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(補論)アフリカ諸国の独立と家族法(富永智津子)

補論:アフリカ諸国の独立と家族法

掲載 2018-06-16 執筆 富永智津子

★憲法と家族法 

ここでは、結婚、相続、そして離婚というジェンダー秩序の確心部分に係る家族法に限ってみてゆくことにする。多くのアフリカ諸国は、独立に際しては新たに憲法を制定し、家族法(「民法」)に関しては、植民地時代に導入された制定法(「植民地法」)を引き継いだ。独立後に制定され、国連の女性差別撤廃条約を批准するなど、国際的基準にのっとった形式が整えられている憲法に対し、植民地時代から引き継いだ家族法は、家父長的権利を擁護する植民地時代の価値観を残しており、憲法との齟齬が多々見られる。アフリカ各国は、鋭意、家族法の改訂を試みているが、その足を引っ張っているのが慣習法である。慣習法は文字に記されているわけではなく、長老によって代々継承されてきたため、むしろ、人びとの生活全般に深く刻み込まれているからである。

制定法と慣習法 

民族の数だけ慣習法があるアフリカにおいて、慣習法を廃止し、制定法に切り替える試みは、ごく少数の国で行われているが、実態は一向に変わらない。しかも、アフリカ人自身、とりわけ男性が、西欧的な価値観を家族法に取り入れることに反対しているということもある。慣習法で特に問題となっているのは、妻には動産の所有権はあっても、土地などの不動産の所有権も相続権もない社会が多いことである。この慣習を手放したくない男性は多い。だが、ケニアでは2010年に新憲法を公布し、はじめて男女平等の相続権を明記した。しかし、これによって、直ちに状況が変化することはないが、こうした女性の権利の保証は、植民地下で増加した離婚女性やシングルマザーの家父長権への反乱が、男性優位の慣習法を揺さぶってきた結果だと分析する研究者もいる(小馬徹,2014)。法律が社会を変えるのではなく、人びとの選択や意識の変化が社会やジェンダー構造を変え、それを法律が下支えしていくという展開をここに見ることができる。

結婚と離婚 

結婚と離婚に関しても同様の事が言える。複数の婚姻形態が認められている中、結婚は女性が望む近代法で、しかし離婚は男性に有利な慣習法で・・といった選択する男性がいることが問題となっている。しかし、親族のネットワークの中でしか生きるすべのない女性にとっては、共同体的な保護はまだ必要である。子供も同様に、拡大家族の間を頻繁に移動させながら育てる社会は多い。それが、ストリートチルドレンの出現を抑えてきた。そうした中、一挙に慣習法を廃止した国がある。ブルキナファソである(Article 1066, Persons and Family Code)。そこでは、夫婦の権利の平等性、個人の自由の尊重、拡大家族の介入の排除などが規定されている。実際には、慣習法とのバランスをとりながらの運用によって、徐々に法の浸透を図っているのが実態である。ブルキナファソほどラディカルではないものの、タンザニアでは、2年以上の同棲実績のある場合には結婚と認めるという規定が1971年の改正婚姻法に定められた。これは、婚姻関係における女性の弱い立場を補強する意味があり、実態に則して法改正を行った事例である(The Law of Marriage Act,1971,Part 8:160)。

今後の展望 

制定法にも慣習法(イスラーム法を含む)にもジェンダー視点からすると、それぞれ問題があり、それぞれに利点がある。しかし、比較すると、多くの問題を抱えているのは慣習法であることは、ガーナ大学のアフリカ人女性法律家も認めている。慣習法を成文化する試みがなされた時、複数の民族が共存している国では実際には不可能である以上に、成文化されることによる固定化を恐れた女性たちが反対したという事実は、この女性法律家の見解が正しいことを証明している。ただし、成文化されていないための裁判官の恣意的なさじ加減が介入するという不具合も指摘されている。いずれにせよ、これらを調整しながら、民法を女性の権利を守る方向で整理する模索はアフリカ各国ですでに始まっている。しかし、新たなジェンダー秩序の構築がともなわない性急な一本化が、かえって混乱を生みだすことは、歴史が証明しているとおりである。というのは、いつの時代、どの地域においても、長い間維持され存続してきたジェンダー秩序はそれなりの安定的な生活を女性に保証してきており、新しいジェンダー秩序への移行にともなう一時的な不安定化の時期をどのように乗り越えるかは、リスクを伴うチャレンジでもあるからだ。それは、アフリカに限らない。日本でも同様のことが、まさに進行しているのである。

参考文献

小馬徹 「ケニア新憲法とキプシギスのシングルマザーの現在」椎野若菜編『境界を生きるシングルたち』東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、2014

世界史Ⅱ

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