【用語】LGBT/LGBTI/LGBTQ/セクシュアル・マイノリティ

掲載:2016-05-04 執筆:三成美保

LGBT/LGBTI/LGBTQ

LGBT/LGBTI/LGBTQは、性的指向(レズビアンL・ゲイG・バイセクシュアルB)、性別違和(トランスジェンダーT)、性分化疾患(インターセックスI)、クイアQというまったく性質が異なる存在をあわせた呼称である。したがって、このような一括した表現に対して違和感をもつ当事者も少なくない。「性的マイノリティ」という呼称が使われることもあるが、当事者の自称ではないため、今日の国際社会ではLGBT/LGBTI/LGBTQという表現のほうが一般的に用いられる。

クイア

「クイアQ(queer)」の原義は「変態」であり、もとは蔑称として使われていた。しかし、1990年代にあえて「クイア」を肯定的に用いることにより、ジェンダー/セクシュアリティの「中心/周縁」「規範/逸脱」といった権力構造を攪乱(かくらん)し、新たな世界の可能性をさぐろうとする理論や実践が登場した(クイア理論)。

歴史のなかのLGBTI

歴史的には、多くの社会でLGBTIは厳密に区別されてこなかった。LGBTIに対する社会の対応も多様であった。

前近代キリスト教社会では、同性間の性行為(事実上は男性間のみ)はソドミーとして火刑に処せられた。また、異性装も宗教的罪とされた。宗教と法が分離した近代ヨーロッパでも、多くの国で男性同性間性行為は「自然に反する罪」として存続した。女性同性愛が犯罪視されなかったのは、女性は性的主体とみなされなかったからである。

同性間性行為や異性装を「罪」とみなすキリスト教的価値観にしたがって、アメリカ大陸の先住民社会に存在した「クロスジェンダー文化(性別が交差する文化=男性が公的には女性役割を演じながら、女性と結婚するなど)」は激しい迫害を受けた。

19世紀後半には、同性愛の生得性を主張するために「同性愛(Homosexualität)」という語が考案された。しかし、「同性愛」が概念として確立した結果、「同性愛(異常)/異性愛(正常)」の対比もまた確立した。20世紀初頭、M.ヒルシュフェルト(独)は性科学研究所を設立して、同性愛者の権利運動を進めたが、ナチスによって弾圧された。ストーンウォール暴動(1969 年:米)とアルトマン『ゲイ・アイデンティティ』をきっかけにゲイ解放運動が本格化した。

当初、ゲイの多くは婚姻制度を否定していたが、1980年初頭の エイズパニックを機に生活共同体の保護を求めるようになる。こうした運動のなかで、レズビアンは周縁化されがちであった。

1980年頃から、欧米ではトランスジェンダーの性別変更に関する法が整備されはじめた。今日の国際社会では、身体変更の強制は人権侵害と考えられている。ドイツでも2000年ごろに、性別変更に関しては本人の性別違和感のみでよいことが連邦最高裁で判例として確立した。しかし、日本の性同一性障害者特例法(2003年)は、身体変更を性別変更の要件としており、問題が多い。

1990年代以降、EU諸国では 同性の生活共同体が婚姻同等に保護されるようになり、2000年のオランダを皮切りに、婚姻の性中立化(同性婚の法制化)が急速に進められている(2014年フランス、2015年アメリカ連邦最高裁判決など)。アジアでも、台湾などいくつかの国が同性カップルの法的保障にむけて法制化を検討している。

同性間性行為と異性間結婚の両立

古代ギリシア・ローマ、イスラーム、中国などでは「挿入する側/される側」の対比が名誉に関わった。これらはいずれも男権主義的性格が強い社会である。そこでは、男性が「挿入者」として男性以外の者(女性・少年・小姓・召使い・異性装者・両性具有者など)とセックスをしても、彼らの性的アイデンティティに影響はなかったのである。

イスラーム社会

イスラーム社会では男女が厳しく分断されたため、同性愛行為が広く浸透した。しかし一方で、同性愛行為は、クルアーンによってソドミーとして禁じられていたため秘密裡に行われねばならなかった(古代アテナイでは教育として公然化)。今日、イスラーム社会の一部では、原理主義の台頭にともなって同性愛嫌悪が強まっており、死刑や重罰に処せられることもある。これらイスラーム諸国の反対が強いため、国連総会ではLGBTIの権利保障に向けた決議は実現していない。しかし、国連人権理事会決議(2011/2014年)をはじめ、国際的な取り組みは確実に進んでいる。

ヒジュラ(南アジア)

バングラデシュのヒジュラ集団

「第三の性」とよばれる南インド(インド、バングラデシュなど)のヒジュラ(ヒジュラー)は、去勢儀礼を通じて男性としての生き方を捨て、女性衣装たるサリーを身につけた人びとである。彼らは、古代には女性の貞節と節操の守護者として尊敬され、今日でも女神の恩寵を授ける者として尊重されており、西洋的なLGBTIのどれにもあてはまらない。

日本

日本では、性同一性障害者特例法(2003年)がLGBTI関連の唯一の法であり、同法は「障害」という語を用いているうえ、欧米の法と比べても要件に制限が多い。いくつかの自治体が同性カップルに「結婚証明書」を発行するという取り組みを始めたが(2015年)、法的効力はない。性分化疾患については、自殺企図率の高さなどが指摘されており、学校現場での対策が急務である。

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【特集3-1】LGBTと性分化疾患ー「性別の二元構造」とLGBTI(三成美保)

【特集3】LGBT・LGBTIの権利保障ー国際的・国内的動向

[文献]

商品の詳細三成美保編『同性愛をめぐる歴史と法ー尊厳としてのセクシュアリティ』明石書店、2015年、4320円

ロバート・オールドリッチ(田中英史・田口孝夫訳)『同性愛の歴史』東洋書林、2009年

三成美保「LGBTIの権利保障」『歴史地理教育』813、2013年

デニス・アルトマン(岡島・河口・風間訳)『ゲイ・アイデンティティー抑圧と解放』岩波書店、2010年

服藤早苗、三成美保編『権力と身体』明石書店、2011年