【特集11】労働とジェンダー

*【ジェンダー法学13~16】労働

○ILO条約を貫く「ジェンダー平等の原則」

早稲田大学寄附講座④「世界の労働基準と日本の労働基準~働き方をディーセントにするための国際労働基準と日本の課題~」日本ILO協議会専務理事 中嶋 滋氏

「(前略)ディーセント・ワークは、「働きがいのある人間的な仕事」ということだが、これはILOの中心課題であり、4つの戦略目標の達成を通じて実現を目指すものである。
その4つの戦略目標とは、①中核的労働基準の尊重・遵守、②良質な雇用の確保、③社会保護の拡充、④社会対話の促進である。

(中略)では、日本の課題は何なのか。
全ての目標を貫く「ジェンダー平等の原則」に関して、注目すべきILO条約は4つある。1つ目は、「男女の同一価値労働・同一賃金」(100号)。2つ目 が「雇用・職業生活上の差別禁止」(111号)であり、ILO加盟国183カ国中169カ国が加盟しているにもかかわらず、日本は批准していない。3つ目 が「家庭責任」(156号)、4つ目が「母性保護」(183号)である。
2009年7月に男女の賃金差別に関して100号条約(「男女の同一価値労働・同一賃金」)に違反するとして、憲章24条にもとづき是正勧告を求める申し 立てが行われた。この申し立てをILO理事会は受理し、政労使の三者構成委員会を設置、委員会は日本政府に見解書の提出を求め、審理を行い2011年11 月理事会で「是正を強く求めるとの勧告」が出された経緯もある。
なお、3つ目の「家庭責任条約」(156号)については、日本は批准しているが、単身赴任の問題など適用面で多くの問題がある。子供の養育や両親をはじめ とした近親者の介護など。家庭責任を有する労働者に対して男女共に人事配置上の配慮をしなくてはいけないとされているが、子供の養育は妻任せ、両親の介護 も妻任せ、夫は全国各地に単身赴任というケースがいくつもある。介護する親を抱えた家庭の事情で異動を断ったら、クビになったため、裁判を起こしたが負け てしまったという例がある。156号条約を批准したのだから、それを守る努力をしなくてはいけない。4つ目が「母性保護条約」(183号)であるが、日本 は批准できていない。産後休暇などを取った後の復職は、原職もしくは同等職へ復帰させなくてはいけない。しかも、賃金を絶対下げてはいけないと規定されて いる。これも残念ながら批准できていない。

ヨーロッパでは、社会的監査の一環として取り入れられている「ジェンダー監査」という手法がある。組織の構成役員、意思決定のあり方、運営方法など についてチェックリストを作成し調べジェンダー・バランスを図る。例えば、ノルウェーでは、法律で、民間会社の役員構成の3割以上を女性としなくてはいけ ないと定めている等の措置を執っている。
ジェンダー平等を基礎とした4戦略目標として、「中核的労働基準の尊重遵守」、「良質な雇用確保」、「社会保護の拡充」、「社会対話の促進」がある。
戦略目標1の「中核的労働基準の尊重遵守」では、未批准の105号(強制労働の廃止に関する条約)、111号(雇用及び職業についての差別待遇に関する条 約)を早期に批准することである。また、戦略目標2の「良質な雇用確保」では、約40%に達した非正規労働者や深刻な長時間労働問題やセクハラ・パワハラ の横行など、日本の実態を克服するに有益な内容が含まれている。
戦略目標3の「社会保護の拡充」では、雇用保険をはじめ社会保障制度非適用労働者の拡大の問題や社会的安全網の水準の低さと綻びの問題がある。日本の失業 保険(雇用保険)の失業者に対するカバー率は実に23%であり、昨年の11月現在では20.5%である。アメリカですらカバー率は40%以上で、フラン ス、ドイツは実に87~88%はカバーされている。このことからも、いかに日本の社会保障制度が遅れているかということである。
戦略目標4の「社会対話の促進」では、「国際労働基準促進のための3者協議」(ILO144号)については、年に最低2回以上の開催をしなくてはならない と定められているが、日本では、その最低2回しか開催していない。しかも、日本型三者構成の問題点として、「政労使」ではなく「公(公益)労使」で成り 立っており、政府は事務局というかたちで、一歩下がった立場にいる。ところが、政府が議題の原案をつくり、「公」のメンバーを任命し、討議をリードして、 まとめの作業も行っている。これはILOの三者構成とは異なる。(以下略)」

全体については→出典:http://www.zenrosaikyokai.or.jp/think_tank/action/report/kifu/waseda/2012_no04_02.html

(参考記事)→http://www.tokyo-np.co.jp/article/seikatuzukan/2015/CK2015011402000182.html

(参考)中核的労働基準については→*http://www.jtuc-rengo.or.jp/kokusai/ilo/