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【年表1】性暴力に関する年表(富永智津子)

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 「慰安婦」問題を/から考える-軍事性暴力の世界史と日常世界-

作成:富永智津子(歴研・日本史研合同シンポジウム:コメント資料:2013年12月15日)(掲載:2014.03.21)

【解説】

この「軍事性暴力小史」「売春および慰安所関連小史」「性暴力/売春に関する法規制小史」「被害者尊厳回復のための試みに関する小史」は、2013年12月15日に開催された上記シンポジウムのコメント資料として作成した年表を大幅に改訂したものです。その目的は、日本軍性奴隷制度(慰安婦問題)に関する歴史事実を無視した政治家の最近の一連の発言や動きに対し、真摯に過去の加害行為に向き合うことこそが、今われわれの取るべき選択肢であることを世界史的潮流の中で示すことにあります。昨今の「慰安婦」をめぐって日韓がナショナリズムのぶつかり合いになっている状況を克服するためにも、「世界史」的な認識を深めること、自国の歴史を一国史的にとらえるような姿勢を克服することが肝要だと思います。そのために、分析や視点は、あくまでも被害者の尊厳を回復し、ふたたびこのようなことを繰り返さない社会の構築に置かれるべきであり、それは、国際社会が国境を越えて取り組むべき課題であると考えています。

→参考【エッセイ5】軍事性暴力の世界史(富永智津子)

【コメント】

以下は年表の作成過程で気づいたことです。これは富永の雑感であり、読者の方々による世界史的観点からの分析を期待しています。

①日常と戦場

[事例]日常の中の「性暴力」と戦時性暴力との不可分の関係。隠蔽された日常の性暴力の延長としての戦場のあからさまな性暴力。
・[文献]
しかし、最近のユーゴやボスニア、あるいはアフリカ内戦に見られるジェノサイドや民族浄化、あるいは集団レイプには、日常とは異なる力学が働いて
いるとする研究結果がある。詳しくは、Dara K
ay Cohen, Explaining Rape durin Civil War: Cross-National Evidence(1980-2009),
      American Political Science Review, Vol.107.No.3, August 2013: 461-477を参照。

①-2戦場と母国

・[事例]売春や慰安所など、母国では禁止されている法律も、戦場では容認された。

②宗主国と植民地

・[事例]本国で法的に禁止された公娼制度が植民地では存続していたケース(例:英領インド、アメリカ占領下のフィリピン・・・)
・[文献]宗主国の男性と現地の女性との間の性交渉を統制することによって支配民族の威信を守りつつ、同時に性病を予防しつつ兵士の性的欲求をいかに処理さ
せるかというジレンマの中で、売春や公娼制度めぐる問題が、いかにジェンダー、人種、階級の問題として重要な植民地政策の課題であったかについての研究史
のサーベイは、Linda Bryer, “Sex, Race, and Colonialism: An Historiographical Review”, International History Review, 20:4,806-
822,1998を
参照のこと。

③植民地支配の道具としての性暴力

・[事例]19世紀の植民地インドでは、ヨーロッパ女性へのインド人男性によるレイプが植民地化を正当化する口実として宣伝に使用された。その有名な事例
     が、1857年のインド大叛乱中にインド兵(セポイ)によるイギリス人女性や少女へのレイプについての誇張された報道、あるいは虚偽の報道だった。

④人種・民族・階級・ジェンダー差別の政治的利用としての性暴力

・[事例]第二次世界大戦直後のフランス軍植民地兵によるドイツ女性へのレイプ

⑤法令の二重性

・[事例]日本の芸娼妓の解放は、従来の性慣行を制度化することによる従事者の保護と新たな公娼制の確立を意味した。このことは、現在の売春合法化の是非の
議論と重なっている。

⑥公娼制度や売春の管理の論理

・家父長制の維持、女性の分断(娼婦は犯罪者)、性病対策、性的慰安、強姦の防止、愛国心、性の二重規範、優越人種と劣等人種(「植民地の娼婦を管理する優
越人種」という構図)
・公娼が廃止されると私娼が激増するという関係性

⑦売春・公娼制度と人種差別

・[事例]1880年代の香港―中国人はヨーロッパ出身の白人娼婦(フランス人、イタリア人、とりわけ東欧・ロシア出身のユダヤ人女性が多かった)と付き合うこ
とを禁じられた(藤目ゆき『性の歴史学』不二出版1997:59)
「売春市場への欧州出身女性の顕著な増加がケープ植民地における社会浄化運動、婦女売買禁止運動を刺激したが、それには外来の娼婦への排斥感情のみならず
非白人男性が白人女性と性交をすることへの憎悪が結びついていた」(藤目:67)

⑧構造的暴力と主体性

・戦争や紛争は一般市民に犠牲を要求する。それを正当化する仕掛は、宗教であったり、法律であったり、教育であったりする。それを構造的暴力と言って良いだ
 ろう。その中で個々人がいかに「主体性」に選択し、生きるかが問われることになる。この「構造」と「主体」との関係を明確にするアプローチが、戦時性暴力
の分析には欠かせない。詳しくは、小野沢あかね「芸妓・娼妓・酌婦から見た戦時体制―日本人「慰安婦」問題とは何か」歴史学研究会・日本史研究会(編)『「慰安婦」問題を/から考える―軍事性暴力と日常世界』岩波書店、2014:92-96)。


【付記】韓国挺身隊問題対策委員会が求める要求(1990)
 日本軍「慰安婦」の法的認定;真相究明;国会決議謝罪;法的賠償;歴史教科書への記録;慰霊碑と資料館の建設;責任者の処罰(公式ホームページより)

[年表から読み取れること]

○軍事性暴力小史

古代・・・・女・子どもは戦利品(古代イスラエル、古代ギリシア)
中世・・・・「敵」への攻撃・報復の一環としての性暴力(十字軍以降)
近代・・・・帝国主義/植民地主義/人種差別の表象としての性暴力(義和団事件~)
現代・・・・民族解放闘争~植民地独立後の内戦にともなう性暴力の拡大(ケニアのマウマウ戦争~シリア内戦)

○売春および慰安所関連事項

古代・・・・神殿娼婦/売春宿/娼婦の登録制や課税
中世・・・・遊女/遊郭/妓楼/妓生/娼館の登場(卑賤視のはじまり:女性の二元化)
近代・・・・戦争と性暴力の世界的拡大⇒性病対策としての公娼制の確立;植民地への移植(画期はナポレオン戦争とクリミア戦争)
現代・・・・管理売春か売春防止か

○性暴力/売春の規制に関する法的事項

古代・・・・女性への被害=男性保護者(父、夫)への被害;刑罰は死刑・火刑
中世・・・・売春の規制;レイプ罪に厳罰(レイプは夫への犯罪)
近代・・・・国際条約による女性保護。「家の名誉」という名目でレイプ禁止条項が盛り込まれたのが最初(1907)
現代・・・・1990年代になって初めて「女性の人権」概念が確立し、女性への性暴力が「人道に対する罪」として条約に盛り込まれる。

○軍事性暴力とジェンダー

近年のアフリカの内戦や紛争に関連する女性への性暴力の多発状況の背景には、兵士のリクルート状況、正規軍か反乱軍か、ジェンダー間の不平等、ジェンダー秩序、民族間憎悪、内戦の目的(分離目的か権力闘争か)などとの相関関係を実態に即して分析する必要がある(Dara Kay Cohen, Explaining Rape durin Civil War: Cross-National Evidence(1980-2009), American Political Science Review, Vol.107.No.3, August 2013: 461-477参照)。

○展望

世界史的に見て、軍事性暴力は古代から現代まで間断なく続いてきた。並行して、それぞれの時代にさまざまな規制の試みが行われてきた。一方で、政治的な戦略として利用されてきた側面が、とりわけ植民地政策との関連で浮かび上がった。現代社会においては国連を中心とした国際組織によるさまざまな対策が続けられている。この流れは、一方で中東・アフリカにおける紛争防止に、他方で過去の「人道に対する罪」への謝罪と贖いに向けられつつある。こうした時代の流れに沿って、相対主義に陥ること無く、ひとつの事例を絶対化することなく、真摯に過去のすべての女性への人権侵害と向き合うことが、今、われわれに求められている。それは、個々の事例の特殊性の中から、普遍性を導き出す作業といってもいいだろう。

軍隊と性暴力が、男性中心の性イデオロギーと切っても切り離せないものであるとしたら、究極の解決策は非戦と非暴力以外にない。これこそが、ジェンダー論の基軸におかれるべき目標である。われわれは、それを理念として掲げている日本国憲法第9条を持っていることを忘れてはならない。

<付記>

軍事性暴力に関する史料は、遺されていない場合が多く、地域的にも濃淡がある。事例がわかっている場合でも一次史料にアクセスするのは難しい。一次史料に出来る限りアクセスし、なるべく信頼のおける二次文献に依拠しているが、まだまだ確認すべき事項は多く、本研究会のメンバーの協力も得ながら、随時加筆修正を行う予定であることをお断りしておきたい。

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