●著書/訳書
● 富永智津子著『 ザンジバルの笛―東アフリカ・スワヒリ世界の歴史と文化』 未來社 2001
“ザンジバルで笛ふけば 湖水の人びとが踊りだす”インド洋に浮かぶ島ザンジバルに伝わる俗謡の謎を追ってアフリカ内陸、 インド、 アラビア半島へと旅し、 アフリカの富〈象牙や奴隷〉をめぐるアフリカ・アラブ・インド・ヨーロッパ・アメリカの商人群像、 列強国の動向をはじめ、 この島を舞台に展開したスワヒリ世界の歴史と文化を描く。
【目次】
第一部 スワヒリ社会の歴史
はじめに
第一章 スワヒリ世界の夜明け
1 珊瑚礁の島ザンジバル
インド洋に浮かぶ島、王都の面影、ストーン・タウンの賑わい、ココ椰子の林の中で
2 伝説と史実のあいだ──ペルシャ移民「シラジ」の謎
スワヒリとシラジ、『キルワ年代記』、シラジ・モスク、新年祭「ナイルージ」
3 ポルトガルの進出とスワヒリ世界
・・・
第二部 スワヒリ社会の女性と文化
第一章 踊り・歌・成女儀礼
1 踊る女性たち 2 大衆文化の出現 3 成女儀礼 4 平服の登場
第二章 スワヒリの社会と宗教
1 少数派の選択 2 社会変動とイスラーム神秘主義 3 病気治しと女性祈祷師
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●富永智津子著『 スワヒリ都市の盛衰』(世界史リブレット103)山川出版社 2008
考古学の成果を取り入れたスワヒリ社会の歴史を紹介しています。
【目次】
スワヒリ都市の景観
スワヒリ都市の起源
都市の出現
ポルトガルの侵略
オマーン王国の進出とスワヒリ都市の繁栄
スワヒリ都市と農村
●富永智津子・永原陽子編『新しいアフリカ史像を求めて―女性・ジェンダー・フェミニズム』御茶ノ水書房 2006
国立民族学博物館地域研究企画交流センターの連携研究の一環として立ち上げられた「アフリカ女性史に関する基礎的研究」(2000~2003)の成果と、2002年秋に3日間にわたって開催された国際シンポジウム「女性/ジェンダーの視点からアフリカ史を再考するー奴隷制・植民地経験・民族主義運動とその後」のペーパーを集大成したものです。本邦初のアフリカ女性/ジェンダー史のシンポジウムでした。海外の実績ある研究者との討論では、学ぶところも多く、これからの研究に活かしていただければと思います。
【目次】
第一部 フェミニズムと歴史
第一章 フェミニストによる歴史がアフリカを変革する アミナ・ママ
第二章 タンザニアにおける女性史研究―過去と現在 マージョリー・ムビリニ
第三章 マイ・ムソジとアフリカ人女性クラブ 吉國恒雄
第四章 史料の中の女性たち―スワヒリ史再考の試み 富永智津子
第二部 奴隷制の再考にむけて
第五章 奴隷制再モデル化の試みー世界史的比較と展望 クレア・ロートソン
第六章 東アフリカ沿岸部における奴隷制と女性 マーガレット・シュトローベル
第三部 抵抗運動史の再検討
第七章 マジマジ叛乱(タンザニア)再考 タデウス・サンセリ
第八章 オムドゥルマーンの娘たち―19世紀スーダンのマフディー運動と女性 栗田禎子
第九章 女性の眼でみるアパルトヘイト モニカ・セハス
第四部 生活史の中のジェンダー闘争
第十章 北部ナミビアの歴史と女性のイニシエーション パトリシア・ヘイズ
第十一章 南アフリカにおけるジェンダー闘争 アイリス・バーガー
第十二章 罪深き人々とアウトサイダーたち(タンザニア) マージョリー・ムビリニ
第五部 歴史と文学のはざま―女性たちの語りから
第十三章 南部アフリカにおける女性たちの声―歴史の書き換え レロバ・モレマ
第十四章 南アフリカの女性たち―闘争と亡命の語り テルマ・ラヴェル=ピント
●ワンボイ・ワイヤキ・オティエノ著/富永智津子訳『マウマウの娘―あるケニア人女性の回想』未來社 2007
著者ワンボイ・ワイヤキ・オティエノは、植民地時代からポストコロニアル期を通してのケニ
ア政治における独立闘争における傑出した活動により、東アフリカはもとより、広く世界に知られている女性です。独立後は、女性の自立を支援するさまざまなプロジェクトを推進し、コペンハーゲンとナイロビで開催された国連世界女性会議においても政府やNGOの代表として重要な役割を担いました。後半は、著名な弁護士であった夫の死とその遺体をめぐる裁判についての回想が中心テーマとなっています。それは、夫がオバマ大統領と同じルオというきわめて家父長権の強い民族の出身、ワンボイはキクユという別の民族の出身であり、二人がキリスト教の結婚式をあげ、ルオの伝統にのっとって結婚していなかったということで、財産も遺体も夫の親族のものであるとの慣習法との闘いでした。そういう意味で、本書は個人的な物語を通して、ケニア政治や慣習法のあり方を映し出す貴重な記録となっています。
ワンボイさんは、60歳を越えて、30歳以上も年下の青年と結婚することでケニア社会を驚かせましたが、自分
の意思を生涯貫き通したという点では、一貫して「マウマウの娘」だったといってよいでしょう。
2011年に持病の心臓病の悪化により没。
訳者は2度、ナイロビの自宅を訪問、埋葬論争の敵であった夫の弟夫婦が守るオティエノさんの墓参もワンボイ
さんに代わって行ってきました。その記録も掲載してあります。
●コーラ・アン・プレスリー著/富永智津子訳『アフリカの女性史―ケニア独立闘争とキクユ社会』未來社 1999
本書はマウマウ闘争における女性の役割を考察した最初の研究である。著者が現地調査を始めたのは
1979年のことだった。当時のケニヤッタ政権は、政治闘争の中で女性がはらった犠牲を表面的に認
めているだけで、実質的には女性問題を政策の対象とはしていなかった。女性たちは、自分たちが忘
れられているのではないか、次世代の人々が自分たちのおこなった闘争を思い出す術もなくなるので
はないか、という懸念を抱いていた。しかし、彼女たちの遺産は、忘却の彼方に葬り去られるには、
あまりにも大きかった・・・ (著者の「日本語版に寄せて」より)
●アイリス・バーガー E・フランシス・ホワイト 著/ 富永智津子 訳『アフリカ史再考ー女性・ジェダーの視点から』
「女性」が登場することのなかったアフリカの歴史は、ボスラップによる問題提起「女性と開発」に触発され、新たな研究史を拓いた。「王母・大商人・霊媒師・抵抗運動の活動家など傑出した女性」「売春婦・奴隷・家事労働者・農民女性など底辺・周縁の女性」「アフリカ社会におけるジェンダーの問題」をテーマに、古代から現代までのアフリカ史を、女性・ジェンダーに視点をあてた研究の検証を通して再構築。王母、首長、大商人、霊媒師、ダンス結社、売春婦、女奴隷、寡婦、一夫多妻、女子割礼、女性夫、男性娘、セクシュアリティ、開発……。
本邦初のアフリカ女性史入門書です。個別研究の遅れている日本で、まずこうした概説が翻訳されたことにより、アフリカ女性史やジェンダー史を研究しようとする方々が増えることを期待してのことです。個別研究のテーマ探し、全体的俯瞰などの入門書として便利だと思います。
●増谷英樹・富永智津子・清水透著『オルタナティヴの歴史学+座談会「歴史学の新しい地平!」』(21世紀
歴史学の創造 第6巻 有志舎 2013年4月
第2部 帝国と女性―王女サルメの世界から(富永智津子)
サルメは著者が20年間あたためてきた研究対象です。
東アフリカ沿岸部の島ザンジバルでオマーン王国の王女として生まれ、ドイツ人の青年と駆け落ちしてムスリムからキリスト教に改宗、ドイツに渡ったものの、夫を突然の交通事故で失い、幼い子ども3人を育てるために遺産相続権を奪回しようとしてザンジバル・ドイツ・イギリスの政治的駆け引きに翻弄されたことで知られています。1844年に生まれ、1924年に79歳で没。
サルメの遺した回想録や遺稿には、遺産相続という権利を追求してやまない母親の執念と、キリスト教文化と
イスラーム文化のはざまで苦悩するひとりの女性の姿が、合わせ鏡のように映しだされています。本稿の論点
も、この2点に集約されます・・・。
本稿の意義は、アフリカ生まれのアラブ女性、王女という特別な身分の持ち主ではありましたが、研究者でも
思想家でもなく、ましてや人道主義者でもないサルメが、生活者として、19世紀ヨーロッパで何を見、
何を考え、どう行動したかを読み解いた点にあります。それは、当時の男性中心の帝国像を女性の眼から鋭く批
判しており、その批判は、いたって現代的課題を含んでも居ます。
著者はその後、アメリカ合衆国に住むサルメの末裔たちとの親交を深め、聞き取り調査を続行しています。
・日本アフリカ学会編『アフリカ学事典』昭和堂 2014年
アフリカ研究の全領域についての日本における展開と展望を網羅。その中の中項目に「ジェンダー」があり、富永が総説を執筆している(332~343頁)。その他の項目には:
文学とジェンダー
歴史とジェンダー
人類学とジェンダー
政治とジェンダー
リプロダクティブ・ヘルスとジェンダー:エイズとFGM
開発とジェンダー
が所収されており、日本におけるアフリカとジェンダーの全領域の研究状況を知ることができる。
価格16,000円 総頁数655