【ジェンダー法学】ポジティブ・アクション(三成美保)

更新:2015-11-17 掲載2015.01.16 執筆:三成美保

◆定義(2015-11-17追加)

ポジティブ・アクションの効果

http://www.positiveaction.jp/about.html

【解説(三成美保)】

日本におけるポジティブ・アクション推進の根拠法は、男女共同参画社会基本法(1999年)(⇒【法令】男女共同参画社会基本法(1999))である。同法は、「積極的改善措置」(第2条、第8条)を定め、同法にもとづいて策定される「男女共同参画基本計画」では数値目標が設定された。「2020年までに社会の指導的地位にある女性の比率を30%にする(いわゆる2030)」(第3次男女共同参画基本計画2010年)という「ゴール・アンド・タイムテーブル方式」である。公務員についてはかなり強い強制が働き、採用比率は上昇している。しかし、民間企業への強制は困難であり、緩やかな両立支援策にとどまっていた(厚労省による両立支援企業の表彰など)。
2015年8月成立の「女性活躍推進法」は一定規模以上の企業に、女性登用の目標設定を義務づけるものである。罰則がないため、強制力は不明であるが、国民の監視がしやすくなる。
他方、国会議員、地方議員を問わず、議会における女性比率は国際社会に比べてきわめて低い。これについては、政党によっては積極的な取り組みをしているところもあるが、法的強制は働かない。ポジティブ・アクションは、経済的課題に限られない。むしろ、諸外国でさきに進んできたのは、議会におけるポジティブ・アクションである。政治的意思決定の場におけるジェンダー不平等を放置したまま、公務員や企業における女性管理職の増加に問題を限定するべきではない。

●【法令】男女共同参画社会基本法

(定義)第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一  男女共同参画社会の形成 男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社 会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会を形成することをいう。
二 積極的改善措置 前号に規定する機会に係る男女間の格差を改善するため必要な範囲内において、男女のいずれか一方に対し、当該機会を積極的に提供することをいう。

 

◆『男女共同参画白書』H23年度版「特集:ポジティブ・アクション」

→http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h23/zentai/index.html

◆ポジティブ・アクションの3類型 

  • ポジティブ・アクションには、大きく3類型がある。①穏健な女性支援策、②中庸なタイム・ゴール方式(ゴール・アンドタイムテーブル方式)、③厳格なクォ-タ制である。
  • 「ワーク・ライフ・バランス」などの両立支援や女性応募の奨励は①、委員会における女性委員比率の設定は②、議員や委員の女性への割当制、北欧の男女交互名簿方式、韓国の候補者名簿制、フランスのパリテ法は③にあたる。
  • 近年、アジア・アフリカでもクォータ制導入の傾向が著しい。インド(地方議会議席33%)、韓国(比例代表選挙の政党候補者名簿50%)、タンザニア(国会議席20%、地方議会議席25%)などである。

◆日本の現状(国会議員の女性比率)

  • 男女共同参画社会基本法は、 積極的改善措置(第8条)を定めている。CEDAW一般勧告25号(2004年)は、暫定的特別措置(条約第4条)の包括的実施と報告を求めた。
  • 2009 年の第4回CEDAWレポート審査で政治分野における同措置の採用が勧告されたのを受け、2010年第3次男女共同参画基本計画では、公務員を中心に一定 の数値が目標設定された。
  • しかし、国会議員については女性候補者比率の向上を努力目標として掲げただけで、「政党の自律的行動を制約するものではない」と の注が付されるにとどまった。

『男女共同参画白書H27年版』から引用(2015-11-17追加) 

(国会議員に占める女性割合)
内閣府「女性の政策・方針決定参画状況調べ」により,国会議員に占める女性割合について,その推移を見ると,衆議 院総選挙当選者においては,戦後の一時期を除いて,1~2%台で推移していた。その後,平成8年(第41回選挙)に小選挙区比例代表並立制が導入されて以 降増加したが,衆議院の女性議員割合は26年12月末現在9.5%(45人)であり,国際比較すると,190か国中153位(27年1月現在)となっている。
また,参議院においては,昭和22年4月(第1回選挙)の4.0%(10人)からおおむね増加傾向にあるが,平成26年12月末現在では15.7%(38人)と前年から減少している。

第2図 我が国と諸外国の国会議員に占める女性割合の推移

出典:男女共同参画白書H23年版(二院制の場合には下院・日本では衆議院)

第1図 衆議院議員総選挙候補者,当選者に占める女性割合の推移

男女共同参画白書H27年版

◆国家公務員(2015-11-17追加)

『男女共同参画白書H27年版』から引用

(国家公務員採用者に占める女性割合)
平成27年度は,国家公務員採用試験からの採用者に占める女性の割合を30%以上にするとともに,そのうち総合職 試験の事務系区分の採用者に占める女性の割合についても30%以上を確実に達成することを政府目標として掲げたところ,同年度の国家公務員採用試験全体か らの採用者に占める女性の割合は31.5%となっている。また,総合職試験等(国家公務員採用総合職をいう。)からの採用者に占める女性の割合は 34.3%で,このうち事務系区分については,女性の割合が36.6%となっている(I-1-3,4図)。

(女性国家公務員の登用状況)
国家公務員在職者に占める女性割合については,第3次男女共同参画基本計画において,平成27年度末までに地方機関課長・本省課長補佐相当職以上は10%程度,本省課室長相当職以上は5%程度,指定職相当は3%程度を目標としている。
地方機関課長・本省課長補佐相当職以上(行政職俸給表(一)5級相当職以上)に占める女性の割合は,平成26年1 月時点で5.6%,本省課室長相当職以上(行政職俸給表(一)7級相当職以上)に占める女性の割合は同年9月時点で3.3%,指定職に占める女性の割合は 同年9月時点で2.8%となっており,その増加幅は近年拡大している。しかし,依然として目標(10%程度,5%,3%程度)とのかい離が見られ,上位の 職への女性の登用が課題となっている(I-1-5図)。

第3図 国家公務員採用試験からの採用者に占める女性割合の推移

男女共同参画白書H27年版

第4図 国家公務員採用試験全体及び総合職(I種)試験等事務系区分の採用者に占める女性割合の推移

男女共同参画白書H27年版

第5図 女性国家公務員の登用状況の推移

男女共同参画白書H27年版

◆クォータ制 

  • 法律による強制的クォータ制をめぐっては、憲法との整合性が問われる。
  • EC裁判所では、女性優遇規定をもつドイツの州公務員法の妥当性が争われ、女性優遇を覆す留保条項を付けた州法はEC指令違反ではないとされた(1997年マーシャル判決)。
  • フランスではクォータ制を違憲とする判決を受け、憲法改正を行ってパリテ法を成立させた。
  • 一方、女性の議員比率が30~40%に達する北欧諸国では、政党がいち早く自発的クォータ制を導入した。
  • 日本では、比例代表制候補者名簿の割当型ならば違憲にならないと考えられるが、政党による自発的な取り組みが先行することが望ましい。
  • 【ジェンダー法学2-②】ポジティブ・アクション(各国の取り組み)(三成美保)
第1表 地域別・諸外国の国会議員に占める女性の割合とクオータ制の取組

国会議員にクオータ制(出典:男女共同参画白書H23年版)

 

◆役員のポジティブ・アクション

  • 近年の動向は、企業役員へのポジティブ・アクションの導入である(表③)。
  • 日本における役員の女性比率はきわめて低い。先進国平均は11.8%、新興国平均は7.4%であるのに対し、日本はわずか1.1%である(2013年アメリカの調査会社による世界5977社の調査結果)(表①)。
  • 日本では、2012年に「「女性の活躍推進」による経済活性化」行動計画が策定され、経済界における女性の活躍(経済産業省はこれを「女性活用」と表現した)が期待されている。女性人材を積極的に活用している企業を「なでしこ銘柄」として選定する取り組み(経済産業省)がはじまったのもこの行動計画にもとづいている。ただ、「なでしこ」という表現は「清楚でたおやかな女性」を意味する「大和なでしこ」を連想させ、用語の妥当性については疑念が残る(表②)。

表①:企業の女性役員比率

2015ジェンダー法学教科書改訂関連図版

表②:経済産業省資料(2014年)

より詳しくは
*【労働①】ワーク・ライフ・バランス(2014年経済産業省資料から)
*【女性】「女性活躍」策とその背景ー経済的効果(三成美保)

スライド5

表③:役員クオータ制の取り組み(男女共同参画白書H23年版)

第47表 各国における役員クオータの概要

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『男女共同参画白書』H23年版

◆女性活躍推進法

女性活躍推進法については⇒【女性】女性活躍推進法(2015年8月成立)2015-11-17