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【教育1-①】日本の大学教育におけるジェンダー・ギャップ(三成美保)
更新:2016-03-08(前回更新:2015-11-22) 三成美保(2014.12.12掲載)
◆教育におけるジェンダー・ギャップ指数
2013年、世界経済フォーラムが公表するジェンダー・ギャップ指数(GGI)で日本はまた順位を下げた。105位である(注:2014年は104位)。内訳を見ると、政治118位、経済104位、教育91位、健康34位であった 。
政治・経済領域におけるジェンダー・ギャップ指数の低さはよく指摘される。しかし、じつは教育面でも日本の順位は決して高くない。日本は、識字率や中等教育の普及率では世界1位だが、高等教育については98位にとどまる。女子の進学率が男子よりも低いからである。ジェンダー・ギャップ指数の計算式では、大学等への進学率は、女子56%、男子63%となり、男子が7ポイント高い 。『男女共同参画白書』(平成26年版)のデータによると、大学(学部)への進学率では、男子54.0%,女子45.6%と男子の方が8ポイントほど高くなる(図①)。短期大学への進学率を合わせると,女子の大学等進学率は55.2%となる。
そもそも、日本の大学進学率は国際社会で決して高いほうではない(図②)。女子の場合、1995年に大学進学率と短大進学率がほぼ同数になり、その後は大学進学率が上回っている。両者の合計数はゆるやかに上昇し、20年かけて47~56%へと10ポイント近く上昇した 。ちなみに、男女とも進学率が50%を超えている国のうち、教育に関するジェンダー・ギャップ指数が高いのは北欧諸国である。ノルウェー15位(女子93%、男子57%)、スウェーデン22位(女子89%、男子58%)、フィンランド63位(女子105%、男子86%)となる。一方、アメリカ32位(女子111%、男子79%)、フランス59位(女子65%、男子51%)、ドイツ100位(女子44%、男子50%)であった 。女子の進学率が高いのは、男子との競争に勝つために専門職を志向するためと言われる。
では、専攻分野についてはどうか。日本では、社会科学専攻者(学部)の男女比率は、女子34%、男子66%と、男子のほうが2倍近い。専攻全体のなかで社会科学を専攻する者は、女子では26%、男子では37%である。1985年には、男子の46%が社会科学を専攻していたのに対し、女子ではわずか15%であったことを考えると、女子は2倍近く伸びたことになる (図③)。しかし、政治や経済のジェンダー・ギャップ指数が示す通り、専門職や決定権への女性参画は進んでいない。女子の大学進学率の上昇を阻んでいるのは、必ずしも、女子の学ぶ意欲が低いためではない。両立支援が進まないこと、大学教育が専門職や意思決定者へのキャリアにつながりにくいことに大きな原因がある。男性中心主義的な職場は女性の働く意欲をそぎ、ロールモデルとなる女性が回りに乏しい(図⑧)。「ジェンダー法学」は、このような日本特有の教育状況を踏まえて、効果的に制度設計されねばならない。
(三成美保「大学教育におけるジェンダー法学教育の現状と課題」『ジェンダー法研究』創刊号、2014年掲載論文の冒頭から:一部WEB用に改変)
【参考】グローバル・ジェンダー・ギャップ指数における日本の順位
年 | 2011年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 |
総合 | 98位 | 101位 | 105位 | 104位 | 101位 |
政治 | 101位 | 110位 | 118位 | 129位 | 104位 |
経済 | 100位 | 102位 | 104位 | 102位 | 106位 |
教育 | 80位 | 81位 | 91位 | 93位 | 84位 |
健康 | 1位 | 34位 | 34位 | 37位 | 42位 |
出典 World Economic Forum, Global Gender Gap Report 2011~2015
(http://www.weforum.org/reports)をもとに作成。
【参考】
理系女子については以下を参照。
→*【特論15】東アジアの女性学生・研究者の専攻分野に 関するジェンダー分析(小川眞里子)
→*【特論9】なぜ、女子に理系分野なのか(小川眞里子)
◆大学進学率(国際比較)2015-11-22追加
下記図表の出典→文部科学省(2013年)*http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2013/04/17/1333454_11.pdf
◆大学進学率・研究者の男女比率など
(図①以外の図表の出典:H26年版男女共同参画白書 http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h26/zentai/index.html)
図①:進学率(男女共同参画白書H27)
図②:国際比較
図③:専攻別男女比
図④:教員の男女比
図⑤:大学教員の分野別男女比
図⑥:研究者の女性比率
図⑦:研究者の女性比率(国際比較)
図⑧:女性研究者が少ない理由
◆日本学術会議
●「日本の展望2010」
- 日本の展望委員会・知の創造分科会「日本の展望:学術からの提言2010ー(提言)21世紀の教養と教養教育」(2010年)(→PDF)
- 日本の展望委員会・史学委員会「日本の展望:学術からの提言2010ー(報告)史学分野の展望:一国史を超えて人類の歴史へ」(2010年)(→PDF)
●大学教育の分野別質保証
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日本学術会議「(回答)大学教育の分野別質保証の在り方について」(2010年)(→PDF)
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日本学術会議史学委員会・史学分野の参照基準検討分科会「(報告)大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準ー歴史学分野」(2014年)(→PDF)
◆文部科学省(文科省)(http://www.mext.go.jp/)
●大学設置基準の大綱化(1991年)「大学設置基準の一部を改正する省令の施行等について」(文科省HP)
●(大学設置基準の)大綱化【英】:Deregulation of University Act(出典:高等教育質保証用語集)
個々の大学が、学術の進展や社会の要請に適切に対応しつつ、その教育理念・目的に基づく特色ある教育研究を展開できるように、制度の弾力化を図るために1991年に実施された学校教育法、大学設置基準など関連法令の大幅な改正。この改正により、従来詳細に定められていた教育課程などの基準の詳細の部分が削除され、基準の要件が緩和された一方で、教育研究の質の保証を大学自身に求めるという方針の下、大学による自己点検・評価が努力義務と定められた。この大綱化の動きは、後の認証評価制度の創設の契機となった。
●「一般教育・教養教育/共通教育に関する基礎資料」(文科省)
●中央教育審議会の組織変更(平成13年)(出典:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gaiyou/04031601.htm)
◆用語
●高等教育質保証用語集(→索引はこちら)(提供:大学評価・学位授与機構)
◆独立行政法人・国立大学財務・経営センター
第13号(平成22年9月)「大学の設置形態に関する調査研究」http://www.zam.go.jp/n00/pdf/ni007100.pdf
→高等教育財政・財務研究会・シンポジウム講演・研究録