【特論5】Ⅰー⑬ オビヴンドゥ人の婚姻儀礼(ナミビア)by Raul Kavita Evambi

2015.03.02掲載 執筆:富永智寿子

Raul Kavita Evambi, translated by Merlin W. Ennis,“The Marriage Customs of the Ovimbundu,” Africa, Vol II,no.3, 1938

[ 翻訳者ノート*:オビヴンドゥ人はベングェラ平原に住んでいる。彼らはウブンドゥ語(Umbundu)を話し、この言語は300マイル×350マイル四方の地域で話されている。オビヴンドゥ人はいくつかの政治集団(political divisions)に分かれており、たとえばBailundos, Biheans, Cacondasといった名前で記されている。昔の書物ではVa Nano, Highlandersと記されている場合もある。本稿の内容は一切変更していないが、翻訳はきわめて難しく、一部は意訳している。英語に訳す時、語句を補ったり、繰り返しを削除したりした。その他の部分は、意味を捻じ曲げない程度に逐語訳をした。全体として、内容自体はきわめて明瞭に書かれているので、コメントの必要ない]

 *この翻訳者はEnnisを指す。以下の翻訳中の[訳注]は、日本語訳をしている富永の注。日本語訳の際でもかなり意味の取りにくい部分があり、文脈から判断して意訳した部分があることをお断りしておきたい。   

*[富永コメント]ここでは、まず、若い男女がお互いに見染め合うことから結婚への道程がスタートする。その後、「試し婚」(日本の「足入れ婚」の簡略版)を経て、長老の許可がでると、女性側との交渉が始まる。こうしたことから、この民族では、結婚は当人同士の意思決定が重視されつつ、集団の長老や親族・両親を巻き込んだ共同体のイベントであったことがわかる。随所に女性の意思を確認する儀礼的な仕掛(その都度物品が支払われる。これはマサイの結婚式も同じ)が埋め込まれているのも注目すべき点であろう。なお、銃弾薬が結婚のプロセスでやりとりされていることや、東アフリカではほとんど登場しない豚が主役を演じているのも、注目される。ここではいわゆる「婚資」のやりとりはないようである。

【本文】

同じ村、もしくは同じ村のdivisionsの若い男女が恥らいながらお互いに見つめ合う(訳注:divisionsが結婚に際しての相手選びとどのように関連しているかは不明)。若者が少女を見初め、少女も若者に一目惚れする。ある日、若者は男性用の客間(onjango)で仲間の若者に打ち明ける。「00の娘に参っている。2~3日後に試し婚(trial marriage)を申し込もうと思うのだが、どうかな?」仲間は答える。「そうだな、先輩。そんなことを尋ねるなんてナンセンスだよ。お互いを避けているんだから、君たちふたりの間には何かあると思うよ。邪魔するものはないんだから、こちらとしては大丈夫だ。先輩!」

 午後遅く、若者は仲間にたのむ。「先輩、00の娘を訪ねたいんだけど、一緒にきてくれないか。」彼らは一緒に娘の両親のところに行って話をし、娘が自分と結婚することに同意してくれるかどうか尋ねる。すると両親は娘がいる台所に行って、手を打って、「入っておいで」と若者たちに呼びかける。椅子を持ってくると、若者はそれに座る。両親は若者にKalungi(複数の人に呼びかける挨拶)と挨拶をする。若者はMbaweと応える。その後、娘の母親は、ふたりがすでに試し婚のために付き合っていることを知ってはいるのだが、「お前たちはただ夕べの挨拶のためにやってきたの?」、と一応訪問の目的を尋ねる。「そうなんです、ただ挨拶のために来たのではないんです。私の友人が好きになったあなたの娘がわれわれをここに導いてくれたんです。だからそのことについてお母さんと娘さんとでこの問題を話し合い、あなたの娘と私の友人とがいい仲になれればと思っているのです。」すると母親は、「お父さん、そういうことだそうですよ。では娘とあなたの友だちとの間で話を決めるの?どうやって?」すると若者は、「お母さん、いえいえ、今日はそのことをお伝えしにきただけなのです」と答える。彼に惹かれている娘は、台所から出て自分のパイプでたばこを吸う、というのは直接返事をするのは恥ずかしいと思うだろうから。すると母親はこう答える。「私は了解ですよ、わたしが了解すれば父親も了解するでしょう。」その後、少女の母親は外にいる娘を呼びに行ってこう言う。「入って友だちと話をしなさい。」娘は、「私はもう家にははいりません」と言う。このようにして彼女が了解したことがわかる。もし娘が彼を嫌いだとしたら、彼らが母親と話をしている間も家に中に居続ける。その日は、これで若者は引き上げる。

翌日の夕方、若者は少女を連れてくるためメッセンジャーを派遣する。すでに話はついているので、少女はメッセンジャーと一緒にやってくる。メッセンジャーは少女を若者の家に置いてゆく。そこに、若者が帰ってくる。若者は少女にKalungaと挨拶する。少女もKaと返事をする。若者は男性用の客間に引っ込む。もし若者が友人を彼女に会わせても、彼女は恥じらって挨拶をしない。ベッドインの時間になると、若者はすでに娘がベッドに入っていることに気づく。彼らは共にそうやって朝までベッドで過ごす。夜が明けると娘は家に帰る。このようにして2~3日、彼らは一緒に寝る。お互いに愛し合っていることがわかると、若者は娘を愛していることを伝え、婚約して結婚しようと申し出る。試し婚に合意した娘も、これに同意する。若者は言う。「私はあなたと結婚したい」。その後で若者は娘に布を一枚贈る。ヤシ酒のボトル一本を贈ることもある。

若者は長老に報告する。「娘が結婚に同意したので婚約したい」と。長老は答える。「よろしい。」若者は8ヤードの布を長老に渡し、長老はその布を娘と父親のもとに運んで言う。「あなたの娘との婚約を取り決めるために来ました」と。それに対して、「お互いに愛し合っているのだから、反対する理由はない」と父親側は答える。

 その後、次のように事が進む。試し婚を済ませ婚約したあと、ふたりの関係に飽きが来たりギスギスしたりしないように、ふたりは一緒に寝ることはない。他の若者が婚約した娘と付き合うことはない。若者は婚資や結婚に必要なものを調達するのに忙しくなる。彼の両親は「籠にいれる豚」のために豚を育てる。おそらくヤシ油以外はすぐに用意される。若者がEseleに行くキャラバンがあると聞けば、ひとりでそこに行って花嫁に塗る油を買ってくる。帰ってくると彼は長老たちに言う。「支度は全部整いました。どう思いますか?」長老たちは答える。「よろしい、全部整っている」と。

 次に若者がすることは、小屋の屋根を新しい草で葺き、家の内部に漆喰を塗ることだ。花嫁を迎えに行く日、花婿は、手に入れた布と火薬の薬包(cartridge of powder)を小道の分岐点や床、あるいは小川や橋に配る。男性用の客間で花婿の介添人に付き添う少年と、結婚式用の籠を運ぶ少女が選ばれる。ハンカチに包まれたひょうたん入りのビールがその籠の中に置かれる。そこには布とラム酒のビンも入れられる。少年は銃と火薬の薬包(powder cartridge)の入った箱を運ぶ。花婿の介添人はステッキと投げ棒(knobkerry)もしくは棒だけを運ぶ。彼らが娘の住む村のdivision、もしくは村にやってくると、男性用の客間に座る。そこにビールが供され、それを飲む。

 彼らが飲み終わると、花婿が次のような正式の挨拶をする。「この村には、温まったり逃げたり隠れたりする私たちの家はありません。明るかった道は今暗くなりました。これ以上暗くなりませんように。そうすれば、彼女はやってくる人の顔を見分けることができます。」彼らは義理の父親にこう言う。「彼はプッシュバック(訳注:カモシカの一種)ではありません。もう議論することはないですね。ここにやってはきましたが、もう言うことはありません。私自身のためにやってきていて、私の女性のためにやってきていないとお考えですか?私の願いを聞いてください。」

 女性の父親の上司がそれに答えて、Kalungaと挨拶を返し、それから花婿が述べたすべてのことを要約する。その後、正式の陳述を彼ら自身のために行う。男性用の客間で客の正式な陳述に対する正式な返答を終えると、彼らはその後の段取りについて重要なことを尋ねる。花嫁の叔母たちは男性用の客間の外で、聞き耳を立てて注意深く聞いている。

 その後、花婿は結婚式用の籠の蓋を開け、布かラム酒のビンを取り出して手渡す。ラム酒の場合は飲み、布の場合は2つに引き裂く。それが終わると花嫁の叔母たちが娘に注意を与え、これから自分の家に行き、大盤振る舞いをし、人びとを敬うよう指示する。親であるわれわれが非難されないように・・・。これが終わると、彼らは付添人(Navaleka)と花嫁とともに祝宴を共にする女性の友だちを選ぶ。その後、結婚用の籠を運ぶ少年と銃と薬包の箱を運ぶ少年が立ち上がる。ハンカチで覆われたひょうたん入りビールがそのバスケットに入れられる。すると全員が立ち上がり、花嫁行列が始まる。婚姻儀礼は以下のように進む。

1.村の門まで来ると花嫁側は薬包(cartridge)を要求する。薬包をくれないなら、門からでない、と。花婿側は薬包を渡し、門の外へ出る。

2.分かれ道にくると、立ち止まってこう言う。話はしないの?すると花婿はまた薬包を与える。

3.川までくると、また止まってこういう。何かもらわなければ川は渡らない。すると花婿はステッキを折ってこういう、Avoyo(なんてこった!)。もう籠には何もない。だから、これはナンセンスだ。

4.墓のところにくると立ち止まってこう言う。ここは神聖な場所なので、今日はここを通過できない。すると、花婿は薬包を差し出す。こうやって全行程を終える。その道程が長かろうと、短かろうと、あまりにたくさん与えないようにするのがポイントとなる。

5.男性の村の門に達すると、ここを通過させるために、また薬包を与える。

6.家に到着すると、彼らはまた薬包を与え、腰を下ろす。彼らが座ると、花嫁が皿の中にヤシ油を注ぐ。すると彼らはその油で、これは花嫁を浄化するためと言いながら、花嫁足や腕に塗る。花嫁と一緒にやってきた者たちにも塗る。頭にも塗る。付添人にも塗る。彼らと一緒にやってきた花婿にも塗る。これが終わると、花嫁のところにやってきて挨拶してもよいとのお触れが出て、大勢の人びとがやってくる。女性たちは贈り物を男たちはお金を持ってやってくる。自分が1番素敵だと思うものを持ってやってくる。花嫁と一緒にいる人びとが品定めをする。あれは良い、それはだめ・・・。薬包を受け取らないうちは、ビールを口にしない。ベッドに行くためには物をもらわねばならない。食べる度に贈り物を受け取る。結婚式の日は一日中、若者たちは嘲ったり、儀礼違反をしては罰金を支払ったりして過ごす。たとえば、付添人に話しかけなかったり、挨拶しそこねたりすると、マナー違反で罰金を課せられる。

7.花嫁がひとりで外に出ていこうとする時、それに気づいた人が彼女を連れ戻すと、その人は褒美として何かを貰える。花嫁が中に居る人たちのことを笑うと、花嫁は罰金を払わされることになるが、そうした時に誰かに花嫁を救い出させる。その時、金品が支払われる。

8.油の入った皿を家の中に置き、正式に結婚している人はだれでもその皿から油を取ってよいのだが、その資格のない人が油をとった場合には、恥知らずだと言われる。

9.最初の日は、お金を払って食事の味見をする程度だが、結婚式の全行程を通して、花嫁は何も口にしない。鶏のレバーをなめることはあるが、せいぜいビールを飲むくらいである。何かを食べると、花嫁はブッシュに行く羽目になり、恥をかかせられる。花嫁たちは3~4日間、家にとどまり、楽しく過ごす。

10. 供される食べ物は、自分たちでは食べず、近隣に配られる。その一部は、銃や結婚用の籠を運んだ少年たちがたむろする男性用の客間にも運ばれる。そうしない場合には、ルール違反で罰則(etevo)が課せられる。この期間、彼らは油をたっぷり身体に塗る。衣類はびしょびしょになるほどだ。タバコも大量に消費される。老若男女を問わず、欲しければふんだんに与えられる。

11. 5日目、花嫁の髪が結われる。その後すぐに、花嫁の村に運ばれる豚が屠殺される。この豚は花婿の母親が育てた豚である。

12. 花婿の友人たちが、調理した豚肉や鶏肉を持ってくる。花嫁側は肉を食べない。しかし誰かが肉に唾をつけておき、帰る時に持ち去る。結婚式は本当に聖なる儀式だったと言って、賞賛する。

13. 6日目の朝、夜明けに、花嫁に朝食が運ばれる。同時に鶏肉や豚肉も運ばれる。ひょうたん入りのビールや、酸っぱいビールや、強いビールも運ばれる。食事が終わると花嫁側は、このビールを飲む。

14. 食事と飲酒が終わると、花嫁側は豚肉と一緒に、その他の肉やプレゼントを籠に詰め込む。花嫁の友だちからのプレゼントも籠に入れられる。

15. 花嫁を引き受けに行った花婿の介添人は布を持ってきて、それを引き裂いて花嫁とともにやってきた人びとや介添人(Naveleka)に配る。

16. 彼女たち介添人(Naveleka)に5~6ヤードの布を、その次の重要人物には3~4ヤードの布を、その他の人びとには1~2ヤードの布を渡す。銃を運んだ少年には2ヤードを渡す。籠の中には既婚婦人が身に付ける飾り帯のための4ヤードの布と椰子油のビンが入っている。花婿側は大喜び。花嫁側が花婿の家から出ると、花婿の両親も家から出て、花嫁の幸運を祈る。義理の姉妹、もしくは若い叔母が豚と籠を持ち、家路に就く。もし大きい豚の場合、若者に運ばせる。花嫁と花婿が同じ村の出身であっても、このプロセスは同じである。

17. 女性たち一行が村に到着すると、結婚式から帰ってきたことを喜ぶ。村に入ると、籠と豚肉を下ろす。花嫁の両親は籠の中身を検め、布や椰子油や既婚婦人用の飾り布を確認する。

18. 籠の中味の点検を行う。ひとつは布。もし布の真ん中に穴が開いていると、娘はあまり喜んでいない。もし椰子油かラム酒のビンが満杯でない場合も娘はあまり喜んでいない。全部が完璧だと両親は大喜びする。豚も点検する。もし肉が裂けていると、娘は幸せではない。もし、豚肉と一緒に食事がついていない場合も同様である。

19. その日、彼らは夜明けまで寝る。その後、豚肉を切り分け、それを男性用の客間や、主だった家や王(king)に届ける。その日、花嫁は畑に行きトウモロコシを取ってくる。村に帰るとトウモロコシの皮をむく。幼い妹たちが手伝う。それからトウモロコシを一晩水に浸す。翌日、石で粉にする。その夜、花嫁は結婚の仕上げのために妹たちを招く。朝になって、彼女たちは豚肉と食べ物の入った籠を持って出かける。到着すると、彼女たちは結婚式を行った家に入り、食べ物入りの籠を下ろすと、ドアの反対側の部屋の壁際に豚肉を置く。その午後、彼女たちは豚肉を切り分け、豚や鶏を調理してくれた人びとや男性用の客間や家にいる人びとに配る。人びとは口々に「あなたは男、結婚したんだよ、ごらん、あなたの豚を食べたから、結婚は完了したんだよ」。

20.  2ヶ月が過ぎて、3ヶ月目に入ると、娘は再び村に行き、もう1頭豚を持ってくる。その豚は「皿を洗う豚」とか「記憶のための豚」と呼ばれる。これは、「雄牛がやってきたところがあなたが記憶する場所である」ということわざ的な言い回しなのである。そのために、娘は自分の村から2頭目の豚を持ってくるのだ。というのは、娘はすでに結婚しているのだが、まだ自分の家庭を持っているわけではなく、ただ義理の母親もしくは叔母の元に仮住まいしているからである。この状態が一年間続く。彼女の畑の穀物が実ると、「やっと自分の食べ物を手に入れた」と言い、皆が彼女が自分の家庭を築く手伝いをする。夫は鶏か小さな豚を調理し、長老の妻たちや、自分の叔母たちを招待する。彼らは石を3つ持ってやってくる。女性たちは薪を取ってくる。家に入って、家の真ん中か壁際に石を置く。その後、火がつけられる。火が燃えると、鶏を殺して調理する。鶏の調理が終わると、鍋でトウモロコシの粥を調理する。両方の調理が終わると、火からおろして、皆で食べる。食べ終わると女性たちは「今日、花嫁は自分の家を所有した」と言う。その後、調理した食事が男性用の客間に運ばれる。というのは、この期間、花嫁は義理の母と一緒に料理はしているが、夫と一緒に食べることはしないからである。食事は他の者の責任であって、花嫁の責任ではないのだ。しかし、今、夫の食事の責任は花嫁の責任となる。花嫁は、「この子はあなたの子供」と言って手伝いの子供を与えられる。こうした子供はたいてい、夫の末の弟か妹である。

21. 最初の子供が2~3ヶ月になると、妻の母親は「子供を連れて来なさい」と娘に伝える。娘は母親のところに行く。母親は食事を用意して待っている。娘は一晩泊まっていく。夕方、豚が殺される。その豚は「子供の祝い」と呼ばれる。夜が明けると、娘は夫のところに豚を運ぶ。村の人びとは「嫁が“子供の祝い”を持ってきた」と言う。彼女の夫は豚を切り分け、村人に配る。                (富永智津子訳)