ドイツ刑法(性犯罪関連条文和訳)

掲載:2016-11-19  解説:三成美保
資料の出典は法務省資料、解説及び色づけは三成による。
* 下記仮訳は,平成27年1月21日施行の刑法改正を反映した同日現在のものである(下線部は,同改正部分を指す。)。
 

(1)時効

第78条(時効期間)

1 略
2 第211条(謀殺)による重罪は,時効にかからない。
3 次の時効期間が経過したとき,訴追は時効にかかる。
一 無期の自由刑が定められている行為のときは,30年
二 長期において10年を超える自由刑が定められている行為のときは,20年
三 長期において5年を超える10年以下の自由刑が定められている行為のときは,10年
四 長期において1年を超える5年以下の自由刑が定められている行為のときは,5年
五 その他の行為のときは,3年
4 略

第78条a(始期)

時効は,行為が終了すると同時に進行する。構成要件が必要とする結果が,事後に初めて生じたときは,時効は,その時点から進行する。
 

第78条b(時効の停止)

1 時効は
第174条から第174条c,第176条から第179条,第180条第3項,第182条,第225条,第226条a及び第237
条(※)による犯罪行為のときは,被害者が満30歳になるまで停止する。
二 略
(以下,略)
※ 第225条は保護責任者による虐待処罰規定,第226条aは女性器損傷に関する罪,第237条は結婚強要に関する罪。
 

(2)近親間(親子間・兄弟姉妹間など)での性交

第173条(親族との性交)

1 血族である卑属と性交した者は,3年以下の自由刑又は罰金に処する。
2 血族である直系尊属と性交した者は,2年以下の自由刑又は罰金に処する。このことは,親族関係が消滅したときも妥当する。性交した,血族である兄弟姉妹も,同一の刑に処する。
3 卑属及び兄弟姉妹が行為時に18歳に達していなかったときは,この規定によっては罰せられない。
 
【解説】

日本の現行刑法には、「近親間性交(近親姦)」を処罰する規定はない。

2015年に公表された日本の刑法改正案では、18歳未満の者に、父母などがその影響力を使って性的暴行やわいせつ行為をした場合の罰則を新設するべきと諮問された。

(3)セクシュアル・ハラスメント

第174条(保護を委ねられている者に対する性的虐待)

1
一 教育,職業教育若しくは生活上の世話が行為者に委ねられている16歳未満の者に対して
二 教育,職業教育若しくは生活上の世話が行為者に委ねられ,若しくは,職務上若しくは労働上の関係の枠内で部下に当たる18歳未満の者に対して,教育上,職業教育上,世話上,職務上若しくは労働上の関係と結びついた従属性を濫用して,又は
三 行為者の血縁上若しくは法律上の直系卑属,又は,行為者の法律上の配偶者,行為者と内縁関係にある者,若しくは,行為者が共に婚姻関係若しくは内縁関係類似の生活を営んでいる者の直系卑属で,18歳未満の者に対して性的行為を行い,又は,この者に自己に対する性的行為を行わせた者は,3月以上5年以下の自由刑に処する。
2  そのための特定の施設において,18歳未満の者から,教育,職業教育若しくは生活上の世話を委ねられている者で,以下の者は,3月以上5年以下の自由刑に処する。
一 その施設において,教育,職業教育若しくは生活上の世話に従事するという法律関係にある16歳未満の者に対して性的行為を行い,又は,この者に対する性的行為を自己に行わせた者,又は
二 被害者の地位を利用して,その施設において,教育,職業教育若しくは生活上の世話に従事するという法律関係にある
18歳未満の者に対して性的行為を行い,又は,この者に自己に対する性的行為を行わせた者
3  第1項又は第2項の要件の下で,これにより自己又は被保護者を性的に興奮させるために
一 被保護者の前で性的行為を行った者,又は
二 被保護者が自己の前で性的行為を行うように,この者を決意させた者は,3年以下の自由刑又は罰金に処する。
4  本罪の未遂は,罰する。
5  第1項第1号,第2項第1号又は第1項第1号若しくは第2項第1号と結びついて適用される第3項に該当する場合,裁判所は,行為の不法が軽微なときは,この規定に定める刑を免除することができる。

第174条a(受刑者,被収容者又は施設内の病人及び要援助者に対する性的虐待)

1  教育,職業教育,監督又は世話が行為者に委ねられている,受刑者又は官庁の命令による被収容者に対して,その地位を濫用して,性的行為を行い,又は,この受刑者又は被収容者に自己に対する性的行為を行わせた者は,3月以上5年以下の自由刑に処する。
2  病者又は要援助者のための施設に入所しており,その監督又は世話が行為者に委ねられている者に対して,その病気若しくは援助の必要性に乗じて,性的行為を行い,又は,この者に自己に対する性的行為を行わせることにより,この者を虐待した者も,前項と同一の刑に処する。
3  本罪の未遂は,罰する。

第174条b(官職の地位を利用した性的虐待)

1  刑事手続,自由を剥奪する改善及び保安処分手続又は官庁による収容命令手続に協力することを職務とする公務担当者が,手続により基礎付けられる従属性を濫用し,手続対象者に対して性的行為を行い,又は,この者に自己に対する性的行為を行わせたときは,3月以上5年以下の自由刑に処する。
2 本罪の未遂は,罰する。

第174条c(相談,治療又は世話を行う関係を利用した性的虐待)

1 相談,治療若しくは世話を行う関係を濫用して,中毒症を含む精神若しくは心の疾患若しくは障害を理由に,又は,身体的な疾患若しくは障害を理由に,相談,治療又は世話が行為者に委ねられている者に対して性的行為を行い,又は,この者に自己に対する性的行為を行わせた者は,3月以上5年以下の自由刑に処する。
2 治療を行う関係を濫用して,精神療法が行為者に委ねられている者に対して性的行為を行い,又は,この者に自己に対する性的行為を行わせた者も,前項と同一の刑に処する。
3 本罪の未遂は,罰する。
【解説】日本におけるセクシュアル・ハラスメント規定(男女雇用機会均等法)
日本の現行刑法には、セクシュアル・ハラスメントの罰則規定はない。セクシュアル・ハラスメント規定は、男女雇用機会均等法に含まれており、事業主に対して労働者の雇用環境を守ることを義務づけているにすぎない。ハラスメント行為者に対する罰則は同法にも定められていない。日本ではハラスメ ント行為者に刑事罰を加えることが困難で、しばしば「就業規則違反(懲戒処分)」が使われる。
【資料】均等法におけるセクシュアル・ハラスメント規定
第二節 事業主の講ずべき措置
(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)第十一条  事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動に より当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

(4)児童への性的虐待

第176条(子どもに対する性的虐待)

1 14歳未満の者(子ども)に対して性的行為を行い,又は,子どもに自己に対する性的行為を行わせた者は,6月以上10年以下の自由刑に処する。
2 子どもが第三者に対して性的行為を行うように,又は,子どもが第三者にこの子ども自身に対する性的行為を行わせるように,この子どもを決意させた者も,前項と同一の刑に処する。
3 犯情が特に重い事案では,1年以上の自由刑の判決を下すものとする。
4 次の各号に該当する者は,3月以上5年以下の自由刑に処する。
一 子どもの前で性的行為を行った者
二 第1項又は第2項に該当する場合以外で,子どもが性的行為を行うように,この子どもを決意させた者
三 a)子どもが,行為者若しくは第三者に対して,若しくはその前で,性的行為を行うように,若しくは,子どもが行為者若しくは第三者にこの子ども自身に対する性的行為を行わせるようにするために,若しくは
b)第184条b第1項第3号若しくは第184条b第3項に基づく行為を犯すために,文書(第11条第3項),若しくは,情報若しくはコミュニケーション技術を用いて子どもに影響を及ぼした者,又は
四 ポルノの描写又は記述を提示することにより,ポルノを内容とする録音物を再生することにより,情報若しくはコミュニケーション技術を用いたポルノの内容に近付きやすくすることにより又はポルノを内容とする話をすることにより,子どもに影響を及ぼした者
5 第1項から第4項に規定する行為のために,子どもを提供し若しくは斡旋することを約束し,又は,これらの行為をするよう他の者と約束した者は,3月以上5年以下の自由刑に処する。
6 本罪の未遂は罰する。ただし,第4項第3号,第4号及び第5項による行為はこの限りではない。

第176条a(子どもに対する性的虐待のうち犯情の重いもの)

1 第176条第1項及び第2項の場合に,行為者がこの犯罪行為を理由に5年以内に確定力のある有罪判決を言い渡されていたときは,子どもの性的虐待は,1年以上の自由刑に処せられる。
2 第176条第1項又は第2項の場合に
一 18歳を超える者が,子どもと性交し,又は,身体への挿入と結びつく類似の性的行為を,子どもに対して行い,若しくは,子どもに自己に対して行わせたとき
二 行為が複数の者により共同して行われたとき,又は
三  行為者が,行為により子どもを重い健康障害の危険若しくは身体的,精神的な発育に著しい障害を与える危険にさらしたときは,2年以上の自由刑に処する。
3 第176条第1項から第3項,第4項第1号,第2号又は第6項の場合に,正犯又はその他の関与者として,第184条b第1項又は第2項に規定する,頒布しようとするポルノ文書(第11条第3項)の対象とする目的で行為を行った者は,2年以上の自由刑に処する。
4 第1項のうち犯情があまり重くない事案では,3月以上5年以下の自由刑を,第2項のうち犯情があまり重くない事案では,1年以上10年以下の自由刑を言い渡すものとする。
5 第176条第1項から第3項の場合に,行為の際に子どもを身体的に著しく虐待し,又は,子どもを死亡の危険にさらした者は,5年以上の自由刑に処する。
6 第1項に掲げる期間については,行為者が官庁の命令に基づいて施設に収容されていた期間は算入されない。第1項の場合に,外国で有罪判決を下された行為がドイツ刑法によれば第176条第1項又は第2項に規定する行為に該当するときは,国内において有罪判決を言い渡されたものとみなす。

第176条b(子どもに対する性的虐待致死)

行為者が,性的虐待(第176条及び第176条a)により,少なくとも軽率に子どもを死亡させたときは,刑は無期自由刑又は10年以上の自由刑とする。
 

(5)強制わいせつ・強かん

第177条(性的強要,強姦)

1
暴行を用い
二 身体若しくは生命に対する現在の危険を伴う脅迫により,又は
三 被害者が保護のない状態で行為者の影響下に委ねられている状態に乗じ行為者若しくは第三者の性的行為を甘受するように,又は,行為者若しくは第三者に対して性的行為を行うように,他の者を強要した者は,1年以上の自由刑に処する。
2 犯情の特に重い事案では,刑は2年以上の自由刑とする。犯情の特に重い事案とは,原則として
一 行為者が,被害者と性交をし,又は,特に被害者を辱める,とりわけ,身体への挿入と結びつけられる(強姦),類似の性的行為を,被害者に対して行い,若しくは,被害者に自己に対して行わせたとき,又は
二 行為が複数の者により共同して行われたときである。
3 行為者が
一 凶器若しくはその他の危険な道具を携帯したとき
二 暴行若しくは暴行を加える旨の脅迫により,他の者の反抗を阻止若しくは克服する目的で,道具若しくは手段を携帯したとき,又は
三 行為により被害者を重い健康障害の危険にさらしたときは,3年以上の自由刑を言い渡すものとする。
4 行為者が
一 行為の際に凶器若しくはその他の危険な道具を使用したとき,又は
二 被害者を
a 行為の際に身体的に著しく虐待したとき,若しくは
b 行為により死亡の危険にさらしたときは,5年以上の自由刑を言い渡すものとする。
5 第1項のうち犯情があまり重くない事案では,6月以上5年以下の自由刑を,第3項及び第4項のうち犯情があまり重くない事案では,1年以上10年以下の自由刑を言い渡すものとする。
 

第178条(死の結果を伴う性的強要及び強姦)

行為者が,性的強要又は強姦(第177条)により,少なくとも軽率に被害者を死亡させたときは,刑は無期自由刑又は10
年以上の自由刑とする。
 

第179条(反抗不能な者に対する性的虐待)

1
一 中毒症を含む精神的若しくは心神的疾患若しくは障害,若しくは,深刻な意識障害を理由として,又は
二 身体的な理由で反抗不能な者を,その反抗不能状態に乗じ,この者に対して性的行為を行い,又は,この者に自己に対する性的行為を行わせることにより,虐待した者は,6月以上10年以下の自由刑に処する。
2 反抗不能状態に乗じ,反抗不能な者(第1項)が第三者に対して性的行為を行うように,又は,反抗不能な者が第三者に反抗不能な者自身に対する性的行為を行わせるように,この者を決意させることにより,この者を虐待した者は,前項と同一の刑に処する。
3 犯情の特に重い事案では,1年以上の自由刑を言い渡すものとする。
4 本罪の未遂は,罰する。
5
一 行為者が,被害者と性交し,又は,身体への挿入と結びつく類似の性的行為を,被害者に対して行い,若しくは,被害者に自己に対して行わせたとき
二 行為が複数の者により共同して行われたとき,又は
三 行為者が,行為により,被害者を重い健康障害の危険若しくは身体的若しくは心神的発育に著しい障害を与える危険にさらしたときは,2年以上の自由刑を言い渡すものとする。
6 第5項のうち犯情のあまり重くない事案では,1年以上10年以下の自由刑を言い渡すものとする。
7 第177条第4項第2号及び第178条を準用する。
 

(6)未成年者の性的行為の助長・性的虐待

第180条(未成年者の性的行為の助長)

1 第三者に対する若しくはその前での16歳未満の者の性的行為,又は,16歳未満の者に対する第三者の性的行為を
一 斡旋することにより,又は
二 機会を与え若しくは作り出すことにより助長した者は,3年以下の自由刑又は罰金に処する。その者に監護権をもつ者が行為を行ったときは,第1項第2号は適用しないものとする。ただし,監護権者が助長により教育義務に著しく違反したときは,この限りでない。
2 対価と引換えに,18歳未満の者が第三者に対して若しくはその前で性的行為を行うように,若しくは,18歳未満の者が第三者に18歳未満の者自身に対する性的行為を行わせるように,この者を決意させた者,又は,斡旋することによりこれらの行為を助長した者は,5年以下の自由刑又は罰金に処する。
3 教育,職業教育,生活上の世話,職務上若しくは労働上の関係と結びついた従属性を濫用して,教育,職業教育若しくは生活上の世話が行為者に委ねられ,又は,職務上若しくは労働上の関係の枠内で部下に当たる18歳未満の者が第三者に対して若しくはその前で性的行為を行うように,又は,この者が第三者にこの者自身に対する性的行為を行わせるように,この者を決意させた者は,5年以下の自由刑又は罰金に処する。
4 第2項及び第3項の未遂は,罰する。

第182条(未成年者に対する性的虐待)

1 強制状態に乗じ
一 18歳未満の者に対して性的行為を行い,若しくは,この者に自己に対する性的行為を行わせ,又は
二 18歳未満の者が第三者に対して性的行為を行うように,若しくは,18歳未満の者が第三者に18歳未満の者自身に対する性的行為を行わせるように,この者を決意させることにより,この者を虐待した者は,5年以下の自由刑又は罰金に処する。
2 18歳を超える者が,対価と引換えに,18歳未満の者に対して性的行為を行い,又は,この者に自己に対する性的行為を行わせることにより,虐待した場合は,前項と同一の刑に処する。
3 21歳を超える者が
一 16歳未満の者に対して性的行為を行い,若しくは,この者に自己に対する性的行為を行わせ,又は
二 16歳未満の者が第三者に対して性的行為を行うように,若しくは,16歳未満の者が第三者に16歳未満の者自身に対する性的行為を行わせるように,この者を決意させることにより,この者を虐待し,その際に,この者に対して,この被害者の性的自己決定能力の不足を利用したときは,3年以下の自由刑又は罰金に処する。
4 本罪の未遂は,罰する。
5 第3項の場合,行為は,告訴に基づいてのみ訴追される。ただし,刑事訴追について特別な公の利益があるために刑事訴追機関が職権による介入が必要と考えるときは,この限りでない。
6 第1項から第3項の場合,行為の対象となった者の態度を考慮し,行為の不法が軽微なときは,裁判所は,これらの規定に定める刑を免除することができる。
 

(7)定義等

第184条(定義)

この法律において,
1 性的行為とは,いずれも,一定の重大性のある保護法益に関する行為のみをいう。
2 他の者の前での性的行為とは,事象を知覚する他の者の前で行われる行為のみをいう。

第240条(強要)

1 暴行を用い,又は重大な害悪を加える旨の脅迫により,人に行動,受忍又は不作為を違法に強要した者は,3年以下の自由刑又は罰金に処する。
2 略
3 本罪の未遂は,罰する。
4 犯情の特に重い事案では,刑は6月以上5年以下の自由刑とする。犯情の特に重い事案とは,原則として,行為者が
一 他の者に性的行為を強要したとき
二,三 略
 
(出典)法務省資料 http://www.moj.go.jp/content/001162259.pdf