【教育2ー②】中教審検討素案「歴史総合」「公共」の提案(2015年)・高校歴史教育に関する学術会議提言(2011年、2014年)

更新:2016-01-06 掲載:2015.08.17  執筆:三成美保

1.日本学術会議提言

(1)2011年提言「歴史基礎」の提案

「(提言)新しい高校地理・歴史教育の創造-グローバル化に対応した時空間認識の育成-」平成23年(2011年)8月3日、日本学術会議心理学・教育学委員会・史学委員会・地域研究委員会合同高校地理歴史科教育に関する分科会→http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t130-2.pdf
≪要 旨≫
1 本提言作成の背景
本提言は、平成18(2006)年秋に高等学校で表面化した「世界史未履修問題」の解決策を、グローバル化時代における「時間認識と空間認識のバランスのとれた教育」を重視する立場から検討したもの。改革の内容は、現行の世界史・日本史・地理の3科目内で実現可能な教授法の抜本的改革を中心とした短期的改革案と、新科目の創設を必要とする長期的改革案を提案するとともに、小中学校の社会科教育、大学入試、大学での教員養成の課程などの関連分野の改革案も提案した。
2 高等学校における地理歴史科教育の現状と問題点

(1) 世界史教育の現状と世界史未履修問題発生の背景
世界史未履修問題の発生原因は、i)情報などの新科目の導入や週5日制への移行による地理歴史科の授業時間数の減尐、ii)小中学校の社会科歴史分野の日本史中心の教育、iii)大学入試の出題が用語の暗記力を問う傾向が強く、高校の授業も知識詰め込み型で行われる傾向が強いため、生徒の「世界史離れ」の傾向が発生、iv)大学の教員養成の課程でも「知識詰め込み型」の教育が繰り返されていることなど、複合的要因で発生した。しかし、2008年度に発表された高校の新学習指導要領では世界史必履修の継続が決定、根本的な問題解決が見送られている。
(2) 高校の日本史教育の問題点
i)世界史とは切り離して「一国史」的に教える傾向、ii)中学校の社会科歴史分野における日本史教育の内容との重複、iii)明治以来続けられてきた「一斉授業」の習慣が、第二次世界大戦後の教育改革でも十分払拭されず、「知識詰め込み型」の教育が主流、iv)教科書執筆への高校教員の参加が尐なく、主に大学などの日本史研究者により作成され、年々、教科書内容が詳しくなり、生徒達に負担感を付与、v)近年、神奈川県や東京都で世界史に加えて独自に日本史を必修化し始めているため、高校で地理不履修の生徒が多数発生と予想される。
(3) 高校の地理教育の問題点
i)世界史の必履修化以来、高校で地理を教えないか、理系志望の生徒にのみ教える学校が増加し、最低限の地理的知識を持たずに高校卒業の生徒増加、ii)この傾向は、地球環境の危機や防災に関する教育の必要性からも、日本史や世界史教育にとってもマイナス、iii)地理教育においても知識教授中心ではなく、地理的思考力や地理情報システム(GIS)など地図・地理空間情報を利活用できるスキルの育成が重要である。
(4) 高校地歴科教育における人類学・考古学の役割と問題点
i)歴史系教科書や地理教科書の作成への考古学・人類学の協力不十分、ii)人類学や考古学はフィールドワークを通じた多様な生活や過去の物的資料の発掘を通じて歴史や地理の認識の豊富化に貢献可能、iii)とくに文化史や社会経済史関係の变述の豊富化、文化の多様性の理解促進や自文化の相対化に貢献可能である。
(5) デジタル化と将来の地歴科教育
i)近年オーストラリアやイギリスで進展している情報通信技術を活用した学校教育の推進必要、ii)日本でも2007年に制定された地理空間情報活用推進基本法を学校教育に反映必要、iii)とくに学校教育の情報化と家庭や地域社会の情報化との結合が重要、iv)具体的には、学校教育におけるGISの普及を図るには教員の研修機会の増大や電子地図など新しい教材の開発・普及の促進が必要、v)時空間情報を扱う歴史GISの開発による将来的な地理と歴史教育の融合の進展も期待される。

3 高校における地理歴史科教育の改革案

(1) 現行の科目構成内での短期的改革案
21世紀の世界のグローバル化に対応するため、外国語で自分の意見を明確に発信し、相手文化の十分な理解の上で合意形成できる能力の育成が不可欠。しかし、高校における歴史・地理教育は「知識詰め込み型」が主流。「思考力育成型」の教授法への転換不可欠。また、現場教員の声を重視した地理と歴史の連携の短期的なあり方として、3科目のそれぞれに地歴融合単元などの設定を促進する。
① 世界史・日本史教育の場合
i)具体的には、教科書の各章末に設問設定、通史的变述の中で歴史の多様な発展や多様な解釈がありうることを考えさせる、ii)過去への興味・関心の喚起、歴史的資料の調査力や歴史的分析・解釈力、時系列的思考力の育成、過去の意志決定を将来の生徒自身の意思決定に役立てる方向性を示唆できる教授法の開発、iii)関連学会などによる歴史の重要用語厳選のガイドラインを作成し、大学入試の出題に反映させるよう働きかける、iv)日本学術会議などに委員会を設置し、最新の研究成果を教科書内容に反映できるように助言、v)高校教員が新しい教授法の開発や教材研究に努力できるような環境を整備したり、研修の機会を保証、vi)大学での教員養成課程における思考力の育成カリキュラムの強化、vii)世界史・日本史・地理の3科目間の相互関連を強化する教科書作りを促進する。
② 地理の場合
i)「自然と人間の関係」を学習する文理融合の数尐ない科目の一つである地理の特性を活かす教育の推進、ii)具体的には、持続発展教育(ESD)が実践できる教育内容や指導法の開発、地球環境問題教材、自然観・環境観教材、自然災害・防災教材など自然と人間の関係を効果的に教えるための教材開発を進める、iii)国土に関する学習内容の充実、社会科学的、人文科学的、平和的視点から地球と宇宙の関係が深くなり始めている「宇宙化時代」に対応した教育内容の開発、iv)教科書・教材開発における人類学者との更なる連携、v)主題学習を取り入れた地理的指導法の改善とともに、地図/GIS、フィールドワークなどの地理的スキルを重視、vi)大学、地域、行政とが一体となった地理の現場教育サポート体制を構築してゆく。
(2) 新規科目の創設による長期的な改革の提言
① 新規科目の創設
i)現行の世界史必修の代わりに世界史Aと日本史Aを統合した「歴史基礎」(2単位)地理Aを改変した「地理基礎」(2単位)を新設し、ともに必修とする。ii)この案は、歴史・地理の両学会の交流が尐なく、高校現場の歴史・地理担当教員間の分業の壁が厚い現状では無理のない案だが、最低必履修単位が現行の世界史A2単位から4単位に増加する問題点がある。iii)この点で「地歴基礎」(2単位)必履修案も次善の策として考えられるが、これを実現するには歴史と地理の学会間や高校教員間の交流促進が必要となる。
② 歴史基礎
i)従来の高校歴史教育における世界史と日本史の分断状況を克服、日本史を世界史の一部に組み込んだ真にグローバルな歴史として教える、ii)従来見られたヨーロッパ中心的な傾向を改め、世界の様々な歴史主体の独自性や主体性やその相互浸透過程を重視する、iii)従来の歴史的知識の教授に偏る教授法を改め、歴史的思考力の育成を図るため、主題学習、調べ学習、グループ研究・発表・討論、資料・年表の収集・解読などの機会を大幅に増加、iv)具体的な歴史基礎の教育内容については、(A)時系列型に主題学習を加味したタイプ、(B)近現代に集中したタイプ、(C)主題中心のタイプの3案を検討。今後の検討のためのたたき台として参考資料の中で提示した。
③ 地理基礎
i)地理基礎は、一般社会へ巣立つ際の最低限の知識・スキル、考え方の習得を目指し、中学校での学習を基盤として学習内容の接続を図るとともに、大学進学のみに限らない、すべての進路に対応した内容とする、ii)グローバルなスケールと生活圏(身近な地域)のスケールという二つの視点からの学習を現行の「地理A」と同じく重視する、iii)中学地理で学習した地誌(日本と世界)、系統地理的な知識や見方を活用して、現代の世界的課題や身近な地域の地域的課題に興味が持てるような「主題学習」や「探究型学習」を重視、iv)「自然と人間の関係」を考え、持続発展教育(ESD)の一翼を担うため、「地理基礎」では、地球環境に関する自然地理的内容や地域区分を取り入れ、生活や文化を環境の視点から学習し易くする、v)「地理Aで重視している地域調査や地図の読み取りなどのスキルに加え、GISのスキルや社会参画を強調し、地理的思考(空間的思考)を基礎としながら現代的課題を解決する地理的知識やスキルの応用を重視する。(以下略)

(2)2014年提言

「(提言)再び高校歴史教育のあり方について」平成26年(2014年)6月13日、日本学術会議史学委員会高校歴史教育に関する分科会→http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-t193-4.pdf

2.高校等における教科・科目の検討素案ー「歴史総合」「地理総合」「公共」(2015年12月中教審)

2015年12月の社会科に関するワーキンググループ(文科省)については⇒【教育2】社会科教育(中等教育)

○平成27年8月6日(木曜日)14時00分~16時00分 中央教育審議会(第100回)
配付資料(→*http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/1360841.htm

(1)「歴史総合」イメージ

1360841_5_4_1_ページ_03

(2)「地理総合」イメージ

1360841_5_4_1_ページ_04

(3)「公共」イメージ

1360841_5_4_1_ページ_05

出典→資料5-4.高等学校等における教科・科目の現状・課題と今後の在り方について(検討素案)  (PDF:1396KB)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/08/10/1360841_5_4_1.pdf