目次
【特論12】LGBTIの権利保障―歴史と比較を通して
更新:2015.02.06/掲載:2014.07.24(初出『歴史地理教育』2013年12月:一部加筆修正)三成 美保
1 セクシュアリティと人権
2002年、オランダが世界で初めて同性婚を認めてから10年余り。EU諸国を中心に同性婚を認める法制が急速に進められている。しかし、日本ではそうした動きは鈍い。なぜだろうか。歴史と比較を通して、同性愛者や性別違和を感じる人たちの権利保障の現状と今後の課題を考えてみたい(参考⇒*【特集3】LGBT・LGBTIの権利保障ー国際的動向)。
(1)LGBTIと「性的マイノリティ」
LGBTIとは、L(レズビアン)・G(ゲイ)・B(バイセクシュアル)・T(トランスジェンダー)・I(インターセクシュアル)の略称である。これらの人びとは、しばしば「性的マイノリティ(性的少数者)」とよばれる。しかし、「マイノリティ」は、「マジョリティ」との対比を前提とする他称であり、当事者たちの自称ではない。このため、欧米での一般的な用法に倣って、以下ではLGBTIという表現を用いたい。
[1]インターセクシュアル(医学的治療が必要な場合には「性分化疾患」という)としてあらわれる身体的性の多様性は、ヒトが「種(しゅ)」として存続するための宿命的な産物である。有性生殖動物たるヒトは、「性別の二元構造」(メスとオスの併存)を維持せざるをえない。性染色体の決定(受精時)でも、性腺の分化過程(受精後八週目頃から開始)でも、さまざまな組み合わせが生まれる[1]。
[2]性的指向は、性自認との関係で定義されるが、生涯を通じて必ずしも固定しているわけではない。英語圏では、ゲイ(性自認・性的指向ともに男性)とレズビアン(性自認・性的指向ともに女性)の双方を「ゲイ」と総称することもある。
[3]トランスジェンダーには、MtF(Male to female)(男性身体をもち、性自認が女性)とFtM(Female to male)(女性身体をもち、性自認が男性)が含まれる。性的指向が男性に向かうFtMは「FtMゲイ」、つまり、男性同性愛の一タイプである。性別適合手術を受けた(受けようと望む)トランスジェンダーを「トランスセクシュアル(TS)」とよぶ。
トランスジェンダーのすべてが身体形状の変更を望むわけではない。2011年のドイツ連邦憲法裁判所判決では、名前を変更したTSのうち性別適合手術を受けたのは2~3割という研究結果が引用されている[2]。身体を変更せずに、服装(異性装)やふるまいによって社会的承認を受けたいと望む者は少なくない。
(2)人権としてのセクシュアリティ
憲法13条は、「新しい人権」を含む包括的な人権保障規定である。通説では、「幸福追求権」は「人格的自律権」と解され、基本的人権の基礎をなすとされる。
「基幹的な人格的自律権」の一つに、「狭義の人格的自律権(自己決定権)」がある。「自己決定権」に含まれるのは、①自己の生命、身体の処分にかかわる事柄、②家族の形成・維持にかかわる事柄、③リプロダクションにかかわる事柄、④その他の事柄(服装・身なり・外観、性的自由、喫煙、飲酒など)である[3]。LGBTIに関して言えば、トランスジェンダーが身体変更をする権利・身体変更を強制されない権利は①、同性カップルが生活共同体を作る権利・結婚する権利は②、LGBTIが生殖補助医療を利用する権利(親になる権利)は③、異性装は④にあたる。
近代以降、自己決定権の主体は「自律的個人」とされた。想定されたのは、「白人・男性・健康・異性愛者」という要件を満たした「強い個人」(家父長男性)である。1970年代以降、新しい主体が登場する。非白人、女性、傷病者、非異性愛者など「自律的個人」の範疇から排除されてきた人びとである。LGBTIの自己決定権の主張は、強制的異性愛主義を伴う近代的ジェンダー秩序への根本的な異議申し立てであった。
2 トランスジェンダーと性同一性障害者特例法
(1)性同一性障害者特例法の問題点
2003年、超党派立法として、「性同一性障害者特例法」(以下、特例法)が成立した。TSに戸籍上の性別変更を認めるという点では、LGBTIの権利保障に向けた第一歩と言える。しかし、同法には、根本的な問題がある。[1]タイトル、[2]要件の厳格さである。
[1]「性同一性障害(GID)」という語は、「精神疾患」としての病名であり、法律用語としてはきわめて不適切である。精神医学界で世界的基準として用いられているDSM(『精神障害の診断と統計の手引き』)の最新第五版(2013年)ではGIDの用語は消えた。GIDに代わって用いられるようになったのが、「性別違和」や「性別不一致」である。日本でも早急な名称変更が求められる。
[2]特例法は、5つの要件を定める。①年齢要件、②非婚要件、③子なし要件、④生殖不能要件、⑤近似要件である。このうち、③子なし要件は、2008年改正で未成年子に限定されたとはいえ、世界に類を見ない日本独自の規定である。TSは「親として不適格」と法が宣言しているに等しい。
特例法の背景には、「ブルーボーイ事件[4]」がある。男娼(ブルーボーイ)をしていた3人のMtFに性別適合手術(当時は性転換手術と言われた)を施した医師が優生保護法違反に問われ、有罪判決が確定した(1970年東京高裁)。その後、トランスジェンダーの身体変更権は、1997年に性別適合手術が正当な医療行為として認められるまで保障されなかった。こうした歴史をふまえると、TSに戸籍上の性別変更を保障するのが遅すぎたというほかない。
(2)戸籍制度と親子関係
特例法は、戸籍制度を前提としている。戸籍は、家族情報と本人情報を含む日本独特の身分登録制度である。訂正事項には二重線が入れられて、過去の記録が残る。TSについても、性別変更履歴が残り、過去の性別を自治体の担当課が確認できる。
2013年1月、ある夫婦が最高裁に提訴した(現在係争中)[5]。夫はFtMである。夫婦は法律婚を締結し、非配偶者間人工授精(AID)を利用して長男をもうけた。しかし、戸籍の「父」欄は空欄とされた。夫婦は、「父」欄に夫の名を書き入れることを求めて東京家裁に審判を申し立てたが、東京家裁はこれを却下した。高裁判決は、民法772条に定める「嫡出推定の原則」(妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する)の趣旨を次のように述べて、家裁決定を支持した(2012年12月)。「民法772条は家庭の平和を維持し夫婦関係の秘事を公にすることを防ぐとともに父子関係の早期安定を図ったものであることからすると、戸籍の記載上、生理的な血縁が存しないことが明らかな場合においては、同条の適用を欠く」。
≪補遺(上記事件の最高裁決定:2013年12月10日)≫
2013年12月10日、最高裁は、FtM男性とADI人工授精子(4歳)との法的父子関係を認めるとの決定を出した。裁判官5人中3人が、「血のつながりがなくても夫の子と推定できる」として法律上の父子関係を認めた。これは、FtM男性とADI人工授精子との法的父子関係を認めた初の判断である。
最高裁決定を受け、翌14年1月27日、法務省は、FtM(「性同一性障害」で女性から性別変更した男性)とその妻が第三者から精子提供を受けてもうけた子について、今後嫡出子として戸籍に記載するよう全国の法務局と地方法務局に通達を出した。同様のケースでこれまで嫡出子と認められず、戸籍の父欄が空白となっている子についても、法務局が夫婦に説明した上で夫の氏名を記載して訂正できるようにする。法務省によると、訂正の対象となるケースは全国で45件あるという。
同性カップルが生殖補助医療を利用する権利については、国ごとに規制が異なる。スウェーデンやイギリスでは、法的な性別変更後は、婚姻・生殖補助医療の利用・子との関係のいずれを問わず、「すべて」において変更後の性として扱われる。嫡出推定に関しても、夫が異議を申し立てない限り、子は「夫の子」として推定される。しかし、ドイツをはじめとしてまだ多くの国で同性カップルは生殖補助医療を利用できない。
日本 |
ドイツ |
|
名称(略称) |
性同一性障害の性別の取り扱いの特例に関する法律(性同一性障害者特例法) | 名前変更および性別確定の特例に関する法律(トランスセクシュアル法) |
成立 |
2003年 | 1980年 |
年齢要件 |
20歳以上であること | 25歳以上:1993年違憲判決→削除 |
非婚要件 |
現に婚姻をしていないこと | 2008年違憲判決→削除 |
子なし要件 |
現に未成年の子がいないこと(2008年改正以前は「現に子がいないこと」) | 2006年違憲判決→削除 |
生殖不能要件 |
生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること | 2011年違憲判決→削除 |
身体変更要件 |
その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること | 2011年違憲判決→削除 |
(3)ドイツの場合
ドイツでトランスセクシュアル法(TS法)が成立したのは1980年。同法は、3年以上の強い性別違和がある場合に名前の変更を認め(小解決)、性別適合手術を受けること等を要件として性別登録変更(大解決)を認めた。大解決の要件は、日本の特例法とほぼ同じであったが、次々と違憲判決を受け、削除されていく(表1)。2011年の違憲判決に曰く、性別適合手術の強制は「身体を害されない権利」(基本法2条2項)を侵害し、生殖不能要件は「性的自己決定権の実現」(同2条1項・1条1項)のために「身体を害されない権利」を放棄せざるをえない状況に個人を追い込むがゆえに違憲である[6]。今日、ドイツでは、トランスジェンダーは身体を変えなくとも性別登録変更ができる。2004年に成立したイギリスのジェンダー認証法も同様である[7]。
3 ソドミーから同性婚へ
(1)「同性愛」の歴史性
「同性愛」の位置づけは社会によって異なる。西洋では、[1]「市民社会」の存立原理(ホモソーシャル=友愛)と[2]キリスト教の影響が大きい[8]。
[1]ホモソーシャルを志向する市民社会は、市民男性の対等な権利を脅かす二つの要素の排除に努めた。公的領域(政治・経済)への女性進出の排除と市民男性間の不均衡の排除である。性別役割分担規範は前者に関わり、男性同性愛嫌悪(ホモフォビア)は後者に関わる。
古代ギリシアのポリス社会は、「少年愛」を許容した(図)。市民男性は、少年(ひげが生える前)として愛を受け、成人したら少年を愛するとともに、女性と結婚して子をもうけた。少年愛は、市民男性のライフサイクルに組み込まれていたのである。一方、成人男性間の同性愛は禁じられ、性行為において受動側となった市民男性は名誉を失った(⇒*【セクシュアリティ】古代ギリシアの同性愛(栗原麻子))。
19世紀以降の近代市民社会では、子どもは「性(セクシュアリティ)」から完全に排除され、女性は性的能動性を否定された。少年愛は性犯罪とみなされ、レズビアンは想定外となる。これと平行して、同性愛の生得性が認識されはじめ、新たに「同性愛(ホモセクシュアリティ)」という語が生み出された(1869年)。それは、成人男性間の同性愛を肯定する考え方にほかならない。19世紀末から20世紀初頭にかけて、男性同性愛者の解放運動が高まるとともに、同性愛嫌悪も強まった。現実には、学校や軍隊で同性愛やホモエロティック(性行為を伴わない同性愛傾向)な関係が男たちの絆を強めたにもかかわらず、同性愛者はしばしば市民としての資格を否定されたのである。同性愛嫌悪は、大正期日本にも「変態性欲」として導入された。
[2]キリスト教はストア的な禁欲主義を受け継ぎ、セクシュアリティ全般を忌避した。教会は、ローマ帝国における「性の放縦」を批判して、結婚した男女間でのみ生殖目的に限って性行為を認めた。同性愛行為、姦通、買売春、婚前交渉のすべてが禁じられたのである。もっとも、中世(6~15世紀)には管理は不徹底で、刑罰も緩やかであった。セクシュアリティ統制は、近世(16~18世紀)に強まる。宗教の擁護者を自認する絶対君主たちは、臣民の規律化をはかるべく、こぞって性と生殖を管理しようとした。ソドミー(同性や獣との性行為)もまたたびたび摘発され、宗教犯罪として火あぶりに処せられた[9]。
(2)近代刑法とゲイ解放運動
19世紀以降、西洋社会では宗教と法が分離し、宗教犯罪は刑法から消える。フランス刑法典(1810年)はソドミーを非犯罪化した。しかし、多くの近代刑法典は、ソドミー罪を世俗化して温存した。ドイツ帝国刑法典(1871年)は、刑罰を緩和したものの、男性間性行為を「反自然的淫行」と定めた(1969年刑法改正で削除)。近代市民社会がホモソーシャル社会として確立するにつれ、「異性愛/同性愛」は「正常/異常」「自然/反自然」と結びつけられ、性的指向(ホモセクシュアル)が差別対象となっていく。男性性を強調したナチスでは同性愛迫害が頂点に達し、1万人を超える同性愛者が強制収容所に送られた。
1970年代、欧米諸国でゲイ解放運動が高まる。ソドミー罪をはじめとする差別の撤廃が主目的とされたために、レズビアンは当初から周縁化された。エイズ問題(最初の症例報告は1981年)は、新たな転機となる。家族でないがゆえに同性パートナーの臨終に立ち会えず、共同生活で築いた生活基盤を失うといった事態が相次いだからである。同性カップルの法的承認は、個人的尊厳の保障のみならず、日常生活の保護と深く関わっている。
同時期の日本では、ゲイ解放運動は盛り上がりを欠いた。たしかに、ブルーボーイ事件がLGBTI全体に暗い影を落としたが、その一方で、日本では、ゲイやレズビアンが「家族」になる道が開かれていたからである。同世代の同性カップルでも、成年養子縁組(家制度の名残であり、欧米には存在しない)を利用すれば、カミングアウトすることなく「家族」(ただし親子として)になることができた。
同性愛者の権利をめぐる日本で唯一の判例が、「府中青年の家事件」である。1990年、東京都教育委員会は、「男女別室ルール」にもとづき、「働くゲイとレズビアンの会」(アカー)に対して「府中青年の家」の宿泊利用を拒否した。東京地裁に続き、東京高裁もアカーの主張を認め、こう判示した(1997年)。行政当局は、「同性愛者の権利、利益を十分に擁護することが要請されているものというべきであって、無関心であったり知識がないということは公権力の行使に当たるものとして許されない[10]」。
(3)1990年代以降
1997年EU運営条約は、「性別、人種もしくは種族的出身、宗教もしくは信条、障碍、年齢または性的指向にもとづく差別と戦うことを目指す」(第 10条)と定めた。これを継承したEU基本権憲章(2000年)に則り、EU諸国では急速に同性婚容認に向けて法改正が進められている。全体としては、同 性パートナーシップから同性婚への移行が目立つ(表2)。この変化は、単なる段階的変化ではなく、質的転換を意味する。フランスのパックスやドイツの生活 パートナーシップ法は、異性婚を前提として、同性の生活共同体を認める制度である。これに対して、スウェーデンでは、婚姻に生殖や子の養育が伴うとする考 え方を退け、婚姻のジェンダー中立化がはかられた(2009年)。2013年、フランスでも同性婚法案が議会を通過したあと、大規模なデモが行われたこと は記憶に新しい。
アメリカでは、同性婚をめぐる問題は「第二の公民権運動」と呼ばれるほど政治性が強い。当初は、就職差別と軍における同性愛者差別が争点であった。1989年にニューヨーク州最高裁が同性カップルを家族と認めて以降、同性婚が急速に政治的争点に浮上する(⇒*【特集3-3】ニューヨーク州の同性婚法(婚姻平等法)2011年)。
1996 年婚姻防衛法(連邦法)は、「『婚姻』という語は、もっぱら夫たる一人の男性と妻たる一人の女性のあいだの法的な結合を意味する」(第3条)と定めた。 2008年、カリフォルニア州最高裁は同性婚を容認した[11]。判決は、約六〇年前の異人種間の婚姻禁止法を違憲無効とする判決を引用し、性別を根拠に 婚姻を認めないことは、人種を根拠に婚姻を認めないことに等しいとした。さらに、同性パートナーシップ等を婚姻の代わりにすることは「差別的」な措置であ るとし、同性カップルによる子どもの養育についても尊重と尊厳を認めるべきとした。2013年6月、連邦最高裁は長い争いにこう決着をつけた。同性婚には 異性婚と同等の権利が保障されるべきである(⇒*【特集3-2】同性婚をめぐる国際的・国内的動向(三成美保))。
権利 |
生活共同体 |
同性婚 |
|
ベルギー | 1989年 法定同棲(同性・異性・兄弟姉妹間) | 2003年 | |
オランダ | 1998年 登録パートナーシップ(同性・異性) | 2001年 | |
スウェーデン | 1987年 同性間サンボ[同棲]1994年 パートナーシップ登録法(同性) | 2009年 | |
フランス | 1999年 パックス[連帯民事契約](同性・異性) | 2013年 | |
ドイツ | 2001年 生活パートナーシップ法(同性) | 不可 | |
刑罰 |
死刑 | イラン、サウジアラビア | |
重罪 | 終身刑(パキスタン) | ||
軽罪 |
4 今後の課題と展望
(1)国際社会とLGBTI
イスラーム諸国のなかには、今日でも同性愛行為に死刑や終身刑を科す国がある(表2)。LGBTI保護を自文化への介入とみなす国もある。このため、LGBTIの権利保障について、国連総会で議決することは容易ではない。しかし、二一世紀を迎えて、国連の委員会等を通じ、LGBTIの権利保障に向けた模索は活発になっている(⇒*【特集3】LGBT・LGBTIの権利保障ー国際的動向)。
日本では、法務省が平成25年度人権擁護啓発活動年間強調事項の一つとして、性的指向や性同一性障害者に対する差別撤廃を謳っている。メディアでは「ニューハーフ」(和製英語)を名乗るMtFたちの活躍も目立つ。しかし、LGBTIの権利保障はけっして十分ではない。それは以下の3点にも示されている。
①自殺の多さ。異性愛でない青年男性の自殺未遂率は、異性愛青年男子のおよそ6倍に達する(2001年アメリカ村での調査[12])。
【補遺】同性愛者の自殺未遂の多さ
- アメリカ村での調査(2001年)⇒*http://www.health-issue.jp/suicide/
- 大阪・ミナミの繁華街、アメリカ村で15~24歳の男女約2千人に対し、これまでに自殺未遂をした経験があるかどうかについて聞いた街頭アンケートをもと にしたレポート。調査データによれば、有効回答2095人のうち(全体で声をかけた人数は4650人)男性(1035人)の6%、女性(1060人) の11%が「1回以上自殺未遂をしたことがある」と回答、全体では9%に上る。
- 同性愛者の自殺未遂に関する調査結果が含まれる(12頁=下記表参照)⇒「厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究推進事業『ゲイ ・パイセクシュアル男性の健康レポート2』厚生労働省エイズ対策研究事業「男性同性聞のHIV感染対策とその評価に関する研究」成果報告書( http://www.j-msm.com/report/report02/)
- 同性愛者の自殺・自殺未遂の多さについて(記事)⇒http://www.tokyo-jinken.or.jp/jyoho/57/jyoho57_tokushu.htm
②同性愛者をターゲットにしたヘイトクライム事件。青少年3名による通り魔殺人事件(新木場事件)について、「同性愛者を襲えば被害申告をされることもなく犯行が発覚しないものと考えて犯行に加担したものであり、他者の人格を全く無視した極めて自己本位で卑劣な犯行である」(東京地裁、2000年[13])。
③強姦罪(刑法177条)のジェンダー・バイアス。日本では、「性交」(女性性器への男性性器の挿入)が強姦罪成立の要件とされる。欧米では、性交・性交類似行為が強姦罪の対象となる。ドイツでは、強姦罪は「性的自己決定権を侵害する罪」の一つと明記されて、ジェンダーに中立である。日本の強姦罪規定は、男性やLGBTIの性被害に対する配慮をはなはだ欠いており、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW⇒*【用語】女性差別撤廃委員会(CEDAW))からも改正すべきとの指摘を受けている(2009年第4次日本政府レポート審議・総括所見)。
(2)日本の課題
日本では、LGBTIの権利保障についていかなる法的・社会的課題があるのだろうか。
国際的動向に照らすと、法的には、①同性カップルの法的保護、②強姦罪規定の改正、③特例法の名称及び要件の変更が急務である。このうち、①の方法としては、a)同性婚、b)登録パートナーシップ、c)事実婚、d)個人的権利としての保障がありうる。c)は証明が困難であり、裁判や調停で偏見にさらされる恐れが強い。a)とb)については、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し」と規定する憲法24条との関係が問われる。しかし、同条は家制度を否定して、親や戸主の同意がなくとも婚姻の成立を認めることを目的としており、同性婚を排除するための規定ではない[14]。したがって、現行憲法のもとでも、a)あるいはb)は、民法改正によって達成しうる。欧米諸国にならって、まずはb)登録パートナーシップ法を導入して、同性カップルへの社会保障もあわせて行い、将来的に婚姻のジェンダー中立化をはかってa)同性婚を導入するという手段がありえよう。
社会的課題としては、以下の3点を指摘できる。①学校におけるセクシュアリティ教育の充実、②マスコミにおける差別的表現の規制、③あらゆる分野におけるジェンダー主流化(ジェンダー平等な法・政策の実現)の貫徹である。
全体としてきわめて重要なのが、国際社会との協調である。グローバル化とともに人やモノの移動が活発になり、一国主義的な文化や法にとどまっていることはもはやできない。国際的なジェンダー主流化の流れを真摯に受け止め、国内法のひずみをただし、相互に対等に承認しあう関係を築くことがわたしたち自身の課題である。
【注】
[1]三成美保・笹沼朋子・立石直子・谷田川知恵『ジェンダー法学入門』法律文化社、2011年、255頁。
[2]http://www.bundesverfassungsgericht.de/entscheidungen/rs20110111_1bvr329507.html
[3]佐藤幸治『憲法(第三版)』1995年。
[4] 三成他『ジェンダー法学入門』95頁。
[5] 山下俊雅・田巻帝子「性同一性障がい者の婚姻と嫡出推定」『ジェンダーと法』10号、2013年、118~130頁。
[6]http://www.bundesverfassungsgericht.de/entscheidungen/rs20110111_1bvr329507.html.渡邉康彦「性別変更の要件の見直しー性別適合手術と生殖能力について」『産大法学』45巻1号、2011年。
[7] 山下・田巻、前掲論文、124頁以下。
[8] 三成美保「マスキュリニティの比較文化史―現状と課題」『女性史学』22号、2012年。
[9] 三成美保『ジェンダーの法史学―近代ドイツの家族とセクシュアリティ』勁草書房、2005年。
[10] 『判例タイムズ』986号、206頁。
[11] 『外国の立法』2008年7月。
[12] http://www.health-issue.jp/suicide/
[13] 風間孝・河口和也『同性愛と異性愛』岩波新書、2010年。
[14] 二宮周平『家族と法―個人化と多様化の中で』岩波新書、2007年、66頁。