【特論17】Gender Summit 6(2015年8月26日~28日・於:ソウル)に参加して(小川眞里子)

掲載:2015.09.11 執筆:小川眞里子

(1)ジェンダー・サミット

GS6AP_2015

https://gender-summit.com/gs6-about

2015年8月26日から28日まで韓国ソウルで、第6回目のGender Summitが開催された。この国際的な会合は、一般研究分野での男女共同参画的性格もあるが、とくに女性の少ない理工系分野への女性の参画をいっそう促進し、科学知・技術知からジェンダー・バイアスを払拭してイノベーションに繋げることを目指している。ホームページは、https://gender-summit.com/ となっており、会合の性格は以下のように定義されている。The Gender Summits are a series of interconnected action based conferences held across the globe under the theme Quality Research and Innovation through Equality.  第1に謳われるのは男女共同参画である。

2011年ベルギーのブラッセルで欧米のメンバーを中心に第1回のジェンダー・サミットが開催され、翌年もう一度ブラッセルで開催されたのち、2013年には北米地域の開始ということで、ワシントンで開催された。2014年に再度ブラッセルでの会合を経て、2015年ジェンダー・サミットは大きく飛躍した。

2015年はまず4月にケープ・タウンで開催され、アフリカ地域での開始となった。主題は「科学研究とイノベーションによる貧困の軽減と経済的エンパワーメント」で、その他にエイズも重要なテーマであった。そして続く8月に、今回のGender Summit 6, Asia Pacific がソウルで開催された(詳しくは→https://gender-summit.com/gs6-about) 。さらに秋には2015年の3回目となるGender Summit 7が11月にベルリンで開催される予定である。2016年の開催はまだ未確定であるがカナダあるいはメキシコの可能性がある。そして2017年春には日本で開催することが、サミット会場で公表され、今回のソウルでの開催にも惜しみない協力をしてきた科学技術振興機構(JST)執行役、ダイバーシティ推進室長の渡辺美代子氏から、日本大会への参加呼びかけがされた。

(2)2015年8月ソウル大会

アジア太平洋地域の最初を飾り、「創発的経済に向けてよりよい科学と技術:研究、開発、ビジネスにおけるGendered Innovations による社会的インパクトの強化」をテーマとしたソウル大会には世界32カ国から政府関係者、理系研究者、文系研究者、NPO関係者など多様な人材が515名も集い、主題の一角をなすGendered Innovations(注1)を初め、理系研究者の増大、環境問題などをテーマに議論が行われた。さらにロビーでは70枚を超える多彩なテーマのポスター・セッションが展開された。近年著しい女性研究者の増加を達成している韓国に比べ、我が国の立ち遅れは明らかで、2017年の開催を目指して強力な底上げが必要であろう。

2017年春の開催を決めたJSTが中心となって、日本からの参加者43名の内の多くが参加して現地意見交換会も行われ、2017年へ向けて準備に入ることになった。OECD加盟国の中でほとんど常に最下位の日本の女性研究者比率(参考→【特論15】東アジアの女性学生・研究者の専攻分野に 関するジェンダー分析(小川眞里子))をいかに高める道筋をつけることができるか、まさに今後1年半ほどが正念場である(注2)。

  • (注1)スタンフォード大学ロンダ・シービンガー教授によって2005年に提案された造語で、現在EUとUSの研究者を中心とする大掛かりな国際的なワークショップが進行中である。詳しくはこちら→http://genderedinnovations.stanford.edu/
  • (注2)たとえば、理系学協会からなる男女共同参画学協会連絡会については→*http://www.djrenrakukai.org/index.html
    • 同連絡会HP「概要」から引用「男女共同参画の実現が21世紀の日本社会の最重要課題と位置づけられ、平成11年6月に「男女共同参画社会基本法」が公 布・施行され、平成12年 12月には「男女共同参画基本計画」が閣議決定されました。その取り組みの一つとして、内閣府男女共同参画推進本部主催による「男女共同参画社会づくりに 向けての全国会議」(6/25, 東京厚生年金会館)にて、シンポジウム「科学の進捗と男女共同参画」が開催されました。
      また、日本学術会議 においても、2000年6月8日第132会議において「女性科学者の環境改善の具体的措置について」の(要望)(本文はこちら→http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-17-k132-2.pdf及び「日本学術会議にお ける男女共同参画の推進について」(声明)(本文はこちら→http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-17-k132-3.pdf)が採択されました。これに伴い、各学協会に対し、具体的な取り組みが寄せられるようになりました。
      こうした中、応用物理学会、日本化学会、日本物理学会などが中心となって理工学系学協会に呼びかけ、2002年7月19日に男女共同参画学協会連絡会準備会を開催して、12学協会、計29名の参加の下、男女共同参画学協会連絡会を発足させることになりました。
      当連絡会発足以来、すでに各種取り組みを行っている学会、男女共同参画委員会を設置した学会、これから取り組みを検討する学会等、取り組み状況は様々です が、学協会間での連携協力を行いながら、科学技術の分野において、女性と男性がともに個性と能力を発揮できる環境づくりとネットワーク作りに取り組んでい ます。」

(3)日本の取り組み

折しも日本学術会議科学者委員会男女共同参画分科会(→http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/danjyo/)では、井野瀬久美惠学術会議副会長を委員長として8月に『提言 科学者コミュニティにおける女性の参画を拡大する方策』(本文はこちら→http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t216-1.pdf)がまとめられ、かなり踏み込んだ積極的な提言がなされた 。女性研究者の採用・登用拡大に向けてポジティヴ・アクション(参考→【ジェンダー法学2-①】ポジティブ・アクション(三成美保))を提案するのみならず、進捗の包括的評価、公表・是正勧告を行う専門機関の設置を要請し、さらにはその運用上の要点まで示したのは画期的である。ポジティヴ・アクションへの努力が見られなければさらにクオータ制の導入勧告等、安易な抜け道を許さない迫力がある。内容は確かな資料に基づき科学・技術分野に限らない学術全体に関係する広い視点から包括的にまとめられており、しかも読ませる名文である。本サイトの読者にもぜひご一読をお薦めしたい。

ジェンダー・サミットから話が逸れたが、2017年の日本開催を成功させるために、先の提言、そして現在策定に向けて公聴会等が進行中の第4次男女共同参画基本計画(注3)のどれもが一体となって着手されなければならないのである(注4)。