【紹介(自著)】三成美保・笹沼朋子・立石直子・谷田川知恵『ジェンダー法学入門(第2版)』法律文化社、2015年

掲載:2015.08.22 執筆:三成美保

本書の補遺・参考記事については→*ジェンダー法学

○第2版:商品の詳細はしがき

2011年に刊行された本書(初版)は、たいへんご好評をいただいた。それから4年がたち、国際社会でも日本でもいくつかの変化があった。国際社会では、LGBTIに関する国連人権理事会決議(2011、2014年)がなされる一方、過激化するテロ活動のなかで「女性に対する暴力」も熾烈になっている。国内では、DV防止法改正(2013年)のほか、婚外子相続差別最高裁決定(2013年)、トランスジェンダーFTMの父性に関する最高裁判決(2013年)、マタニティ・ハラスメントに関する最高裁判決(2014年)など、家族法・労働法に関する重要な判例が出された。
改訂版では、このような法や判例、社会変化を反映して、本文やコラムを一部改め、資料部分では最新のデータを反映するようにつとめた。また、初版とは章構成を一部変更して、「より使いやすく」「よりわかりやすい」教科書になるよう工夫した。
初版と大きく異なるのは、部・章の構成である。「第Ⅰ部ようこそジェンダー法学へ」には、序論として「1ジェンダー法学の基礎知識」を収めた。「第Ⅱ部ジェンダー主流化に向けて」は、比較(国際的動向)と歴史(人権)の項目を含む。「第Ⅲ部身体と性」は、暴力、セクシュアル・ハラスメント、性的自己決定権、買売春、リプロダクティブ・ヘルス・ライツを扱う。「第Ⅳ部親密圏」は家族法に関する箇所であり、夫婦、親子、生殖補助医療、親密関係の暴力を論じる。「第Ⅴ部労働」は労働法に関して、過労死、均等法、ワーク・ライフ・バランス、ケア労働などを扱っている。各章のなかの項目の配置や順序も再検討し、いくつかを変更した。また、「2-5持続可能社会とケア」など新規に挿入した項目もある。
改訂版の作成にあたっては、執筆者4名で議論を重ねた。その成果が十分に反映された書物になったと自負している。また、法律文化社の野田三納子氏には初版に引き続き、たいへんなご苦労をおかけした。本書は図版等が多いうえ、各種資料が盛り込まれているため、版組にはたいへんな手間と時間がかかる。これらの困難な作業をひきうけてくださり、最新データの確認にもご協力いただいた野田さんにこころから感謝したい。
ジェンダー法学会は2012年に創立10周年を迎え、ジェンダー法学はますます発展・成熟している。本書(第2版)にはそれらの成果をできるだけわかりやすく反映したつもりである。読者のみなさんにとって、本書(第2版)がより使いやすくなっていることを期待したい。(M=三成美保)
2015年2月

目次はこちら→ https://www.hou-bun.com/15mokuji/03677-3_mk.pdf

○第1版:はしがき

ジェンダー法学の入門書としては、すでにすぐれたものがいくつか公刊されている(巻末参考文献参照)。本書は、それらの先行教科書を参考にしつつもいっそう平易な入門書をめざして、大学でジェンダー法学及び関連科目を担当する4人によって執筆された。
われわれ執筆者が講義経験から重視したのは、何よりも「使いやすさ」と「わかりやすさ」である。本書一冊で基本事項を理解できるよう、関連条文・重要判例・最新データ・比較資料を盛り込んだ。大学法学部専門科目としてはもちろん、法学部生以外の教養科目としても使い勝手はよいであろう。また、コラムや用語解説、イラストを随所に配し、ジェンダー法学を学ぶ機会のない一般読者にとっても、読み物として楽しめるように工夫した。
「使いやすさ」と「わかりやすさ」を求めて、本書は、内容と執筆スタイルにいくつかの特徴をもたせている。
(1)本書は、Ⅰ「ようこそジェンダー法学へ」、Ⅱ「身体と性」、Ⅲ「親密圏」、Ⅳ「労働」、Ⅴ「ジェンダー主流化に向けて」の5部構成をとる。Ⅲはおもに家族法、Ⅳはおもに労働法の内容を含むが、それに限定されるものではない。法領域ごとの部構成をするのではなく、ジェンダー法学の学際的性格を反映した部構成とし、各部に多様な内容を盛り込むようにした。
(2)大学での半期講義(全15回)を想定し、予備の1講を加えて全16講とした。Ⅱ~Ⅳ部には、それぞれ4~5講を配している。目次にしたがって読み進めてもよいし、関心があるトピックを重点的に学習することもできる。
(3)各講は、原則として8項目構成とした。この8項目は、「1概説、2~6キーワード、7比較、8判例」を基本ユニットとしている。ジェンダーが女性にも男性にも関わるという視点から、各講にできるだけ「男性」に関わる項目も入れた。
(4)各項目は、見開き2頁をそれぞれの単位として、一目で内容を把握できるようにした。原則として、左頁に本文、右頁に資料・コラム・図表を配している。
(5)読みやすさを重視して、本書はコラムと図表を多用している。図表データはできるだけ新しいものを取り入れるよう努力した。
本書の出版にあたっては、法律文化社の秋山泰社長と編集部の野田三納子氏にたいへんお世話になった。本書が、ささやかでもジェンダー法学の啓蒙的役割を果たすことができれば幸いである。(三成)2011年3月