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【用語】ジェンダー主流化(gender mainstreaming)
2019-08-19更新 (執筆:三成美保/参考:三成他『ジェンダー法学入門』法律文化社、2011年)
【解説】ジェンダー主流化
ジェンダー主流化(gender mainstreaming)は、1990年代に広まった新しい潮流である。その起点は、ウィーン世界人権会議(1993年)と北京会議(1995年)とされる。国連では、1997年に経済社会理事会が採択した定義が用いられる。ジェンダー主流化の最終目標は、ジェンダー平等(gender equality)の達成にある。ジェンダー主流化は、3点で国際人権法のあり方を変えた。①個人モデルの修正、②私的領域への関心の拡大、③ジェンダー化された国内法への揺さぶりである。それは、国際人権法のコンテクストを根底からつむぎなおすものであった。
(関連記事)→*【比較】国際機関・各国のジェンダー法政策
【資料】国連における「ジェンダー主流化」の定義
①国連経済社会理事会(1997年)
「ジェンダー観点を主流化するということは、あらゆる領域とレベルにおいて、法律、政策もしくはプログラムを含む全ての活動が、男性と女性に対して及ぼす影響を評価するプロセスなのである。これは、女性の関心と経験を、男性のそれと同じく、あらゆる政治、経済、社会の分野における政策とプログラムをデザインし、実施し、モニターし、評価するにあたっての不可欠な部分にするための戦略であり、その結果、男女は平等に利益を受けるようになり、不平等は永続しなくなる。主流化の最終の目標は、ジェンダー平等を達成することである」。[山下・植野2004『フェミニズム国際法学の構築』p.468f.]
【参考】申 琪榮「「ジェンダー主流化」の理論と実践」(2015)
①1997年の国連経済社会理事会(ECOSOC)の定義
「ジェンダー視点の主流化とは、あらゆる領域・レベルで、法律、政策およびプログラムを含むすべての企画において、男性及び女性へ及ぼす影響を評価するプロセスである。女性と男性が等しく利益を得て、不平等が永続しないようにするために、男性のみならず女性の関心と経験が、すべての政治的、経済的そして社会的な領域における政策とプログラムを企画、実行、モニタリングおよび評価する際に不可欠な次元にするための戦略である。究極の目標はジェンダー平等を達成することである」(申訳)
Mainstreaming a gender perspective is the process of assessing the implications for women and men of any planned action, including legislation, policies or programs, in all areas and all levels. It is a strategy for making women’s as well as men’s concerns and experiences an integral dimension of the design, implementation, monitoring and evaluation of policies and programs in all political, economic and societal spheres so that men and women benefit equally and inequality is not perpetuated. The ultimate goal is to achieve gender equality.
②1998年の欧州評議会(the Council of Europe)の定義
「政策プロセスの(再)組織、改良、開発と評価であり、ジェンダー平等視点が通常政策立案に関係している行為者によって、すべてのレベルにおいて、そしてすべての段階において、すべての政策に取り入れられるように(するものである)」(申訳)
the (re)organization, improvement, development and evaluation of policy processes, so that a gender equality perspective is incorporated in all policies at all levels and at all stages, by the actors normally involved in policy making.
(出典)申 琪榮「「ジェンダー主流化」の理論と実践」『ジェンダー研究』第18号(2015)、pp.2-3.
⇒http://www2.igs.ocha.ac.jp/wp-content/uploads/2016/02/18-Shin.pdf
②2005年世界サミット(国連首脳会合)の成果文書(2005年9月)
→成果文書(全文:外務省)のうち、とくにジェンダーに関連する部分(赤字)は以下の通りである(外務省仮訳)。
→成果文書の概要はこちら(外務省)。
「I. 価値と原則
(中略)
12. 我々は、ジェンダー平等、及び、あらゆる人権と全ての基本的な自由の完全な享受の促進と保護が、開発、平和と安全を進展させるために不可欠であることを再確認する。我々は、未来の世代に適した世界を造ることにコミットしており、それは子供にとって最善の利益を考慮することである。
(中略)
Ⅱ.開発
(中略)
ジェンダー平等及び女性の地位向上
58. 我々は、女性にとっての発展がすべての人々にとっての発展であると確信する。我々は、北京宣言及び行動綱領の開発目標や諸目標及び第23回国連特別総会の成果の完全かつ効果的な実施が、ミレニアム宣言に盛り込まれた開発目標や諸目標を含め、国際的に合意された開発目標の達成に不可欠な貢献であることを再認識する。また、以下の取組によりジェンダー平等を促進し、広範囲のジェンダー格差を是正することを決意する。
a) 可能な限り早期に、初等・中等教育における男女格差を解消し、2015年までに、全ての教育レベルにおける男女格差を解消する。
b) 財産の所有及び相続に関する女性の自由かつ平等な権利を保証し、土地の安全な保有及び女性の居住を確保する。
c) リプロダクティブ・ヘルスへの平等なアクセスを確保する。
d) 労働市場、持続的雇用、及び適切な労働保護への女性の平等なアクセスを促進する。
e) 土地、クレジット、及び技術を含む生産的な資産や資源への女性の平等なアクセスを確保する。
f) 処罰を免れることをなくすことにより、また、国際人道法及び国際人権法における国家の義務にしたがって、文民、特に武力紛争中及びその後の女性や女児の保護を確保することにより、女性及び女児に対するあらゆる形態の差別や暴力を除去する。
g) 政治過程への完全な参加のため平等な機会を確保することを含め、政府の意思決定機構における女性の代表を増やすことを促進する。
59. 我々は、ジェンダー平等を実現するためのツールとしてジェンダー主流化の重要性を認識する。この目的のために、我々は、政治、経済、社会のあらゆる分野における政策及びプログラムの企画、実施、モニタリング、評価において、ジェンダーの視点の主流化を積極的に推進することを約束し、さらに、ジェンダー分野において国連システムの対応能力を強化することを約束する。
(中略)
Ⅲ.平和と集団安全保障
(中略)
紛争の予防と解決における女性
128.我々は、女性及び児童の人権に特別の注意を払う必要性を認め、人権アジェンダにジェンダーや児童の保護の視点を取り入れることを含め、あらゆる可能な方法により女性及び児童の地位の向上に着手する。
(以下略)」
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/unsokai/pdfs/050916_seika.pdf)
【関連記事】
→*【ジェンダー法学2】国際的動向とジェンダー主流化
→*【序論】歴史学におけるジェンダー主流化(三成美保)
→*【特論3】歴史教育とジェンダー主流化ー世界史教科書から(三成美保)
→*15-1.ジェンダー主流化への道(三成美保)