目次
(1)関連シンポジウム
●日本学術会議主催学術フォーラム「教養教育は何の役に立つのか?ージェンダー視点からの問いかけ」(2013年6月29日)
日本学術会議主催 学術フォーラム 2013年6月29日(土)13:00~17:00:於:日本学術会議講堂(入場無料・事前申し込み不要)(シンポジウム責任者:井野瀬久美恵)
***企画趣旨***
IT化の急速な進展、知識基盤社会の浸透、グローバルな教育の格付けとそれと連動した(かに思われる)若者のトランスナショナルな移動をうけて、日本社会における大学の役割も大きく変化しつつある。それを受けて、各専門分野についてはその質保証が議論されるなか、全学共通科目については、外国語や情報、キャリアと関係するスキル科目が増える一方、いわゆる「教養科目」はその比重を落としつつあるのが現状である。 大学における教養教育は何の役に立つのか?それを身につければ、現代世界が抱える諸問題を見る見方がどのように変わるのだろうか?こうした問いと同時に求められているのは、「教養」そのものの問い直しだろう。歴史学と法学は、伝統的な教養科目であった。これらをジェンダー視点から組み替えたときに、「教養」科目の内実や役割は具体的にどう変わりうるのか? 本シンポジウムは、「教養教育」の再定位に向けた試みの一つである。国際社会や実業界が期待する「教養」の内実を知り、文系・理系の枠を超えた学際的教養への変革を展望しつつ、問題提起をしてみたい。(井野瀬久美恵)
◆プログラム(13:00~17:00)◆
◆開会挨拶・趣旨説明 井野瀬久美恵(甲南大学教授・日本学術会議第一部会員)
13:10~14:50 報 告
(1)「ジェンダー史研究の成果は浸透したのか?」姫岡とし子(東京大学教授・日本学術会議連携会員)
(2)「東アジアをジェンダー史から読み直す」小浜正子(日本大学教授・日本学術会議連携会員)
(3)「市民教養としてのジェンダー法学-共生のための技法を学ぶ」三成美保(奈良女子大学教授・日本学術会議連携会員)
(4)「「教養教育は何の役に立つのか」となぜ問われるのか?」小林傳司(大阪大学教授・日本学術会議連携会員)
15:00~15:45 コメント
◆「企業が求める教養」佐藤千佳(日本マイクロソフト(株)執行役・人事本部長)
◆「理系と文系の教養教育を架橋する」藤垣裕子(東京大学教授・日本学術会議連携会員)
◆「多極化する世界の中での教養」林陽子(弁護士・国連女性差別撤廃委員会委員)
15:45~16:55 討 論
◆閉会挨拶 浅倉むつ子(早稲田大学教授・日本学術会議第一部会員)
◆司会:大日方純夫(早稲田大学教授・日本学術会議連携会員)・武田万里子(津田塾大学教授・日本学術会議連携会員)
→成果についてはこちら →*【特集】教養教育は何の役に立つのか?ージェンダー視点からの問いかけ
●日本学術会議公開シンポジウム「歴史認識を変える-歴史教育改革とジェンダー」(2011年7月2日)
日本学術会議公開シンポジウム「歴史認識を変える-歴史教育改革とジェンダー」2011年7月2日、於:日本学術会議講堂(シンポジウム責任者:姫岡とし子)
***企画趣旨***
2009年に行ったシンポジウムの結果、歴史教育へのジェンダー視点の導入のためには歴史教育全体の改革が不可欠であることが明らかになった。そこで本シンポジウムでは、史学委員会の協力を得ながら、1,歴史教育に女性史・ジェンダー史の成果をより一層組み入れていくには、どうすべきかを検討し、2,それには、どのような歴史全体の書き換えが必要か、また歴史教育において提示される歴史像はどのようなものであるべきかを考えていく。
具体的には、まず現行の歴史像と歴史教科書の執筆とは深く関連しているという観点から、どのような問題意識に立ったがゆえに、どのような歴史像が作られてきたのかを遡及的に考察する。過去における歴史認識と歴史叙述との関連を正確に把握することによって現在の立ち位置を明確化し、歴史の書きかえの展望につなげていきたい。また、女性をはじめとする歴史叙述・歴史教育上の「他者」に注目し、なぜ「他者」として形成・扱われるのか、その「他者」は、歴史叙述の「メインストリーム」とどのような関係にあるのかを考える。(姫岡とし子)
【プログラム】
13:00-13:10「趣旨説明」姫岡とし子(東京大学・大学院人文社会系研究科教授・日本学術会議連携会員)
13:10-13:40「基調講演ー日本の女性史・ジェンダー史研究と歴史認識」長野ひろ子(中央大学経済学部教授・日本学術会議連携会員)
13:40-14:00「歴史認識と女性史像の書きかえ-近代日本を学ぶ/教える」成田龍一(日本女子大学・人間社会学部教授・日本学術会議特任連携会員)
14:00-14:20「歴史認識とジェンダー―中国史を学ぶ/教える」小浜正子(日本大学・文理学部教授・日本学術会議連携会員)
14:20-14:40「歴史教育とジェンダー―アジアから全体史を学ぶ/教える」桃木至朗(大阪大学・コミュニケーションデザイン・センター教授・日本学術会議特任連携会員)
15:00-16:50 コメント・討論
コメント:三谷博(東京大学・大学院総合文化研究科教授)・李成市(早稲田大学・文学学術院教授)・羽場久美子(青山学院大学・国際政治経済学部教授)
16:50-17:00「閉会挨拶」 桜井万里子 (東京大学名誉教授・日本学術会議会員 )
司会:木畑洋一(成城大学法学部教授・日本学術会議連携会員)/姫岡とし子
●成果は、『歴史評論』748号(2012年8月)「特集ー歴史認識とジェンダー」で公表されています(下記(3)「研究成果の公表」参照)。
●日本学術会議公開シンポジウム「歴史教育とジェンダーー教科書からサブカルチャーまで」(2009年12月13日)
日本学術会議・史学委員会歴史学とジェンダーに関する分科会・公開シンポジウム
2009年12月13日(日)13:00~17:00 於:日本学術会議講堂
(シンポジウム責任者:長野ひろ子)
【プログラム】
●13:00~13:10 長野ひろ子(中央大学教授・日本学術会議連携会員)「趣旨説明」
●13:10~13:25 富永智津子(元宮城学院女子大学教授・日本学術会議連携会員)「高校世界史教科書のジェンダー化にむけて―日本とアメリカの比較」
●13:25~13:35 桜井万里子(東京大学名誉教授・日本学術会議第一部会員)「古代ギリシアの社会をジェンダーの視点から読み解いてみる」
●13:35~13:45 井野瀬久美恵(甲南大学教授・日本学術会議連携会員)「奴隷貿易にジェンダーの視点をクロスオーバーさせる」
●13:45~14:00 久留島典子(東京大学教授・日本学術会議連携会員)「高等学校日本史教科書にみるジェンダー」
●14:00~14:10 長野ひろ子(中央大学教授・日本学術会議連携会員)「女性史・ジェンダー史の成果は教科書に生かされているか―日本近世の場合」
●14:10~14:20 荻野美穂(同志社大学教授・日本学術会議連携会員)「歴史教育の役割―「歴史」と「自分」を架橋するために」
●14:20~14:40 香川檀(武蔵大学教授・日本学術会議特任連携会員)「ミュージアムとジェンダー―展示による経験の可視化をめぐって」
●14:40~15:00 藤本由香里(明治大学准教授・日本学術会議特任連携会員)「「女たちは歴史が嫌い」か? ―少女マンガの歴史ものを中心に」
●15:20~17:00 討論(15:00~15:20 休憩)
司会:姫岡とし子(東京大学教授・日本学術会議連携会員)・三成美保(摂南大学教授・日本学術会議連携会員)
→シンポジウム成果として、『学術の動向』(2010年5月号)に論文(PDF)が掲載されています(下記(3)成果をも参照)→http://www.h4.dion.ne.jp/~jssf/text/doukousp/2010-05.html
(2)研究成果の公表
●『歴史評論』748号(2012年8月)「特集ー歴史認識とジェンダー
日本学術会議・史学委員会主催のシンポジウム「歴史認識を変える―歴史教育改革とジェンダー」の成果を、シンポジウム後援団体の一つであった歴史科学協議会の機関誌『歴史評論』に発表したもの。
→詳しくはこちら
<目次から>
姫岡とし子「歴史認識を考える ―歴史教育改革とジェンダー―」
長野ひろ子「日本の女性史・ジェンダー史研究と歴史認識」
成田龍一「歴史認識と女性史像の書き換えをめぐって ―近現代日本を対象に―」
小浜正子「中国史の歴史認識とジェンダー」
桃木士朗「アジアから全体史を見る/語る」
羽場久美子「EUの歴史認識とジェンダー ―書かれた歴史、なされた歴史、認識された歴史、そしてジェンダー―」
桜井万里子「ジェンダー史の可能性 ―西洋古代史研究の立場から―」
●長野ひろ子・姫岡とし子編著『歴史教育とジェンダーー教科書からサブカルチャーまで』青弓社、2010年
日本学術会議・史学委員会歴史学とジェンダーに関する分科会・公開シンポジウム「歴史教育とジェンダーー教科書からサブカルチャーまで」(2009年12月)の成果をまとめたもの。本書の執筆者メンバーを中心に、比較ジェンダー史研究会が発足した。
学生たちと話すと、高校での教育内容が彼らの歴史イメージの形成にいかに大きく影響しているかを痛感させられる。残念ながら、学校での現行の歴史教育から、女性やジェンダーについて知識を得たり、関心を抱いたりするのは難しい。本書の分析は、このことを如実に示している。
アメリカの教科書には、女性・ジェンダーに関する記述が豊富だ。それに較べて、日本の教科書は、ジェンダーへの配慮が乏しい。といっても、この間の女性史・ジェンダー史の膨大な研究成果がまったく教科書に反映されていないわけではなく、変化の兆しはあらわれている。ジェンダー関連記述が相対的に多いのは、受験とは無関係なAに多いテーマ設定型の教科書で、受験用のB、とくに受験界で定評のある教科書ほど、出来事を網羅的に伝える知識習得型の通史叙述になっている。
今回の分析で浮かびあがってきたのは、30年以上前にあたらしい女性史が鋭く告発した論点が教科書叙述に生かされていないことだ。Bの定型的な通史叙述では、あいかわらず政治史・事件史・偉人中心で、人類の半分をしめる女性の経験は不可視なままだ。用語法でも、「人」、「民衆」、「労働者」といった用語が男性中心に用いられ、女性の場合は、女性労働者と特記されて、「男性=一般、女性=特殊」の図式が再生産されている。多くの教科書に登場するキューリー夫人は、なぜマリー・キュリーではなく、夫人と書かれるのか。
本書の特色は、アメリカ、および日本の日本史・世界史教科書の詳細な分析にとどまらず、改善の具体的な提案をしていることだ。たんにジェンダーに言及する必要性を唱えるだけではなく、ジェンダーの視点を入れれば、どのように歴史像が変わるかを、奴隷貿易や古代ギリシャ社会などの例で具体的に示している。すぐに実施可能な改善策としては、用語法に注意するだけでなく、解説や注の充実による主体の明確化、トピックや特設ページの充実など。性や生殖の問題については、例えば「遊里」は町人文化展開の空間としか書かれず、「大奥」もセクシュアリティの問題には触れられないなど、タブー視や曖昧化が目立つので、正面から取り組むことを提唱している。
本書は歴史教育を学校だけに限らず、漫画や博物館などのサブカルチャーを含めて扱っている。サブカルチャーとしての分析にとどまらず、学校教育とシンクロする部分、学校教育について考えさせられる指摘が多い。少女用漫画では、男性用よりもフィクション依存度が高いが、それは、語られる/文字に残される名前のある歴史は男性のものだったからだ。博物館展示では、女性のゲットー化やステレオタイプの再生産が目立つが、ジェンダーの視点を入れた展示では、日常生活が全体史理解の窓口にもなっている例がある。
本書を編集して、歴史教育にジェンダーの視点を導入するには、歴史教育全体の変革が必要だということがあらためて明確になった。「歴史は暗記」という思い込みから解放され、歴史的思考力を身につけて時代変化を読み、歴史の多様性や複合性を理解し、現在のリアリティと歴史を結びつけることによって、はじめて「歴史のおもしろさ」がわかり、歴史を通じて主体的に学び考えることができるのだ。本書の随所で、そうした指摘が行われている。(編者 姫岡とし子)
初出 WAN著者・編集者紹介(http://wan.or.jp/book/?p=1226)
●『学術の動向』(2010年5月号)特集 歴史教育とジェンダー -教科書からサブカルチャーまで-
シンポジウム成果として、『学術の動向』(2010年5月号)に論文(PDF)が掲載されています。→http://www.h4.dion.ne.jp/~jssf/text/doukousp/2010-05.html
●歴史教育とジェンダー -教科書からサブカルチャーまで- /長野ひろ子
●高校世界史教科書のジェンダー化に向けて -日本とアメリカの比較- /富永智津子
●古代ギリシアの社会をジェンダーの視点から読み解いてみる /桜井万里子
●奴隷貿易にジェンダーの視点をクロスオーバーさせる / 井野瀬久美惠
●高等学校日本史教科書にみるジェンダー /久留島典子
●女性史・ジェンダー史の成果は教科書に生かされているか -日本近世の場合-/長野ひろ子
●歴史教育の役割 -「歴史」と「自分」を架橋するために- /荻野美穂
●ミュージアムとジェンダー -展示による経験の可視化をめぐって /香川 檀
●「女たちは歴史が嫌い」か? -少女マンガの歴史ものを中心に /藤本由香里
●討論の総括と今後の展望 -教科書の書き換えは可能か?- /三成美保
●三成美保・姫岡とし子・小浜正子編著『歴史を読み替えるージェンダーから見た世界史』大月書店、2014年5月刊行
比較ジェンダー史研究会の成果として、2014年5月に刊行
→*【新刊】『歴史を読み替えるージェンダーから見た世界史』2014年(はしがき紹介)