【ジェンダー法学2-②】ポジティブ・アクション(各国の取り組み)

2015.01.16掲載 執筆:三成美保
関連⇒*【ジェンダー法学2-①】ポジティブ・アクション(三成美保)
*【女性】「女性活躍」策とその背景ー経済的効果(三成美保)

(1)フランス

  • ①憲法改正(2008年)による文言追加
    • 第1条 職業上および社会的要職に対する男女の平等なアクセスを促進する。
  • ②パリテ法(公職における男女平等参画促進法:2000年)
    • a)比例代表制選挙(1回投票:上院議員選挙等):候補者名簿の順位を男女交互にする。
      • ※2001年9月上院議員選挙の女性議員比率:6.9%→21.6%
    • b)比例代表制選挙(2回投票:人口3,500人以上の市町村議会議員選挙等):名簿搭載順6人ごとに男女同数とする。
      • ※2001年3月市町村議会選挙の女性議員比率25.7%→ 47.5%
    • c)小選挙区制選挙(下院議員選挙等):候補者数の男女差が2%を超えた政党・政治団体への公的助成金を減額する
      • ※10.9%(パリテ法前)→12.3%(2002年6月選挙)→18.9%(2007年6月選挙)
  • ③男女給与平等法(2006年):私企業の取締役会等にも20%クォータ制を導入する。

スライド4

(2)ドイツ

  • 1994年ドイツ基本法改正(3条2項2文の追加)
    • 第3条 ①すべての人は、法の前に平等である。
      ②男女は、同権である。国家は、男女の同権が実際に実現するよう促進し、存在する不平等の除去に向けて努力する。
      ③何人も、その性別、門地、人種、言語、出身地及び血統、信仰又は宗教的もしくは政治的意見のために、差別され、または優遇されてはならない。

スライド6(3)イギリス

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(4)ノルウェー

スライド3(5)EUの動向

1995年カランケ事件

(浅倉[2000]・大藤[2004]in辻村[2004])

  • 1990年ブレーメン公職男女平等取扱法
    「女性の数が過少[50%以下]である領域で、男女が同一資格である場合[家族的労働・社会的活動・不払労働によって得られた経験や能力も一種の資格として考慮する]には、女性を優先する」
  • 管理職ポストの公募
    カランケ(原告男性)とグリスマン(同僚女性が最終選考にのこる。
    グリスマンが優先処遇をうけて管理職につく。
  • ドイツ連邦労働裁判所の判断
    国内法には反しない。ただし、EU法(1976年EU均等待遇指令)に抵触するかどうかの判断をもとめて欧州司法裁判所に付託。

1976年 EU均等待遇指令2条4項

  • 「本指令は、…女性の機会に影響を与える不平等の存在を除去することによって、男女の機会均等を推進する措置をとることを妨げるものではない」
  • 「指令2条4項は、表面的には差別であるようにみえるが、社会に現に存在する不平等を廃止し撤廃することを目的とする手段を、例外的に許容するために規定されている」のであり、これは、「労働市場において男性と同じ立場からキャリアを遂行する女性の能力を促進するという観点から、女性に利益を与えるような昇進を含む雇用へのアクセスについて、国がとる措置を許容する」
  • しかし、指令2条4項は厳格に解釈されるべきである。
  • 「女性に、完全かつ無条件に昇進や任命への優先的取扱いを保障する法原則は、『平等な機会の促進』という2条4項の定めるところを超えるものであり」、法の限度を逸脱する。
  • 「指令2条1項及び4項は、昇進に応募した異なる性別の候補者が同じ資格である場合、女性が少ない部門において自動的に女性に優先権を与えるという本件のような国内ルールを排除する」
  • ※欧州司法裁判所法務官ティソーラの法廷意見
    指令2条4項は「到達点の平等」(「結果の平等」)をめざすものではなく、「出発点の平等」(機会均等)を阻害する障害を除去すべきもの。本件では出発点の平等は実現されており、「結果の平等」をめざすこととなる結果、指令違反である。 (浅倉[2000]329f.)

 

ノルトライン・ヴェストファーレン州公務員法

  • 「公務部門の昇進に関して、…女性が男性よりも少ない場合には、…男女の(昇進)候補者が、適格性、競争上の地位、職業上の業績において同一であるときには、女性候補者に優先権が与えられる。但し、男性候補者が、とくに自らに優位な理由を示すことができる場合には、この限りではない」
  • 判決
    カランケ事件では、「自動的」な女性優遇(完全かつ無条件な優遇)であったので指令違反。
    マルシャル事件では、留保規定が存在する(女性優先を覆す機会を男性に付与)ので指令違反ではない。
  • 141条4項
  • 「職業生活において、現実に男女間の完全な平等を確保することを目的として、平等待遇原則は、進出度の低い性に属する者が職業活動を遂行し、または職業経歴の不利益を防止もしくは補償しやすくするために、構成国が特定の優遇措置を維持ないしは採択することを一切妨げるものではない」→優遇措置の奨励規定

2000年欧州基本権憲章23条2項

  • 「平等原則は、進出度の低い性に対する特定の優遇措置を維持ないしは採択することを妨げない」