工業化と労働のジェンダー化

掲載:2016-11-13 執筆:三成美保

【高校世界史教科書から】

①「工場労働と女性 工場労働は、女性の地位を大きく変化させるものとなった。これまで女性が働かなかったのではなかった。変わったのは、女性の一生と労働との関係だった。それまで女性の仕事は、結婚前の奉公や見習いなどから、結婚後の商い、機織り、牧畜や農耕など、出産や育児によってもほとんどとだえることなくつづけられ、むしろ一家を支える力となっていた。だが、工場の機械の前での労働は出産、育児とはあいいれなかった。工場での女性労働問題が人々の関心をひくようになった。農家の未婚の女性が工場で働き、結婚でやめて旧来の仕事にもどったり、都市の家庭にはいったりするというサイクルがしだいにつくりだされ、労働から離れた家庭婦人の理想像が形成されていった。さらに、工場の労働と生活の場の分離によって、家族のあり方も変化していった。子どもも家庭と学校で保護されるべきものとなり、仕事の場とは分離した家庭生活の型が、中産階級のあいだから定着し理想化されていった。」(『世界史A』東京書籍、2013年、78ページ)

②「社会問題と労働運動の誕生 (前略)低賃金の長時間労働や劣悪な労働環境の改善、女性や児童の酷使の廃絶、居住条件の改善などが、緊急を要する重大な労働問題であった。」(『世界史B』東京書籍、2007年、258ページ)

③「(コラム)生活と家族の変化 (前略)家族の理想像にも変化が生じた。男性は賃金収入で家計を支える役割を、女性は家庭の維持を第一とする従属的な役割を与えられた。労働者家族の妻(母)は多くが働いていたが、の労働はあくまで補助収入のためとされ、賃金のない家事労働は低くみられるようになった。一日の長い労働時間は男女同様であったが、男女の賃金格差は大きかった。19世紀がすすむと、児童保護とならんで、女性保護のために労働時間は制限されていったが、賃金格差の撤廃は、欧米でも20世紀末近くまで実現しなかった。」(『世界史B』東京書籍、2007年、258ページ)

④「資本主義体制の確立と社会問題の発生 (前略)他方、分業がすすんで、女性や子どもも工場や鉱山で働くことが可能になったが、当時の資本家の多くは利潤の追求を優先して、労働者に不衛生な生活環境のもとでの長時間労働や低賃金を強制した。そのため労働者と資本家の関係は悪化し、深刻な労働問題・社会問題が発生する一方、社会主義思想など、その解決をめざす思想も誕生した。」(『詳説世界史B』山川出版社、2014年、244-245ページ)

※エンジはタイトル、青字は本文ゴシック、赤字は女性・ジェンダーに関する語(三成による)

【コメント】

上記①や③のように、性別役割分業の発生や近代家族の成立に言及する教科書も登場している。ただし、留意すべきは、「稼得労働=男/不払い労働=女」という役割分担は、労働者家族で成立したのではなく、典型的には上層ブルジョアジーでまず成立したことである。上層ブルジョアジー(ドイツでは「教養市民」という。19世紀初頭で家族を含め、人口の5%であった)では、いわゆる「専業主婦」が登場した。主婦は家事・育児の責任者であったが、実労働は女中が行った。19世紀後半になると、上層ブルジョアジーの家族像(核家族の主婦婚モデル)が中産層に受け入れられていった。ドイツでは、農村に主婦婚モデルが浸透するのは、第二次世界大戦後である。労働者家族の場合、賃金の低さから夫婦共働きが一般的であり、女性は稼得労働と不払い労働の二重の労働を担当した。

なお、前近代の西ヨーロッパ社会では、親方になるか農地を相続しないと原則として結婚できず、婚姻外性関係は禁止されていたため、人口も増えなかったが、家経営の解体とともに奉公人が労働者として稼得機会を得るようになり、結婚チャンスが増えた。これとともに人口も急増していく。

経済成長 The effect of Industrialisation shown by rising income levels since 1500. The graph shows the gross domestic product (at [[]]) per capita between 1500 and 1950 in 1990 International dollars for selected nations. (出典)https://en.wikipedia.org/wiki/Industrialisation

【史料】

Quellensammlung zur Geschichte der deutschen Sozialpolitik 1867 bis 1914, 40 Bände, 1966 bis 2016.

→『読み替える(世界史)』10-7(姫岡とし子)

●参考文献

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