国際機関・各国のジェンダー法政策

掲載:2016-05-04 執筆:三成美保

(1)ポジティブ・アクション

「積極的改善措置(積極的差別是正措置)」をさす。アメリカでは、「アファーマティブ・アクション」という。ジェンダー法政策としての「ポジティブ・アクション」は、「社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより、実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置」(内閣府)をさす。近年、「ポジティブ・アクション」は、ジェンダー法政策の重要な柱をなすものとして各国で積極的な取り組みがはじまっている。政治(国会議員)や経済(取締役)について、多くの国でクオータ制(割当制)が導入されている。

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(2)各国のジェンダー法政策(男女共同参画白書H19年度版)

第1表 各国の主な状況

(3)国際機関・各国におけるジェンダー政策(ジェンダー主流化)

(関連記事)→【用語】ジェンダー主流化

「第2章 WID/ジェンダー概念の国際的潮流」(外務省ODA資料2003年から抜粋引用)

以下は、(外務省)「開発における女性支援(WlD)/ジェンダー政策評価- 途上国の女性支援(WID)イニシアティブの評価 -最終報告書」(2003年2月)http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hyouka/kunibetu/gai/wid/jk00_01_index.html のうち、「第2章 WID/ジェンダー概念の国際的潮流」から、国内政策の箇所を引用。ただし、用語等の色づけ及び[説明]は三成が行った。
(出典)全文は以下を参照→http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hyouka/kunibetu/gai/wid/jk00_01_0201.html

2-1 WID/ジェンダー概念の国際的潮流
(1)WID[開発における女性]からGAD[ジェンダーと開発]へ-国際的な潮流 1

1970年代入り、経済開発が、男性と女性に異なった影響をもたらしていること、そして特に女性に対してはむしろ負の影響を与えたことが指摘され、米国 を中心とした開発に携わる女性専門家達により「開発における女性(WID:Women in Development)」ア プローチが導入された。WID提唱者たちは、女性は家事や育児のみだけでなく、生産活動においても大きな役割を担っているに もかかわらず、女性の生産役割は過小評価され、結果、女性は開発プロジェクトから排除される結果を招いたとし、女性を単なる受益者として捉えるのではな く、人的資源としての女性を十分活用すべく開発過程に統合(integration)すべきであると主張した。WIDアプローチは、1975年の「国際女性年」およびそれに続く1976年から始まった「国連女性の10年-平等・開発・平和」と相まって、女性への配慮の必要性が急速にクローズアップされる結果を生んだ2。女性を対象とした開発プロジェクトが実施され、女性省や女性部局が設置された。

WID アプローチは、それまで開発過程において省みられることのなかった女性の存在を浮き彫りにしたという点で意義深いものである。しかし、1970年代後半ま でに、次第にWIDアプローチの限界が指摘されるようになった。WIDアプローチでは、女性の地位の低さを女性の資金等のリソースや教育へのアク セスが限られていることに求め、女性をターゲットとした小規模金融や所得向上、女子教育等の開発プロジェクトが実施された。しかし、そうしたプロジェクト は小規模で予算も少なく、開発計画全体から見ると主流とはなっていなかった。また、なぜ女性のアクセスが限られているのかという構造的問題に目を向けるこ となく、これまでの開発に統合(integration)す るにとどまったため、期待されたほど女性の所得向上をもたらすこともなく、プロジェクトの多く は期待された成果をあげられなかった。他方、WIDの潮流の中で女性問題を扱う女性省や女性部局が設置されたが、その多くは十分な予算・人材があてがわれ なかったことから、政府の主流の政策や意思決定に関われず、女性のニーズに十分応えることはできなかった。

こうした中で、1980年代より「ジェンダーと開発(GAD:Gender and Development)」ア プローチが導入されるようになった。ジェンダー(gender)とは、社会的・文化的に作られた性差を指す。生物学的な男女 (sex)の差異が時代や文化に左右されないのに対し、ジェンダーとしての男女の差異は社会的な関係を通じて作られ、歴史や経済、文化等によって変化す る。WIDアプローチが女性のみを問題視したのに対し、GADアプローチは、女性がアクセスにおいて不利を被っているのはジェンダーに基づく社会的な男女 の役割意識や意思決定などの力関係によるとし、男女の社会的役割や相互関係に目を向けた。ま た、WIDアプローチが既存の開発を疑問視することなく女性を 統合したのに対し、GADアプローチでは社会構造や制度を見直す必要性を指摘した。家庭や社会で共有されている男女の役割に関する認識、例えば女性が生ま れながらにして育児や家事をする役割を担っているといった考えが暗に政策にも反映されることで、一見男女に中立に見える政策であっても、男女に違った影響 を及ぼし得ることが明らかになった。家庭、社会、国家におけるジェンダーが、男女不平等を再生産し、強固にしていることが指摘されるようになり、ジェン ダー格差を生み出す社会構造や制度の変革が求められるようになった。また、WIDでは女性を均一な集団と捉えたのに対し、GADは女性をひとくくりにする ことの限界を指摘し、ジェンダーは階級やエスニシティといった社会分析の一つとなっている。

WIDとGADは、上述の通り理論的には明確に区別されているが、各ドナーの実際の取り組みにおいてはこれらの概念はさほど明確に区別されてはいないため、取り組みの類型においては留意が必要である。

(2)国際会議におけるジェンダー平等への歩み

1979年、女性に対する差別を国際的に定義した初めての法的文書「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(以下、女子差別撤廃条約)」が国連総会で採択された3。 第2条には、批准国の女子に対するあらゆる形態の差別を撤廃する政策をすべての適当な手段により、遅滞なく追求することへの合意が記載されており、同条約 の理念の核心をなす条項とされている。批准国は、条約内容の実施状況についての報告を定められた時期に提出することが義務づけられており、女子差別撤廃委 員会により審査された報告書に対する勧告をもとに、国内状況のさらなる改善のための取り組みを行うことになっている。この条約により、ジェンダー平等・女性問題を総合的に扱う「ナショナル・マシーナリー(女性の地位向上のための国内本部機構)」4の設立・整備が世界各国で行われるなどの進歩が見られた。

国際社会で、ジェンダー主流化へのパラダイムシフトが起きたといえるのは、1995年の北京会議か らである。1985年の国連第3回世界女性会議(ナイ ロビ会議)で初めて国際舞台の資料に登場した「ジェンダー統合」コンセプトは、開発の中の女性の役割を拡大し、女性の価値観からみて重要なものを開発の中 に織り込むための手段としてとらえられていた。ナイロビ会議は、あらゆる問題が女性問題であることを宣言した点と、不平等の是正のために取るべき具体的措 置を提示した将来戦略を採択した点で画期的だった5

1995年の北京会議で採択された行動綱領(以下、北京行動綱領)では、「全ての政策、プログラム、プロジェクトの意思決定を含む全ての過程・段階で ジェンダーの観点を組み込み使用する」、すなわちジェンダー主流化が明記された。北京行動綱領は各国政府、非政府機関、民間部門を含む国際社会と市民社会 に対し、主流化に対する積極的で明確な方針をとることを促している。さらに「我々(政府)のあらゆる政策と計画にジェンダーの視点が反映されるよう保障す る6」など各所で、女性のエンパワーメントと地位向上につながるあらゆる方策をあらゆるレベルで採ることが明示されている。

また、法律、公共政策、計画、プロジェクトへのジェンダーの視点の統合に際し、取るべき行動として、「政策決定がなされる前に、それらが女性、男性それぞれに及ぼす影響が分析されるよう努めること7」として、ジェンダー別統計と分析の実施を促している8。 国際社会において開発や人権を考えるにあたって、ジェンダーの平等は女性だけの問題ではなく、男女双方の問題であるという観点が不可欠だと、北京会議は認 識させた。会議後、多くの国がジェンダー主流化に取り組みはじめ、それを実行に移すための国家計画の制定・変更が行われ、プロジェクトやプログラムにも ジェンダーの観点が組み込まれるようになった。

先進国ドナーの集まりである経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC9) は、1983年にWID指導原則を採択、1989年にはナイロビ会議の将来戦略の優先課題を盛り込んだ改訂版を採択し、ジェンダーに関する国際的な潮流を 反映させるとともに、加盟国の活動におけるジェンダーの重要度を上げる役割を果たした。さらに、ジェンダー主流化の国際的な流れを受けて2つの政策宣言を 発表、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの実現に向けて加盟国が協調して取り組んでいく姿勢を表明した10。1998年、DACのWID専門家会合はジェンダー平等作業部会(Working Party on Gender Equality)と名称を変更し、DACや北京会議によって合意された目標の達成のための指針を打ち出すのに大きな役割を果たしてきた11。1998年には、北京会議で示されたコミットメント12(誓約)の実現と、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを促進する政策やプログラムの策定のために、DAC新ガイドライン「ジェンダー平等/女性のエンパワーメント指針」を発表した13

WID指導原則で提案されたWIDマーカーはジェンダー平等マーカーに改良された。WIDマーカーでは女性を主対象としたプログラムの実施が重視されて いたが、ジェンダー平等マーカーはそれより広義で、プログラム等の目標としてジェンダー平等を掲げ、女性のエンパワーメントにつながるWID的な活動はそ の中に含むという形になっている14。ジェンダー平等マーカーは、各国の取り組みのモニタリングやDACへの報告に使われると同時に、加盟国のジェンダー平等への取り組みの足並みを揃えるという効果もある15。主要先進国はこのようなDACの政策・新ガイドラインや前述の北京会議の内容を受けて、ジェンダー主流化の理念を政策やプログラムに反映するよう努めており、主流化は現在では国際的な開発アプローチとなっている。

 2-2 ジェンダー先進国のジェンダー政策と主要援助機関の取り組み

前節に述べたとおり、国際社会でWIDからジェンダー主流化への事実上のパラダイムシフトが起きたと言えるのは北京会議だが、それ以前にもジェンダーの 視点を活動に組み込み、国際会議等で他の国をリードしてきたのが、北欧諸国とカナダである。本節では、ジェンダー先進国としてカナダとスウェーデンのジェ ンダー平等に向けての政策や取り組みを取り上げる。次にグアテマラとホンジュラスに対する援助額が大きい先進国として米国、ドイツを、さらに中南米諸国の 主要ドナーとしてスペインを取り上げ、各国内でのジェンダー平等に向けての取り組みやODA政策におけるジェンダー分野の取り組みを概観する。さらにジェ ンダーの分野で重要な機能を担っている多国間援助機関として、国連開発計画(United Nations Development Programme―以下UNDP)、国連児童基金 (United Nations Children's Fund―以下UNICEF)、国連婦人開発基金(United Nations Development Fund for Women―以下UNIFEM)、米州開発銀行(Inter-American Development Bank―以下IDB)、パンアメリカン保健機構(Pan-American Health Organization―以下PAHO)のジェンダー分野の政策や取り組みを見ていくことにする。

(1)カナダ

1)国内政策
カナダの女性の社会的地位は国際的に高く、UNDP2002年版人間開発報告書のジェンダー開発指数(GDI)は世界第5位、ジェンダーエンパワーメント指数(GEM)16の順位は、ノルウェーなどの北欧諸国に続き世界第7位となっている。

カナダは憲法の一部である「権利と自由の憲章」で、性、階級、年齢、人種、民族等の差別の無い法の下での平等と恩恵を保障している17。1995年に承認された「ジェンダー平等化のための連邦計画」では、北京行動綱領の12の重大問題領域を受けて、国内外におけるジェンダー平等を推進するための目標と活動方針が示された18。その中で、連邦省庁および関連機関がジェンダー分析の結果を法律や政策に反映させること19およびカナダがジェンダー平等の推進のために国際社会でリーダーシップを発揮していくことが再確認されている20

カナダの女性の地位庁(Status of Women Canada:SWC)は1976年に設置され21、「女性の経済的自立と幸福」、「女性と子どもに対する暴力の根絶」、「女性の人権向上」の3分野に取り組むとともに、法律、政策、プログラムなどでのジェンダー平等の推進、ジェンダー分析適用の推進22、ジェンダー平等実現のために活動している団体や女性組織への資金、技術、専門知識の提供を行っている。

2)ODA政策(略)

(2)スウェーデン

1)国内政策
UNDP2002年版人間開発報告書のGDI順位4位、GEM順位3位のスウェーデンのジェンダー政策は、生活の全ての面で男性と女性が同じ権利や機会を享受でき、同じ責任を負う社会をつくることを目的としている36。 スウェーデンでは1990年代半ば以降、全ての大臣が各担当政策分野のジェンダー平等に関する責任を負うようになっており、その活動は「ジェンダー平等の ための大臣」(Minister for Gender Equality Affairs)によってサポートされている。政府でジェンダー平等の総合的な責任を負うのは副首相である。以前はジェンダー差別をなくすために政策を別 途策定していたが、現在では全ての政策にジェンダーの視点が組み込まれている。これは一般にジェンダー主流化と呼ばれるが、スウェーデンではジェンダー統 合(Integration)と呼ばれることが多い37

スウェーデンのジェンダー政策では、全ての公式統計でジェンダー別に数値を出すこと、全ての調査委員会38の提言案にジェンダーの観点を取り入れること、国家予算配分にジェンダーの観点を入れて平等を促進すること、などが義務付けられている39。平等のためのオンブズマンは、独立した機関として、法令が社会や職場における男女平等の達成と整合しているかをチェックする役割を持っている。

スウェーデンのジェンダー平等政策では、具体的には以下のように女性と男性は暮らしの全ての場で同様の機会・権利と責任を保持すべきとされている。

  • 女性と男性の均等な意思決定の機会と双方の意思の公正な反映
  • 経済的に自立するための女性と男性の同等の機会
  • 事業、雇用の条件とキャリアアップの機会における男女の平等
  • 女児と男児、女性と男性の教育アクセスの平等、夢、興味、才能の発達の機会の平等
  • 家庭(家事)と子供に対する責任の分担
  • 性的(ジェンダーに関する)暴力からの自由40

2)ODA政策(略)

(3)アメリカ合衆国

1)国内政策
米国では、各省や機関がそれぞれジェンダー平等を推進する取り組みを行っており、国務省では民主化・人権・労働局 (Bureau of Democracy, Human Rights, and Labor)が、女性・子供・マイノリティの権利の拡大・確保を促進している。女性の保健に関しては連邦保健福祉省女性の健康局が、労働に関する女性の支 援・権利の確保は労働省女性局が受け持つ49などしているが、他国のような総合的に女性問題を扱う政府機関は存在しない。

さまざまな組織のジェンダー平等のための活動をまとめるため、北京会議開催前の1995年8月、クリントン大統領(当時)のイニシアティブにより「女性の組織間委員会」が設立され、以来北京行動綱領の実施のコーディネーター的役割を担ってきた50。委員会は女性の利益につながる政策やプログラムに関わっている連邦政府関連機関の上級幹部により構成されている51。委員会は北京行動綱領の12重大問題領域ごとにグループ分けされ、政策作成や問題提起を行い、女性問題に関する会議の対応をするほか、NGOと連携した活動を実施している52

2)ODA政策(略)

(4)ドイツ

1)国内政策
ドイツ59のジェンダー平等のための国家組織は、1953年に設立された家庭・高齢者・女性・青年省60である。1980年、「職場における男女の平等処遇に関する法律」が他ヨーロッパ諸国の外圧61に後押しされる形で議会を通過した。1980年の第2回世界女性会議(コペンハーゲン会議)以降、ドイツは女性評議会をはじめとする政府、州、自治体レベルの組織や団体を、ジェンダー平等のための国家組織の一部として整備した62。 1980年代後半から1990年代前半にかけて、ジェンダー平等にかかわる新しい法令や改正されたものが発行されたが、これは特に北欧や英国などの他ヨー ロッパ諸国の影響と、東西ドイツ統一の際に旧東ドイツ(ドイツ民主共和国)の非差別法令を取り込むよう女性たちが働きかけた結果によるものである631999年6月、連邦政府がジェンダー主流化を全ての政策に適用することを決定したため、以来、全連邦省の全ての政治的・法的・行政的取り組みと決定にジェンダー平等を反映させねばならなくなった64。地方分権化の進んでいるドイツでは、州ごとにも同様の取り組みがなされ、多くの州で平等に関する州法が可決されている65。2001年時点でほとんどの州において独自にジェンダー主流化計画が立てられ、現在では全ての州に女性問題担当大臣あるいは女性政策担当専門委員が置かれている66ジェンダー主流化は2000年の政府プログラム、「現代国家-現代的な行政」の一部とされ、取り組みが一層強化されている。

2)ODA政策(略)

(5)スペイン

1)国内政策
スペインの女性局(Women's Institute)は、文化省の一部として設立されたが1988年に独立し、社会担当省の監督下に置かれた。女性局は過去に3つの平等に関する計画を作 成し、不平等の減少や女性の社会参加に貢献した。第一の計画では法的不平等の排除に狙いを定め(1988-1990年)、第二の計画では積極的差別是正措 置を導入し(1993-1995年)、第三の計画では北京会議で提示されたジェンダー主流化の観点から女性の社会統合の方針を発展させた (1997-2000年)79。具体的にはNGOへの資金援助を通して、女性の政治参加の促進を目的とした啓蒙キャンペーンや、社会的地位の高い女性の統計的調査が行われた。また「新社会契約」として、公的・私的分野における家庭と仕事の責任分担の重要性が強調された80

2)ODA政策(略)

(6)UNDP[国連開発計画]のジェンダー政策

UNDPは「持続可能な人間開発」を開発の基本原理に掲げ、民主的ガバナンス、貧困削減、危機予防と復興、エネルギーと環境、情報通信技術、HIV/エイズの6分野に活動の重点を置いている。

UNDPはこれら6つの分野に、人権の尊重と女性のエンパワーメントを通して取り組んでいくとし84、ジェンダー平等のために特別な分野を設定するのではなく、ジェンダー主流化を通じて組織目標の達成に取り組む方針をとっている。UNDPは、上記6つの重点分野への取り組みにより女性が利益を得られるようにその責任を果たしていく、と明言している85

UNDPは、UNIFEMにより開発され試行されたジェンダー平等のための措置の内容を充実させ、国際的ネットワークと国連でのコーディネーター的役割を通じてそれを世界に広めていくという責任も負っている86。また、UNIFEMと協力して、途上国におけるジェンダー予算87の 作成を支援している。UNDPはジェンダー平等に関する取り組みとして、1)ジェンダーの視点を上記6つの重点分野に取り込むための国ごと・UNDP双方 のキャパシティビルディング、2)貧困層、女性のためになる政策アドバイスの提供、3)UNIFEMと協力したジェンダー平等に特化した支援、という3種 類のアプローチを採用している88

1987年にUNDP内に設立された「開発におけるジェンダープログラム」(Gender in Development Programme-以下GIDP)は、UNDPのジェンダー平等政策の実施や活動を支え、女性のエンパワーメントを促進する役割を担う89。GIDPはジェンダーに関する政策やプログラムにおける指導的役割を果たすほか、ジェンダーがUNDPの取り組みの中に十分に取り込まれるようにプロジェクト評価に積極的にかかわり、北京行動綱領と女子差別撤廃条約90で確約された事項の実現に向けた国レベルの取り組みを支援している91。GIDPは、コストシェアリングやトラストファンドなどの、ジェンダー平等のための支援の資金獲得と運用にも関わっている92

UNDP は現在までに、ジェンダー主流化の指針となる4文書を発行している。1つ目は1996年に総裁から在外事務所代表者に向けられた「Direct Line 11」で、主流化を実施するにあたっての組織の優先事項、資金配分の目安などを指導するものである。2つ目は1997年に発行された「ジェンダー主流化の ためのガイダンスノート」で、UNDPの活動におけるジェンダーの重要性を再確認し、その実現のために管理職(本部、各国)が中心となって取り組みを進め ていくことを確約したものである。3つ目は1998年の「マネージメントにおけるジェンダーバランス」であり、UNDP内のジェンダー平等達成のための戦 略についての政策文書である93。 4つ目は2002年11月に発表された「ジェンダー平等における政策ノート」で、1)6つの優先分野の中へのジェンダーの組み込み、2)ミレニアム開発目 標の実行および達成状況の評価、3)在外コーディネーターによるジェンダー支援の拡充、4)人間開発報告書、国別、地域別人間開発報告書などの効果的な提 言ツールの利用、という4つの方法により、ジェンダー平等の実現に向け努力するとしている94

(7)UNICEF[国連児童基金]のジェンダー政策

UNICEFは、子どもの権利の保護と基本的ニーズの充足、そして潜在的能力を十分に引き出すための機会の拡大の支援を進めている95。UNICEFは「児童の権利に関する条約96」を規範としており、子どもの権利が恒久的な倫理原則、国際的な行動基盤として確立されるように活動している97

児童の差別に関する条約に加え、女子差別撤廃条約は、UNICEFの任務と使命に不可欠な枠組みとなっている98。UNICEFは1985年に初めて女性と女児のための政策を確定した国連の機関の1つであり、1987年にはその実施のための戦略文書を策定した99。 戦略文書では女性のニーズや課題を重視し、それらがUNICEFのプログラムの中で具体的な対象として扱われるべきと提言している。このアプローチでは、 UNICEFが通常の国別のプログラム戦略の枠内で、女性の正当な権利として、また、子供の生存と発育への鍵として、女性の社会的・経済的エンパワーメン トを促進するとしている100

1994 年、UNICEFは「ジェンダー平等と女性・女児のエンパワーメント政策」を発表し、女児・女性のみを対象とする政策にジェンダーの視点を取り 入れ、男女の不平等な役割分担や地位を規定する構造的な原因を分析し、男女の不平等を克服することが女性の地位向上には必要であると述べた101。加えて、ジェンダー主流化を進めるにあたって、UNICEFの国別のプログラムを通して当該国の国家開発計画にジェンダーが横断的課題として組み込まれるよう支援していくことなどが盛り込まれた102。 1996年には北京行動綱領を反映し、UNICEF理事会により、1)女子教育、2)女性と女児の健康、3)子供と女性の権利、の3つの優先分野が決定さ れた。さらに組織使命として女性と女児の権利の充足を明示するなど、UNICEFはジェンダー平等のための取り組みを強化している。

(8)UNIFEM[国連女性開発基金]のジェンダー政策

UNIFEMは、女性の人権の充足に寄与するプログラムや取り組みに対して、資金と技術面で支援を行っている103。 UNIFEMは1975年の第1回国連女性会議(メキシコ会議)に出席していた女性団体の要望によって1976年に設立され、現在では100以上の国で活 動を行っている。14の地域にプログラム責任者を置き、世界中にジェンダーアドバイザーや専門家のネットワークを持っている104

UNIFEMは国連システムの中で、各国との協調関係の促進を通してジェンダー主流化と女性のエンパワーメントのための戦略に対する技術的支援を行うことにより、女性にとっての課題を国家的・地域的・世界的課題と結びつける役割を担っている105。UNIFEMの目標は

  • 国家的・地域的優先課題において、女性にとって利益となるような新進の試みを支援する。
  • 主流の開発事業において女性が計画段階から適切に参加できる機会を促進する。
  • 国連の開発協力全体において先進的な役割を果たし、ジェンダー平等を進めるきっかけとなる。

ことである106

UNIFEM は3つの緊急課題として、1)女性の経済的権利を支援し、女性が安定した生活を送れるようにエンパワーメントを図る、2)女性が人生に関す る意思決定へさらに参加できるよう、より良いガバナンスと平和の構築に取り組む、3)開発をさらに公平で持続的なものにするために、女性の人権の充足の推 進と女性に対する全ての種類の暴力を撲滅すること、を挙げている107。UNIFEMの活動の指針となる5つの中心戦略は以下の通りである。

  • 女性組織とネットワークのリーダーシップと能力強化を支援する。
  • 幅広い利害関係者から女性のための政治的、資金的支援を得られるようにする。
  • 女性組織、政府、国連システム、民間部門の間に新しいパートナーシップを構築する。
  • 女性のエンパワーメントと、ジェンダー主流化のための革新的アプローチを試すために、パイロットプロジェクトを行う。
  • 開発の全プロセスでジェンダー主流化を図るための効果的戦略に関する知識を構築する。

(9)(10)略

2-3 日本のODAにおけるWID/ジェンダー分野への取り組み
(1)日本政府

1992年に閣議決定されたODA大綱において「開発における女性の積極的な参加と開発によって女性が便益を得ることについて配慮する」こ とが明記され た。1995年、わが国は、北京会議の首席代表演説において、WIDイニシアティブを発表し、女性の「教育」、「健康」、「経済・社会活動への参加」の3 分野を中心に、開発援助の拡充に努力することを表明した。1999年に発表したODA中期政策では、重点課題のひとつである貧困対策や社会開発分野の支援 を掲げ、その中でWID/ジェンダーを重視するとしている。

このような政策レベルでの整備だけでなく、案件レベルでのWID/ジェンダー分野の取り組みも進められてきた。2000年度の当該分野の実績123は、 新規研修員受け入れ922名、個別専門家派遣46名、プロジェクト方式技術協力48件、開発福祉支援事業29件、開発調査87件、青年海外協力隊派遣 521名、一般無償資金協力28件、草の根無償資金協力399件、有償資金協力6件、NGO事業補助金14件である。こうした二国間協力における取り組み に加え、UNDPや国際農業開発機関(International Fund for Agricultural Development―以下IFAD)内に設置したWID基金等、国際機関への拠出を通じた支援も行っている。日本WID基金(Japan Women in Development Fund: JWIDF)は、1995年、持続可能な人間開発と貧困削減のために、さまざまなプロジェクトを通じて、発展途上国の女性の経済的、社会的、政治的な地位 を向上させ能力を高めることを目的として、日本政府によってUNDP内に設立された。基金設立以来、40件以上のプロジェクトが同基金による支援を受けて いる。「WIDイニシアティブ」の重点分野である、教育、健康、経済・社会活動への参加、また、UNDPの重点分野である女性の政治参加、インフォメー ションテクノロジー(IT)へのアクセス、紛争後の復興における女性の参加などに関する支援によって、女性の地位向上とジェンダー平等を推進している。 UNDPと日本のパートナーシップは、日本WID基金を通じた資金面での協力だけではなく、現場レベルでもうまく生かされており、例えば、グアテマラにお けるジェンダーの平等化と女性の地位向上を実現するための「女子教育支援プログラム」を通して日本とUNDPは教育省を支援している。

ODA の企画・立案を担う外務省では、1989年に経済協力局内各課にWID担当官を指名、在外公館においては、1992年に18公館にWID担当官を 指名、1994年には、追加指名し、計84公館に拡大し、WID/ジェンダー分野への取り組みを強化するための組織体制の整備を進めてきた。

(2)(3)略

注(略)