【資料】女性差別撤廃委員会の最終見解(2009年8月7日)における慰安婦問題の指摘

掲載:2015.08.17  執筆(解説):三成美保

【解説】本最終見解は、日本政府が提出した第6回政府報告に対する審査結果として公表されたものである。慰安婦問題は、「女性に対する暴力」に関する問題の1つとして、第37、38項目に取り上げられている。なお、外務省HPには、過去の最終見解及び今回最終見解に対するフォローアップについての資料が掲載されている。女性差別撤廃委員会(CEDAW)による最終見解(総括所見)では、慰安婦問題には毎回言及されているものの比重が大きいとは言えず、むしろ国内のジェンダー・バイアス除去(とくに民法家族法や労働条件など)に焦点が当てられている。
(参考)外務省関連ページ→http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/josi/index.html

【外務省HPから】「政府は、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)に基づいて、2008年4月に第6回政府報告を提出したが、これに対する女子差別撤廃委員会の検討(consideration)が7月23日にニューヨークにおいて実施された。(参考:我が方出席者は南野知惠子参議院議員を団長に、内閣府、外務省、法務省、厚生労働省、文部科学省、農林水産省、国連代表部から合計20名。なお、女子差別撤廃委員会は、個人資格の専門家23名から構成されており、我が国から林陽子委員がメンバーとなっている。)」出典:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/josi/hokoku06_sk.html

女性に対する暴力

31.委員会は,前回の報告(1998年第4回政府報告と2002年第5回政府報告をさす。両者は併合審査され、2003年に最終コメントが出された=解説者注→http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/josi/4-5_s.html)の提出以降,女性に対する暴力及び性暴力と闘うために締約国(日本をさす=解説者注)が実施したさまざまな取組を歓迎する。この取組には,保護命令制度を拡充し,相談支援センターの設置を市町村に要請する「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」 (国内法)の改正が含まれている。委員会は,この法律が親密な関係におけるあらゆる形態の暴力を対象としていないことや保護命令の申立てから発令までに要 する時間が被害者の生命を更に脅かす恐れがあることについて,引き続き懸念する。委員会はさらに,配偶者等からの暴力や性暴力の女性被害者が苦情申立てや 保護請求の際に直面する障害について懸念する。委員会は,配偶者等からの暴力や性暴力の通報の断念につながるような,移民女性,マイノリティ女性,及び社 会的弱者グループの女性の不安定な立場を特に懸念する。また,委員会は,女性に対するあらゆる形態の暴力の横行に関する情報やデータの提供が不十分である ことにも懸念を表明する(→【家族データ⑨】DV被害の現状(日本))。

32.委員会は,女性の人権侵害として女性に対する暴力に対処することや,女性に対するあらゆる形態の暴力に対処 する取組において委員会の一般勧告第19号を十分に活用することを締約国に要請する。委員会は,配偶者等からの暴力を含めあらゆる暴力は容認されないとい う意識啓発の取組を強化するよう締約国に要請する。委員会は,女性に対する暴力に関する取組を強化すること,保護命令の発令を迅速化すること,女性に対す る暴力の被害者が相談できる24時間無料のホットラインを開設することを締約国に勧告する。また,委員会は,女性が苦情を申立てたり保護や救済を求めたり することができるように,移民女性や社会的弱者グループの女性を含む女性に質の高い支援サービスを提供し,それにより,女性が暴力または虐待を受ける関係 に甘んじる必要がないことを保証するよう締約国に勧告する。こうした観点から,締約国は,配偶者等からの暴力や性暴力の通報を促すために必要な措置を講じ るべきである。委員会は,社会的弱者グループの女性を対象とした包括的な意識啓発プログラムを全国的に実施することを締約国に勧告する。委員会は,警察 官,裁判官,医療従事者,ソーシャルワーカーをはじめとする公務員が,関連法規について熟知し,女性に対するあらゆる形態の暴力に敏感であることや被害者 に適切な支援を提供できることを確保させるよう締約国に要請する。委員会は,配偶者等からの暴力を含め女性に対するあらゆる形態の暴力の発生率,原因及び 結果に関するデータを収集し,調査を実施し,更に包括的な施策やターゲットを絞った介入の基礎としてこれらのデータを活用することを締約国に要請する。委 員会は,次回報告に,統計データ及び実行した措置の結果を盛り込むことを締約国に求める。

33.委員会は,刑法において,性暴力犯罪は被害者が告訴した場合に限り起訴され,依然としてモラルに対する罪と みなされていることを懸念する。委員会はさらに,強姦罪の罰則が依然として軽いこと及び刑法では近親姦及び配偶者強姦が明示的に犯罪として定義されていな いことを引き続き懸念する。

34.委員会は,被害者の告訴を性暴力犯罪の訴追要件とすることを刑法から撤廃すること,身体の安全及び尊厳に関する女性の権利の侵害を含む犯罪として性犯罪を定義すること,強姦罪の罰則を引き上げること及び近親姦を個別の犯罪として規定することを締約国に要請する。

35.委員会は,「児童買春・児童ポルノ禁止法」の改正によって,この法に規定する犯罪の懲役刑の最長期間が延長 されたことなど児童買春に対する法的措置が講じられたことを歓迎する一方,女性や女児への強姦,集団暴行,ストーカー行為,性的暴行などを内容とするわい せつなテレビゲームや漫画の増加に表れている締約国における性暴力の常態化に懸念を有する。委員会は,これらのテレビゲームや漫画が「児童買春・児童ポル ノ禁止法」の児童ポルノの法的定義に該当しないことに懸念をもって留意する。

36.委員会は,女性や女児に対する性暴力を常態化させ促進させるような,女性に対する強姦や性暴力を内容とする テレビゲームや漫画の販売を禁止することを締約国に強く要請する。建設的な対話の中での代表団による口頭の請け合いで示されたように,締約国が児童ポルノ 法の改正にこの問題を取り入れることを勧告する。

37.委員会は,「慰安婦」の状況に対処するために締約国がいくつかの措置を講じたことに留意するが,第二次世界 大戦中に被害者となった「慰安婦」の状況の恒久的な解決策が締約国において見出されていないことを遺憾に思い,学校の教科書からこの問題への言及が削除さ れていることに懸念を表明する。

38.委員会は,締約国が「慰安婦」の状況の恒久的な解決のための方策を見出す努力を早急に行うことへの勧告を改めて表明する。この取組には,被害者への補償,加害者の訴追,及びこれらの犯罪に関する一般国民に対する教育が含まれる。

出典:全文(男女共同参画白書H22年版)http://www.gender.go.jp/whitepaper/h22/zentai/html/shisaku/ss_shiryo_2.html