【書評】石原あえか著『ドクトルたちの奮闘記:ゲーテが導く日独医学交流』(評者:小川眞里子)

【書評】石原あえか著『ドクトルたちの奮闘記:ゲーテが導く日独医学交流』(慶應義塾大学出版会 2012年 280頁 ISBN 978-4766419504 2,520円)
書評者:小川 眞里子(初出:『ジェンダー研究』(お茶の水女子大学)第16号、2013年)

内容から(一部紹介)

ドクトルたちの奮闘記: ゲーテが導く日独医学交流本書はとくに女性医師を扱うことを意図した書籍ではないし、ましてそれをジェンダーやフェミニズ
ムの視点から扱うことを意図したものでもない。著者はゲーテ研究を中心に日本をリードする中堅の研
究者であり、本書は著者の言葉を借りれば「ゲーテを導きの糸として」、18世紀から19世紀にかけて活
躍した日本とドイツの医師を扱った書物である。そしてその意味で十分な名著である。著者の文章の美
しさや楽しさ、調査の徹底ぶりは、いずれもすでに定評ある著者の力量を示すものである。それにもか
かわらず、敢えて本書をジェンダー研究センターの紀要で紹介したいと考えた理由は、著者が掘り起こ
した女性医師が「只者ではない」からである。そして彼女たち尋常ならざる女性が巡り会う社会的状況
も興味深いからである。

本書の第4 章と第5 章でそれぞれ紹介される「只者ではない」女性医師は、高橋瑞子(1852-1927)
と宇良田唯(1873-1936)である。これまでにも彼女たちに関する先行研究はいくつかあり、著者もそ
れらを参照している。しかし、専門的な医学雑誌であったりして入手困難なものも少なくない。新しい
単行本としては西條敏美著『理系の扉を開いた日本の女性たち』(新泉社 2009年)が、ちょうどこの
二人の女医も取り上げているので、二つの著作の比較を挟みながらそちらも紹介しよう。二人の著述の
一番大きな違いは、ドイツにおける高橋と宇良田の事績の有無である。それは著者石原の本領であるド
イツの資料精査をまって初めて明らかにされたことである。本書の価値はそうした新たな資料に基づく
勇気ある新しい女性医師像の提示にあることは間違いないが、さらに加えて女性医師を育てた彼女たち
の周囲の男性医師や男性研究者の著述もジェンダー的視点から見て興味深い。第4 章と第5 章に先立つ
第3 章は長井長義に当てられており、彼の「ライフワークとしての女性研究者育成」をテーマにしてい
るのである。先に述べた尋常ならざる女性に共通する社会的状況とは、具体的には彼女たちを押し上げ
てくれた男性医師や男性研究者の存在である。本書では長井の他に、佐藤進(軍医・順天堂医院長)や
北里柴三郎が取り上げられている。・・・(以下は、下記のPDFでご覧ください)

→全文はPDF(G研究16号書評(小川)

(掲載:2014.06.21)