目次
伝えられなかった中絶薬ーオウコチョウ(アメリカからヨーロッパへ)
掲載:2016-05-07 執筆:小川眞里子
伝えられなかった中絶薬ーオウコチョウ
「誰が科学をするかは重要な問題である。旅する植物学者がほとんど男性であるがゆえに見落とされる薬草もあった。たとえば、1687年にジャマイカに向けて航海し、のちに王立協会会長になるロンドンの内科医ハンス・スローンが、西インド諸島で探し求めたのは有用な薬草であったが、中絶用の植物に関心が向けられることはなかった。そもそも男性の学者たちは、中絶という薬効に関心がなかった。そうした知の状況を象徴するのがオウコチョウである❷。西洋では中絶はもちろんのこと避妊も禁止されていたが、女性たちは密かにそうした知識を長い歴史を通して伝承してきていた。(小川眞里子)」(『歴史を読み替える(世界史編)』2014年、154頁から引用)
⇒「種痘」「キナ(マラリア特効薬)」などについては、『歴史を読み替える(世界史編)』の「9-5:食・薬の伝来と変化」(小川眞里子)を参照。
【史料❷】中絶薬について:メリアン『スリナム産昆虫変態図譜』(1705年)オウコチョウの記載
「オランダ人の主人からひどい扱いを受けていたインディアンは、子供が奴隷になるくらいならばと嘆き(この植物の)種子を用いて中絶を行っています。ギニアやアンゴラから連れてこられた黒人奴隷は、子供をもつことを拒む素振りを見せて、少しでも境遇が良くなるように願ってきました。・・・彼女たちの中には耐えかねて自らの命を絶つ者もいました。」(『植物と帝国』より)
参考文献
L.シービンガー(小川他訳)『植物と帝国』工作舎、2007
T.キッド(屋代訳)『マリア・シビラ・メーリアン:17世紀、昆虫を求めて新大陸へ渡ったナチュラリスト』みすず書房、2008
中野京子『情熱の女流「昆虫画家」:メーリアン波乱万丈の生涯』講談社 2002