【現代アフリカ史21】おわりに・参考文献

掲載:2015.09.24 執筆:富永智津子

おわりに

20世紀を中心とした約100年間のジェンダーに関わる歴史的変化を、変化の契機に注目しながら紹介してきた。アフリカ大陸にはあまりにも多様な民族が、多様な文化を発展させてきており、それらをすべてカヴァーすることは不可能である。しかも、参照できる資・史料が限られているため、いかなる意味でも系統的な叙述ではない。政治史や経済史が、もっぱらいわゆる産業化した近代セクターのみを対象としているのに対し、本稿では、狩猟採集や農耕牧畜を行っている社会まで視野に入れた結果でもある。しかし、それが「アフリカ」の現実なのである。

21世紀の国連の「ジェンダー平等」にむけての掛け声は、たしかにアフリカにまで届いている。しかし、それは近代セクターに身を置く政府レヴェルと一部のエリート層にとどまっている。そこから除外された多くの人びとにまでは届いていない。それは、西欧的な個人レヴェルの権利と共同体原理との緊張関係と読み替えてもいいだろう。この二元化された価値観にどのように橋をかけ調整していくかは、21世紀のジェンダー秩序を展望するにあたっての重要な課題であり、しかもアフリカだけの問題ではないことは明らかである。その際、1930年代の一部の宣教師や社会人類学徒がいみじくも述べているように、外部からの介入は傲慢なひとりよがりの行為であり、変化はアフリカ社会の草の根から起きてこそ根付くものである。

ジェンダー関係の変化の契機となった歴史的事象は他にも多々ある。いや、あらゆる歴史的変化は、ジェンダー関係に影響を与えていると言ってよい。アフリカ史に関しても、それらを再構築し、マクロレヴェルの歴史にどうつなげていくか、あるいは、マクロレヴェルの歴史過程への分析視点にどう取り込んでいけるかが問われている。

img007

 

全体について→【現代アフリカ史】アフリカ史100年を「ジェンダー視点」で切り取る(富永智津子)

【現代アフリカ史20】内戦と性暴力

参考文献

今村薫 2010『砂漠に生きる女たち―カラハリ狩猟採集民の日常と儀礼』どうぶつ社.

ウィンター、エドワードH.1968『“月の山”の彼方―アフリカ一夫多妻の記録』米山俊道訳、宮川書房.

栗田禎子  2006「オムドゥルマーンの娘たち―19世紀スーダンのマフディー運動と女性」富永智津子・永原陽子編『新しいアフリカ史像を求めて―女性・ジェンダー・フェミニズム』御茶の水書房.

近藤英俊 2007「瞬間を生きる小の謎、謎めくアフリカ現代」安倍年晴・小田亮・近藤英俊編『呪術化するモダニティ―現代アフリカの宗教的実践カラー』風響社.

小馬徹 1996「父系の逆説と「女の知恵」としての私的領域―キプシギスの「家財産制」と近代化」和田正平(編著)『アフリカ女性の民族誌―伝統と近代化のはざまで』明石書店.

小馬徹 2000「キプシギスの女性自助組合運動と女性婚―文化人類学はいかに開発研究に資することができるのか」青柳まちこ編『開発の文化人類学』古今書院.

小馬徹 2014「ケニア新憲法とキプシギスのシングルマザーの現在」椎野若菜編『境界を生きるシングルたち』東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所.

佐藤俊 1996「レンディーレ社会の婚姻と女性」和田正平(編著)『アフリカ女性の民族誌―伝統と近代化のはざまで』明石書店.

椎野若菜  2008『結婚と死をめぐる女の民族誌』世界思想社.

ショスタック、マージョリー 1994『ニサ―カラハリの女の物語』麻生九美訳、リプロポート.

杉山祐子  2007「アフリカ地域研究における生業とジェンダー」宇田川妙子・中谷文美編『ジェンダー人類学を読む』世界思想社.

杉山祐子 1996「離婚したって大丈夫―ファーム化の進展による生活の変化とベンバ女性の現在」和田正平(編著)『アフリカ女性の民族誌―伝統と近代化のはざまで』明石書店.

サンセリ、タデウス 2006「マジマジ反乱(タンザニア)再考―ジェンダー史とナショナリスト歴史学の伝統」富永智津子・永原陽子編『新しいアフリカ史像を求めて―女性・ジェンダー・フェミニズム』御茶の水書房.

セハス、モニカ 2006「女性の眼でみるアパルトヘイト―一九五〇年代の「南アフリカ女性連盟」(FSAW)の事例」富永智津子・永原陽子(編)『新しいアフリカ史像を求めて―女性・ジェンダー・フェミニズム』御茶の水書房.

田中二郎 1994『最後の狩猟採集民―歴史の流れとブッシュマン』どうぶつ社.

田中二郎 2008『ブッシュマン、永遠に。― 変容を迫られるアフリカの狩猟採集民』昭和堂.

寺嶋秀明 1996「エフェ・ピグミーの女性と結婚制度」和田正平(編著)『アフリカ女性の民族誌―伝統と近代化のはざまで』明石書店.

戸田真紀子 2014『貧困、紛争、ジェンダー―アフリカにとっての比較政治学』晃洋書房.

中村香子「スルメレイが手にした選択肢」落合雄彦編著『アフリカの女性とリプロダクションー国際社会の開発言説をたおやかに超えてー』晃洋書房、2016年所収

中村香子「社会の舞台裏を牛耳る―ケニアの牧畜民サンブル社会における年長女性の役割」田川玄・廣田勝彦・花渕馨也編『アフリカの老人ー老いの制度と力をめぐる民族誌』九州大学出版会,2016.

端信行 1996「サラリーマン女房論」和田正平(編著)『アフリカ女性の民族誌―伝統と近代化のはざまで』明石書店.

浜本満 2014『信念の呪縛―ケニア海岸地方ドゥルマ社会における妖術の民族誌』九州大学出版会.

浜本満 2001『秩序の方法』弘文堂.

プレスリー、コーラ・アン、1999 『アフリカの女性史ーケニア独立闘争とキクユ社会』未來社

三成美保  2015『同性愛をめぐる歴史と法―尊厳としてのセクシュアリティ』明石書店.

ムビリニ、マージョリー 2006 「罪深き人々とアウトサイダーたち―ルングウェ県(タンザニア)におけるエイズのドラマ」富永智津子・永原陽子(編)『新しいアフリカ史像を求めて―女性・ジェンダー・フェミニズム』御茶の水書房.

和田正平 1988『性と結婚の民俗学』同朋舎.

Amoo, J.W.A.,1946 “The Effect of Western Influence on Akan Marriage,” Africa, vol.16, no.3.

Banda, Fareda, 2005, Women, Law and Human Rights: An African Perspective, Hart Publishing, Oxford-Portland Oregon.

Cohen, Dara Kay, 2013 “Explaining Rape during Civil War: Cross-National Evidence (1980~2009),” American Political Science Review, vol.107, no.3, August.

Crosby, E.H.,1937 “Polygamy in Mende Country,” Africa, vol.10, no.3.

Culwick, A.T. & G.M., 1934 “The Functions of Bride-Wealth in Ubena of The Rivers,” Africa, vol.7, no.3.

Culwick, G.M., 1939 “New ways for old in the Treatment of adolescent African Girls,” Africa, vol.12, no.49.

Davidson, J. 1948 “Protestant Missions and Marriage in the Belgian Congo,” Africa, vol18, no.2.

Ellovich, Risa, S., “Ivorian Women and the Lau: A Dioula-Bete Comparison,” Paper presented at the Twenty-Third Annual Meeting of the African Studies Association, Philadelphia, Pennsylvania, October 15-18,1980.

Herskovits, Melville, J., 1937 “A Note on ‘Woman Marriage’ in Dahomey,” Africa, vol10, no.3.

Kayamba, H.M., 1932 “The Modern Life of the East African Native,” Africa, vol.5, no.1.

Krige, E.J., 1936 “Changing Condition in Marital Relations and Parental Duties among Urbanized Natives,” Africa, vol9, no.1.

Little, K.L.,1948 “The Changing Position of Women in the Sierra Leone Protectorate,” Africa, vol.18, no.1.

Mckittrick, Meredith,1999 "Faithful Daughter, Murdering Mother: Transgression and social Control in Colonial Namibia," Journal of African History, 49,pp.265-283.

Meek, D.K., 1936 “Marriage by Exchange in Nigeria: A Disappearing Institution,” Africa, vol. 9, no.1.

Njambi, Wairimu Ngaruiya and E.O’Brien, 2005 “Revisiting Woman-Woman Marriage: Notes on Gikuyu Women,”in: Oyeronke Oyewumi (ed.), African Gender Studies: A Reader, Palgrave Macmillan.

Parrinder, E.G.S., 1947, "Christian Marriage in French West Africa," Africa, vol.17, no.4.

Shadle, Brett L., 1999 "Changing Traditions to meet current altering Conditions: Customary Law, African Courts and the Rejection of Codification in Kenya, 1930-60," Journal of African History,40 .

Shepherd, Gill,1987 “Rank, gender, and homosexuality: Mombasa as a key to understanding sexual options,” in: Pat Caplan (ed.), The Cultural Construction of Sexuality, Routledge, sondon & New York.

Schapera, I.1933 “Premarital Pregnancy and Native Opinion―A Note on Social Change,” Africa, vol.6, no.1.

Strobel, Margaret, 1979 “Muslim Women in Mombasa, 1890-1975,” Yale University Press, New Haven and London.

Swantz, Marja-Liisa, 1986 Ritual and Symbol in Transitional Zaramo Society with special referende to Women, Scandinavian Institute of African Studies, Uppsala.

Tew, Mary, 1951 “A Form of Polyandry among the Lele of the Kasai”, Africa, vol.21, no.1.

Thomas, Lynn M.1996 “’Ngaitana’: The Gender and Generarional Politics of the 1956 Ban on Clitoridectomy in Meru,Kenya,” Gender and History 8(3):338-363.

White, Luise, 1990a The Comforts of Home: Prostitution in Colonial Nairobi, The University of Chicago Press, Chicago and London.

White, Luise, 1990b "Separating the Mem from the Boys: Constructions of Gender, Sexuality, and Terrorism in Central Kenya, 1939-1959," International Journal of African Historical Studies, 23, 1.

Wilson, Godfrey, 1936 “An African Morality,” Africa, vol.9, no.1.

Young, T. Cullen, 1935 “How far can African Ceremonial be incorporated in the Christian system? “ Africa, vol.8, no.1.