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【総論3】アジアの家父長制(小浜正子)

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アジアの家父長制

(執筆:小浜正子/参考:『読み替える(世界史篇)』2014年)

◆皇帝・国王権力と家父長制

近代に国民主権の共和政体が成立する以前,ほとんどの国は皇帝や国王が統治する世襲王朝の政治体制であった。支配者の地位が特定の家に世襲される家産制の国家では,国家の統治機能と家産の管理機能が融合しており,その国家のあり方は,当該社会における家族のあり方に大きく規定される。それゆえ当該社会の家族構造の理解は,前近代国家の政治体制と権力構造の理解にも不可欠である。多くの世襲王朝をもつ社会は,年長の男性が支配する家父長制(partriarchalism)の家族形態で,また男性が権力をもつ家父長制(partriarchy)でもあり,二重の意味での家父長制の社会であった。

◆多様な家族の類型

家族のあり方は,各地域の文明によってさまざまなパターンがある。血統観念は父系的な社会,母系的な社会,双系的な社会といろいろであるし,結婚形態も,一夫一妻,一夫多妻,一妻多夫などがあり,その具体像も通い婚,嫁入り婚,婿取り婚などバラエティに富んでいる。家長の権限も,古代ローマのように家族員の生殺与奪権をもつ強いものである場合も,国家や共同体による規制や干渉を受ける江戸時代の日本のような場合もある。古い時期の史料が存在せず,王家にかかわる伝承のみが伝わる社会も少なくないが,その場合は,逆に王権のあり方からその社会と家族の形態を類推することになる。
地域ごとの家族形態はそれぞれ「型」をもったかなり安定的なものだが,長期的には変化する。そのさい,政治的な集権化や他の先進文明の影響のもとで,父系的,あるいは父権的な要因が強まる例は,歴史上,少なくない。

◆日本の家族の歴史的変化

われわれが暮らしている現代日本社会の家族とジェンダー構造は,さまざまな要因の影響を受けながら歴史的に形成されたものである。原始日本社会の母系的・双系的な家族構造は,古代国家形成のさいに中国の法を取り入れながら制度化され,中世には父系の家父長制が成立した。近世には朱子学の影響をも受けつつ日本独特の「家イエ」の構造をつくりあげた。明治維新後,「家イエ」制度は大日本帝国の末端構造として再編強化され,第二次世界大戦後には近代的なジェンダー秩序を基本とした新たなシステムに転換した。日本の家族構造は,前近代には中国の儒教的家族,明治以降には西洋の近代家族の理念の影響を受けつつ変化してきた。

◆伝統中国の家族理念と現実の家族像 

中国の漢族社会では,朱子学的なジェンダー秩序にもとづいた家族像が,宋代から清代までのほぼ1000年にわたって正統とされてきた。高い安定性をもっていた伝統中国社会の家族理念は,強い父系血統主義である。父系の祖先を同じくする人びとは共通の姓をもつ同族とみなされた。姓はアイデンティティの中核とされる父系血統を表すもので一生変わることはなく,女性は結婚後も父の姓で呼ばれる(日本人の姓がどのイエに属すかを表し,結婚や養子縁組などによって変わるのとは異なっている)。
婚姻は一夫一妻多妾制の嫁入り婚である。父系血統を基準とした外婚制であり,「同姓不婚」が原則で同族は結婚できない。ただし母系は同族とみなされないので,母方イトコ婚や父方オバの子との結婚はさしつかえなく,しばしば見られた。結婚は親が決定し,「門等戸対」で同格の家から妻を迎えた。妾は妻よりも地位の低い準家族員で,妻妾同居が基本だった。夫が亡くなって妻がその兄弟に嫁ぐレヴィレート婚は礼制上忌き避ひ されるが,亡き妻の姉妹をめとるソロレート婚はしばしば見られた。
家庭内は,子は父に従い,妻は夫に従い,年長者を尊ぶ,尊卑の序によって秩序づけられる。このような男尊女卑の,夫は妻の天であるという儒教的な考えがある一方,男性は陽の気,女性は陰の気を分けもち,世界を構成する二つの根源的存在の一つを担う妻は,夫と対等であるという道教的な認識もあった。とりわけ夫が死亡または不在のとき,妻は夫にかわる権限をもつとされ,しばしば寡婦は家庭内で強い権力をもった。父の財産は,生母が妻か妾かにかかわらず息子の間で均分相続され,娘には嫁ぐときに任意の持参財産が与えられるのみだった。息子がいない場合は,「異姓不養」で婿養子は正統とされなかった(実際は庶民層に多く見られた)。
以上は伝統中国社会で支配層の男性たちを中心に共有されていたあるべき家族像である。現実の家族の姿は,時代や地域,階層によって多様であったし,漢族以外の周辺の民族の多様な家族形態と,相互に影響しあっていた。しかし日本には,書物のなかで語られる朱子学的な中国の家族理念が伝わった。われわれは,さまざまな地域の家族像の理念と現実,その変化の様相を知ることによって,現代社会の家族像を相対化できるだろう。(小浜)

【参考文献】  M. ウェーバー(世良訳)『支配の諸類型』創文社,1970/滋賀秀三『中国家族法の原理』創文社,1964/瀬地山角『東アジアの家父長制―ジェンダーの比較社会学』勁草書房,1996

 

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