
配布資料17 性犯罪の法定刑に関する改正経過等 〔PDF〕
配布資料18 量刑に関する資料 〔PDF〕
配布資料19 地位・関係性を利用した性的行為に関する主要国の法制度の概要等 〔PDF〕
配布資料20 地位・関係性を利用した性的行為に関する議論の経緯等 〔PDF〕
配布資料21 性犯罪事例集(地位・関係性を利用した性的行為の起訴事例)
配布資料22 性犯罪事例集(地位・関係性を利用した性的行為等の起訴事例)(姦淫行為以外)
配布資料23 性犯罪の親告罪に関する主要国の法制度の概要 〔PDF〕
配布資料24 性犯罪が親告罪とされた理由等について 〔PDF〕
配布資料25 親告罪の不起訴理由等に関する統計 〔PDF〕
配布資料26 強盗強姦罪が設けられた歴史的経緯等 〔PDF〕
配布資料27 性犯罪事例集(同一機会に行われた強姦と強盗の併合罪の事案)

席上配布資料
第175回法制審議会における諮問第101号に関する御発言の概要 〔PDF〕

「法制審議会」とは?

主管省庁及び庶務担当部局課:法務省大臣官房司法法制部司法法制課
根拠法令:法務省組織令第57条
設置年月日:昭和24年6月1日

所掌事務
1.法務大臣の諮問に応じて,民事法,刑事法その他法務に関する基本的な事項を調査審議すること。
2.
電子情報処理組織による登記事務処理の円滑化のための措置等に関する法律(昭和60年法律第33号)第5条第2項の規定に基づきその権限に属させられた事項を処理すること。

委員定数:20人以内 学識経験者(任期2年)