三成・姫岡・小浜編『歴史を読み替えるージェンダーから見た世界史』大月書店、2014年5月

本書の合評会についてはこちら→公開シンポジウム(合評会) 「歴史を読み替えるージェンダーから見た世界史」(2014年7月27日)

はしがき-『歴史を読み替える』の企画趣旨

◆なぜ,歴史を読み替えねばならないか? 

歴史は,ジェンダー視点から読み替えられなければならない。それは,歴史学のなかの「ジェンダー・バイアス(ジェンダーにもとづく偏り・偏見)」を発見し,歴史学を書き換えるための試みにほかならない。

歴史学は,けっしてジェンダー中立な学問として成立したわけではない。近代科学としての歴史学は,法学や経済学と同様,19世紀ヨーロッパで確立した。当時,学問は男性の領域とみなされ,歴史学の研究対象もまた,国内政治や国際関係,経済活動などのい歴史を読み替える ジェンダーから見た世界史わゆる「公的領域」に限られていた。その結果,政治史(事件史)中心の歴史学では,登場人物はほとんど男性政治家に限られてしまい,「高尚な文化」として選抜された哲学・文学のみで語られる文化史は,政治史以上に男性に偏ったものとなった。他の地域で語られ,書かれてきた歴史もまた,権力を握っていたのが多くは男性であったことを反映して,その社会の主流の男性の目線で,男性の活躍を述べたものがほとんどだった。そして,その影響を受けた歴史教科書や通史には,女性や主流でない男性に関する記述は非常に少ないのである。

いったい,歴史のなかで女性はどこにいったのだろう。セクシャル・マイノリティの人びとや非主流の男性はどこにいったのだろう。彼女ら彼らは何もせず,何も生み出さなかったのであろうか。そうではない。従来の歴史学が,無意味として切り捨ててきたもの,評価に値しないとみなしてきたものをつぶさに検証してみると,そこには豊かな歴史の営みと文化,激しい権力闘争があった。女性と男性の対抗協力関係が,歴史を動かしたこともまれではない。

ジェンダー視点から歴史を読み替えるとは,過去の歴史学の成果を否定するものではない。むしろ,従来の歴史学の成果をいっそう実りあるものにして,歴史の全体像を描くために,ジェンダー視点が不可欠なのである。

◆『歴史を読み替える』の企画趣旨

『歴史を読み替える』全2巻(ジェンダーから見た世界史/ジェンダーから見た日本史)の企画は,2009年12月に開催された日本学術会議公開シンポジウム「歴史教育とジェンダー」を機にスタートした。このシンポジウムでは,確かに日本のジェンダー史研究は大きな発展を遂げているが,それらの成果は,高校や大学の教育現場で十分に活用されていないことが明らかになった(長野ひろ子・姫岡とし子編『歴史教育とジェンダー』青弓社,2010年)。その過程で,わたしたちは,政治史中心の歴史を学んできた人に,ジェンダー史の成果をわかりやすく解説するテキストが不在であることを痛感したのである。

このため,わたしたちは「比較ジェンダー史研究会」(科学研究費(B)「歴史教育におけるジェンダー視点の導入に関する比較研究と教材の収集及び体系化」2012~2014年度)を結成して共同研究を進めてきた。本書は,その成果の一部である。

本書の刊行にあたり,多くの方々に執筆のご協力をいただいた。いずれも,日本を代表するジェンダー史に造詣の深い研究者の方々である。心より感謝申し上げたい。本書では,史料や年表などの情報を掲載して読者に便宜をはかるようにしたが,割り付けや校正には想像以上の時間と苦労を要した。それらはすべて大月書店編集部の角田三佳さんのご尽力に負う。編集の最終責任はもとよりわれわれ編者一同にあるが,彼女の綿密なチェックがあったからこそ,本書は無事完成したといえる。角田さんにも心から感謝申し上げたい。

なお,本書刊行にあわせて,「比較ジェンダー史研究会」のHPを用意した(http://ch-gender.jp/wp/)。本書に盛りこむことができなかった史料・資料や図版のほか,研究会の成果などを提供している。随時更新しているので,本書とあわせて利用していただきたい。
本書は,歴史教育におけるジェンダー主流化の一里塚である。本来なら,ジェンダー視点から,時代区分や地域区分の見直しを含めて,歴史学の構想自体の読み替えをも提案すべきであろうが,残念ながら,現時点ではそこまでは到達していない。しかし,高等学校の歴史教科書のほぼ全域をカバーする本書は,類書をみないジェンダー史の概説書である。高校や大学の歴史教育の場で活用されるだけでなく,歴史好きな多くの方々が気軽な読み物として手にとってくれることを期待している。

2014年5月

編者一同
世界史 三成美保・姫岡とし子・小浜正子
日本史 久留島典子・長野ひろ子・長志珠絵