【資料】文部科学省「学習指導要領」(公民)平成21年3月

【解説】公民系の学習指導要領のなかで、男女共同参画について明示的に言及しているのは「現代社会」のみである。「現代社会と人間としての在り方生き方」のうち、「ア青年期と自己の形成」の項目での位置づけである。「民主政治」や「個人の尊重」ではとくに言及されていない。(三成)

第3節 公 民

第1款目標

広い視野に立って,現代の社会について主体的に考察させ,理解を深めさせるとともに,人間と
しての在り方生き方についての自覚を育て,平和で民主的な国家・社会の有為な形成者として必要
な公民としての資質を養う。

第2款各科目

第1 現代社会

1目標

人間の尊重と科学的な探究の精神に基づいて,広い視野に立って,現代の社会と人間につい
ての理解を深めさせ,現代社会の基本的な問題について主体的に考察し公正に判断するととも
に自ら人間としての在り方生き方について考察する力の基礎を養い,良識ある公民として必要
な能力と態度を育てる。

2内容

(1) 私たちの生きる社会

現代社会における諸課題を扱う中で,社会の在り方を考察する基盤として,幸福,正義,
公正などについて理解させるとともに,現代社会に対する関心を高め,いかに生きるかを主
体的に考察することの大切さを自覚させる。

(2) 現代社会と人間としての在り方生き方

現代社会について,倫理,社会,文化,政治,法,経済,国際社会など多様な角度から理
解させるとともに,自己とのかかわりに着目して,現代社会に生きる人間としての在り方生
き方について考察させる。
ア 青年期と自己の形成
生涯における青年期の意義を理解させ,自己実現と職業生活,社会参加,伝統や文化に
触れながら自己形成の課題を考察させ,現代社会における青年の生き方について自覚を深
めさせる。
イ 現代の民主政治と政治参加の意義
基本的人権の保障,国民主権,平和主義と我が国の安全について理解を深めさせ,天皇
の地位と役割,議会制民主主義と権力分立など日本国憲法に定める政治の在り方について
国民生活とのかかわりから認識を深めさせるとともに,民主政治における個人と国家につ
いて考察させ,政治参加の重要性と民主社会において自ら生きる倫理について自覚を深め
させる。
ウ 個人の尊重と法の支配
個人の尊重を基礎として,国民の権利の保障,法の支配と法や規範の意義及び役割,司
法制度の在り方について日本国憲法と関連させながら理解を深めさせるとともに,生命の
尊重,自由・権利と責任・義務,人間の尊厳と平等などについて考察させ,他者と共に生
きる倫理について自覚を深めさせる。
エ 現代の経済社会と経済活動の在り方
現代の経済社会の変容などに触れながら,市場経済の機能と限界,政府の役割と財政・
租税,金融について理解を深めさせ,経済成長や景気変動と国民福祉の向上の関連につい
て考察させる。また,雇用,労働問題,社会保障について理解を深めさせるとともに,個
人や企業の経済活動における役割と責任について考察させる。
オ 国際社会の動向と日本の果たすべき役割
グローバル化が進展する国際社会における政治や経済の動向に触れながら,人権,国家
主権,領土に関する国際法の意義,人種・民族問題,核兵器と軍縮問題,我が国の安全保
障と防衛及び国際貢献,経済における相互依存関係の深まり,地域的経済統合,南北問題
など国際社会における貧困や格差について理解させ,国際平和,国際協力や国際協調を推
進する上での国際的な組織の役割について認識させるとともに,国際社会における日本の
果たすべき役割及び日本人の生き方について考察させる。

(3) 共に生きる社会を目指して

持続可能な社会の形成に参画するという観点から課題を探究する活動を通して,現代社会
に対する理解を深めさせるとともに,現代に生きる人間としての在り方生き方について考察
を深めさせる。

3 内容の取扱い

(1) 内容の全体にわたって,次の事項に配慮するものとする。
ア 中学校社会科及び道徳並びに公民科に属する他の科目,地理歴史科,家庭科,情報科及
び特別活動などとの関連を図るとともに,項目相互の関連に留意しながら,全体としての
まとまりを工夫し,特定の事項だけに偏らないようにすること。
イ 社会的事象は相互に関連し合っていることに留意し,社会的事象に対する関心をもって
多様な角度から考察させるとともに,できるだけ総合的にとらえることができるようにす
ること。また,生徒が自己の生き方にかかわって主体的に考察できるよう学習指導の展開
を工夫すること。
ウ 1の目標に即して基本的な事項・事柄を精選して指導内容を構成すること。
エ 的確な資料に基づいて,社会的事象に対する客観的かつ公正なものの見方や考え方を育
成するとともに,学び方の習得を図ること。その際,統計などの資料の見方やその意味,
情報の検索や処理の仕方,
簡単な社会調査の方法などについて指導するよう留意すること。
また,学習の過程で考察したことや学習の成果を適切に表現させるよう留意すること。
(2) 内容の取扱いに当たっては,次の事項に配慮するものとする。
ア 内容の(1)については,次の事項に留意すること。
(ア) 内容の(1)は,この科目の導入として位置付けること。
(イ) 「現代社会における諸課題」としては,生命,情報,環境などを扱うこと。
イ 内容の(2)については,次の事項に留意すること。
(ア) 項目ごとに課題を設定し,内容の(1)で取り上げた幸福,正義,公正などを用いて考
察させること。
(イ) アの「生涯における青年期の意義」と「自己形成の課題」については,生涯にわたる
学習の意義についても考察させること。また,男女が共同して社会に参画することの重
要性にも触れること。
(ウ) イについては,地方自治に触れながら政治と生活との関連について認識を深めさせる
こと。「政治参加の重要性」については,世論の形成の意義についても理解させること。
また,「民主社会において自ら生きる倫理」については,個人と社会との関係に着目し
て考察させること。
(エ) ウについては,法に関する基本的な見方や考え方を身に付けさせるとともに裁判員制
度についても扱うこと。
(オ) エの「市場経済の機能と限界」については,経済活動を支える私法に関する基本的な
考え方についても触れること。
「金融」については,金融制度や資金の流れの変化などにも触れること。
また,「個人や企業の経済活動における役割と責任」については,公
害の防止と環境保全,消費者に関する問題などについても触れること。
(カ) オの「人種・民族問題」については,文化や宗教の多様性についても触れ,それぞれ
の固有の文化などを尊重する寛容の態度を養うこと。
ウ 内容の(3)については,この科目のまとめとして位置付け,内容の(1)及び(2)で学習し
た成果を活用させること。地域や学校,生徒の実態等に応じて課題を設定し,個人と社会
の関係,社会と社会の関係,現役世代と将来世代の関係のいずれかに着目させること。

第2倫理

1目標

人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念に基づいて,青年期における自己形成と人間として
の在り方生き方について理解と思索を深めさせるとともに,人格の形成に努める実践的意欲を
高め,他者と共に生きる主体としての自己の確立を促し,良識ある公民として必要な能力と態
度を育てる。

2内容

(1) 現代に生きる自己の課題

自らの体験や悩みを振り返ることを通して,青年期の意義と課題を理解させ,豊かな自己
形成に向けて,他者と共に生きる自己の生き方について考えさせるとともに,自己の生き方
が現代の倫理的課題と結び付いていることをとらえさせる。

(2) 人間としての在り方生き方

自己の生きる課題とのかかわりにおいて,先哲の基本的な考え方を手掛かりとして,人間
の存在や価値について思索を深めさせる。
ア 人間としての自覚
人生における哲学,宗教,芸術のもつ意義などについて理解させ,人間の存在や価値に
かかわる基本的な課題について思索させることを通して,人間としての在り方生き方につ
いて考えを深めさせる。
イ 国際社会に生きる日本人としての自覚
日本人にみられる人間観,自然観,宗教観などの特質について,我が国の風土や伝統,
外来思想の受容に触れながら,自己とのかかわりにおいて理解させ,国際社会に生きる主
体性のある日本人としての在り方生き方について自覚を深めさせる。

(3) 現代と倫理

現代に生きる人間の倫理的課題について思索を深めさせ,自己の生き方の確立を促すとと
もに,よりよい国家・社会を形成し,国際社会に主体的に貢献しようとする人間としての在
り方生き方について自覚を深めさせる。
ア 現代に生きる人間の倫理
人間の尊厳と生命への畏敬,自然や科学技術と人間とのかかわり,民主社会における人
間の在り方,社会参加と奉仕,自己実現と幸福などについて,倫理的な見方や考え方を身
に付けさせ,他者と共に生きる自己の生き方にかかわる課題として考えを深めさせる。
イ 現代の諸課題と倫理
生命,環境,家族,地域社会,情報社会,文化と宗教,国際平和と人類の福祉などにお
ける倫理的課題を自己の課題とつなげて探究する活動を通して,論理的思考力や表現力を
身に付けさせるとともに,現代に生きる人間としての在り方生き方について自覚を深めさ
せる。

3 内容の取扱い

(1) 内容の全体にわたって,次の事項に配慮するものとする。
ア 中学校社会科及び道徳並びに公民科に属する他の科目,地理歴史科,家庭科,情報科及
び特別活動などとの関連を図るとともに,全体としてのまとまりを工夫し,特定の事項だ
けに偏らないようにすること。
イ 先哲の基本的な考え方を取り上げるに当たっては,内容と関連が深く生徒の発達や学習
段階に適した代表的な先哲の言説等を精選すること。また,生徒自らが人生観,世界観を
確立するための手掛かりを得させるよう様々な工夫を行うこと。
(2) 内容の取扱いに当たっては,次の事項に配慮するものとする。
ア 内容の(1)については,この科目の導入として位置付け,生徒自身の課題を他者,集団
や社会,生命や自然などとのかかわりを視点として考えさせ,以後の学習への意欲を喚起
すること。
イ 内容の(2)については,次の事項に留意すること。
(ア) アについては,ギリシアの思想,キリスト教,イスラム教,仏教,儒教などの基本的
な考え方を代表する先哲の思想,芸術家とその作品を,倫理的な観点を明確にして取り
上げるなど工夫すること。
(イ) イについては,古来の日本人の考え方や代表的な日本の先哲の思想を手掛かりにして,
自己の課題として学習させること。
ウ 内容の(3)については,次の事項に留意すること。
(ア) アについては,倫理的な見方や考え方を身に付けさせ,自己の課題として考えを深め
ていく主体的な学習への意欲を喚起すること。
(イ) イについては,アの学習を基礎として,学校や生徒の実態等に応じて課題を選択し,
主体的に探究する学習を行うよう工夫すること。その際,イに示された倫理的課題が相
互に関連していることを踏まえて,学習が効果的に展開するよう留意するとともに,論
述したり討論したりするなどの活動を通して,自己の確立を促すよう留意すること。

第3 政治・経済

1目標

広い視野に立って,民主主義の本質に関する理解を深めさせ,現代における政治,経済,国
際関係などについて客観的に理解させるとともに,それらに関する諸課題について主体的に考
察させ,公正な判断力を養い,良識ある公民として必要な能力と態度を育てる。

2内容

(1) 現代の政治

現代の日本の政治及び国際政治の動向について関心を高め,基本的人権と議会制民主主義
を尊重し擁護することの意義を理解させるとともに,民主政治の本質について把握させ,政
治についての基本的な見方や考え方を身に付けさせる。
ア 民主政治の基本原理と日本国憲法
日本国憲法における基本的人権の尊重,国民主権,天皇の地位と役割,国会,内閣,裁
判所などの政治機構を概観させるとともに,政治と法の意義と機能,基本的人権の保障と
法の支配,権利と義務の関係,議会制民主主義,地方自治などについて理解させ,民主政
治の本質や現代政治の特質について把握させ,政党政治や選挙などに着目して,望ましい
政治の在り方及び主権者としての政治参加の在り方について考察させる。
イ 現代の国際政治
国際社会の変遷,人権,国家主権,領土などに関する国際法の意義,国際連合をはじめ
とする国際機構の役割,我が国の安全保障と防衛及び国際貢献について理解させ,国際政
治の特質や国際紛争の諸要因について把握させ,国際平和と人類の福祉に寄与する日本の
役割について考察させる。

(2) 現代の経済

現代の日本経済及び世界経済の動向について関心を高め,日本経済のグローバル化をはじ
めとする経済生活の変化,現代経済の仕組みや機能について理解させるとともに,その特質
を把握させ,経済についての基本的な見方や考え方を身に付けさせる。
ア 現代経済の仕組みと特質
経済活動の意義,国民経済における家計,企業,政府の役割,市場経済の機能と限界,
物価の動き,経済成長と景気変動,財政の仕組みと働き及び租税の意義と役割,金融の仕
組みと働きについて理解させ,現代経済の特質について把握させ,経済活動の在り方と福
祉の向上との関連を考察させる。
イ 国民経済と国際経済
貿易の意義,為替相場や国際収支の仕組み,国際協調の必要性や国際経済機関の役割に
ついて理解させ,グローバル化が進む国際経済の特質について把握させ,国際経済におけ
る日本の役割について考察させる。

(3) 現代社会の諸課題

政治や経済などに関する基本的な理解を踏まえ,持続可能な社会の形成が求められる現代
社会の諸課題を探究する活動を通して,望ましい解決の在り方について考察を深めさせる。
ア 現代日本の政治や経済の諸課題
少子高齢社会と社会保障,地域社会の変貌と住民生活,雇用と労働を巡る問題,産業構
造の変化と中小企業,農業と食料問題などについて,政治と経済とを関連させて探究させ
る。
イ 国際社会の政治や経済の諸課題
地球環境と資源・エネルギー問題,国際経済格差の是正と国際協力,人種・民族問題と
地域紛争,国際社会における日本の立場と役割などについて,政治と経済とを関連させて
探究させる。

3 内容の取扱い

(1) 内容の全体にわたって,次の事項に配慮するものとする。
ア 中学校社会科,公民科に属する他の科目,地理歴史科,家庭科及び情報科などとの関連
を図るとともに,全体としてのまとまりを工夫し,特定の事項だけに偏らないようにする
こと。
イ 1の目標に即して基本的な事項・事柄を精選して指導内容を構成すること。また,客観
的な資料と関連させて政治や経済の諸課題を考察させるとともに,政治や経済についての
公正かつ客観的な見方や考え方を深めさせること。
ウ 政治や経済について考察した過程や結果について適切に表現する能力と態度を育てるよ
うにすること。
(2) 内容の取扱いに当たっては,次の事項に配慮するものとする。
ア 内容の(1)については,次の事項に留意すること。
(ア) アの「法の意義と機能」,「基本的人権の保障と法の支配」,「権利と義務の関係」につ
いては,法に関する基本的な見方や考え方を身に付けさせるとともに,裁判員制度を扱
うこと。「民主政治の本質」については,世界の主な政治体制と関連させて扱うこと。
また,「現代政治の特質」については,世論形成などについて具体的事例を取り上げて
扱い,主権者としての政治に対する関心を高めることに留意すること。
(イ) イについては,文化や宗教の多様性についても理解させること。また,「国際紛争の
諸要因」については,多様な角度から考察させるとともに,軍縮や核兵器廃絶などに関
する国際的な取組についても扱うこと。
イ 内容の(2)については,次の事項に留意すること。
アについては,マクロ経済の観点を中心に扱うこと。「市場経済の機能と限界」につい
ては,公害防止と環境保全,消費者に関する問題も扱うこと。また,「金融の仕組みと働
き」については,金融に関する環境の変化にも触れること。
ウ 内容の(3)については,次の事項に留意すること。
(ア) 内容の(3)については,この科目のまとめとして位置付け,内容の(1)及び(2)で学習
した成果を生かし,地域や学校,生徒の実態等に応じて,ア及びイのそれぞれにおいて
課題を選択させること。その際,政治や経済の基本的な概念や理論の理解の上に立って,
事実に基づいて多様な角度から探究し,理論と現実との相互関連を理解させること。
(イ) アについては,国際社会の動向に着目させたり,諸外国における取組なども参考にさ
せたりすること。