中世ヨーロッパの法観念

(執筆:三成美保、初出:三成他『法制史入門』)

中世ヨーロッパの法は、近代の法とは大きく異なる。

中世法は、①キリスト教的に規定されており、②口承による法慣習を主とし、③象徴や比喩を重んじ、④身分や地域によって異なっていただけでなく、⑤法の名あて人は個人ではなく、集団であった。

①神は、みずから法であり、正義を保護すると考えられた。犯罪や刑罰も宗教から切り離されていなかった。
②法は人間がつくりだすものではなく、法を知る法名望家によって、世代をこえて伝承されるものであった。国王といえども、法を守護するだけで、法を制定することはできず、法に拘束されたのである。
③法律行為には、しばしば、特定の象徴的行為が必要とされた。たとえば、土地の所有権を譲渡するばあいには、当の土地のうえで、証人をまえに、小枝をさした土くれを手渡すという儀式的行為がおこなわれた。
④法は、身分におうじて異なった。聖職者は教会法に、世俗貴族は封建法(レーエン法)に、農民は荘園法に、市民は都市法にしたがって生活した。統一性をもつのは教会法だけで、他の法は、地域によってすこしずつ異なった。
⑤中世では、個人は集団の一員としてはじめて、権利をもつことができた。都市共同体のメンバーである市民しか、都市のもつ特権にあずかることができず、村落共同体の成員である農民だけが、共同地用益権を有した。したがって、中世における立法のもっとも重要な形式は、集団への特権賦与となったのである。

関連項目
*【法制史】中世ヨーロッパの封建社会(概説)(三成美保)
*【法制史】封建法・レーエン法(三成美保)